43色 幼馴染と消えた記憶

 モリメさんの言葉にわたしたちは驚愕した。


「緑風さんの記憶を『消した』ってどういうことですの?」

 

 驚いて声が出なかったわたしに変わってフラウムが聞く。言葉の意味がわからない訳じゃないけど正直理解できなかった。


「えっと…確信は持てないけど…たぶん…おそらく…わたしのせいかもしれない…で、でも、あの時は『なにもなかった』から…」


 モリメさんは青ざめていて言葉が途切れ途切れになっていた。


「はーちゃん落ち着いてゆっくりでいいからしってることを教えてもらってもいいかな?」


 震えるモリメさんにシーニはやさしくいう。


「う、うん」


 シーニにいわれ、モリメさんは深呼吸をすると思い出すように言葉を並べていく。


「さっきいってた、クウくんにかかっている『記憶操作』の魔法をかけたの『わたしかも』しれないんだ」

「『かも』ってどういうことだい?」


 確信が持てていない感じで話すモリメさんにレータが聞く。


「わたしも正直魔法が『成功』してるなんて思ってなかったんだ」

「成功?」

「うん、確かあの時…」


 そういうとモリメさんは話はじめる。



 《10年前》


「ねぇ、クウくん!」

「なに?はーちゃん」


 わたしは幼馴染のクウくんと最後の遊びをしていた。なんで最後っていうのか、それはね


「わたしたちもうはなればなれになっちゃうね」

「うん、ちょっと…ううん…すごくさみしいな」


 わたしは家族の事情でどこか遠くに引っ越すことになっちゃったんだ。だから、クウくんともお別れ…


「ねぇ、クウくん、わたしさみしくない方法しってるよ」

「え?ほうとう?」

「うん!パパとママが使ってるあるおまじないがあるんだ!」

「おまじない?」


 クウくんは首をかしげながらいう。


「だから、今からそのおまじないをクウくんにしてもいいかな?」

「うん!いいよ」


 クウくんは笑顔でおっけいしてくれる。


「じゃあ、まってね。家の本に書いてあった方法を紙に書いてきたからひとつずつやってくね」


 わたしはもってきた紙をよみながらやっていく。


「えっとね、まず、わたしとクウくんが大切なモノを用意します」

「ぼくとはーちゃんの大切なもの…あ、これなんてどうかな」


 クウくんはひとつのチップの用なモノを取り出す。それは、わたしとクウくんが一緒に遊んだゲームのカセットだった。


「うん!いいね!じゃあ、つぎは、クウくんの頭に片手をおいてもうひとつの手でそれに魔力を込めます。そして、最後に…」


 わたしはクウくんの頭に左手をおき右手でカセットに魔力を込めながら『呪文』を口にする。


「『ノシタワヲトコテレスワ』」


「?」

「『デリート』」


 わたしがクウくんにかけたおまじない、それは『わたしの記憶を消す』ことだ。なんでそんなことをしたって?それはね、クウくんが悲しまないようにするためなんだ。実は、わたしの引っ越し先が思ったよりも遠い場所で、もしかしたらもう会えないかもしれないんだ。だから、クウくんからわたしの記憶を消してしまえばクウくんは悲しまないしわたしも気持ちに踏ん切りがつくから…じゃあ、またね。


「これでいいのかな?『はーちゃん』」

「!?」


 あれ?『消えてない』?


「どうしたの?」


 なぜか驚いているわたしをふしぎに思ったクウくんが聞いてくる。わたしは慌てるけど、平静を装いながらいう。


「あ、ううん、なんでもないよ!」

「これでおまじないはいいのかな?」

「え、えっと…うん!これでいいよ!」


 わたしはなにがどうなってるのかわからなくてついウソをついてしまった…。


「これでさみしくないね」

「う、うん、そうだね」


 笑顔でいうクウくんにわたしは胸が痛くなった。


 そして、次の日にわたしは遠くに引っ越した。





 一通り話終えたモリメさんは口を閉じた。


「………」 


「その、なんだ、つまりその時は『なにも起こらなかった』ってことかい?」

「たぶん」


 レータが話をまとめてくれて、それにモリメさんはそう一言返す。


「煮えきりませんわね」

「おそらくじゃが『遅延型の魔法』だったんじゃろうな」


 おねえさんは顎に手を当てながらいう。


「ちえんがた?」

「かけてから遅れて発動するタイプのことだね」

「なるほど!足をタンスの角にぶつけて3秒後に痛みがくるってことね」

「ビミョーに違うけどまあ、そんな感じ」


 よくわかってないわたしにシーニはやさしく教えてくれた。


「じゃが…妙じゃのう『記憶操作』の魔法はそうやすやすと扱える品物ではないのと、それ関連の本が一般の家にあるとは不思議じゃのう」


 おねえさんは眉をひそめながらいう。


《『メモリ一族』の血縁だからだな》 


 突然わたしの頭の中に声が聞こえてきた。


「え?なに!?」

「おや?この『声』は?」


 モリメさんとおねえさんにも聞こえたようだ。


「なんだい、なにか知ってるのかい?」


 レータは自分の持っていたカバンに向かって話かける。


《あくまで今までの状況を聞いてのワタシの推測だ》


 レータのカバンからカワウソの人形がゴソゴソと出てきた。


「え!?人形!?」


 それをみたモリメさんはすごい驚く。


「カワサキチャチャだよ」

「え?なんて?」


 クロロンの言葉にモリメさんは聞き返す。


「マモだね」

「ん?どっち?」


 わたしの説明にもモリメさんは困惑していた。


《一応今はマモで通している》

「なるほど、お主が話に聞いていたマモさんかのう」


 おねえさんは冷静に話を進める。


「さて、マモさんや早速じゃが教えてもらってもいいかのう?」

《正直ワタシがキサマラに教えてやる義理はないが、昔のよしみで教えてやる》

「昔のよしみ?」

《さっきもいったがおそらくいや、面影があるな、その女は『メモリ一族の血縁』だろうな》

「メモリ一族?」


 シーニが聞き返し、わたしもなんのことかわからずに頭にハテナを浮かべるけど、みんなも知らないみたいだ。


《今はその一族がどうなってるかしらないが、昔、記憶を操り戦う厄介な一族がいた。その一族はいわば敵のジョーカーとしても使われていたな》

「察しはつくがその一族はどうなったのじゃ?」


 おねえさんだけはなにかしっている感じで返すとマモが答える。


《全員とはいわないが、敵からも味方からも恐れられたチカラだったから淘汰されたな》

「とうた?」

「排除ってことだね」

「え?」


 衝撃な言葉にわたしを含めたみんなが驚く。


《その生き残りの末裔がその女だろうな》

「なるほど、確かにわたしゃもおばあちゃんから聞いて少しだけ知っていたがやはり生き残りはおったのじゃのう」

「え?え?ごめん、いきなり話が飛んで意味がわからないよ」


 顎に手を当て考えるおねえさんとは違いモリメさんはすごく同様していた。


「おっと、すまんすまん。話をまとめるとしようかのう」


 ひとりで考えていたおねえさんはハッと我に帰ると説明をしてくれる。


「つまりじゃ、嬢さんや、お主の使った魔法はかなり珍しい魔法じゃったということじゃ、それにわたしゃもおばあちゃんの書斎で少しだけ文献を読んだことがあるが使えるものが限られているかなり珍しい魔法だと記載されておったのう」

「じゃあさ、その魔法の解除方法はどうすればいいの?」


 シーニがマモに聞く。


《そうだな、ワタシもそこまで詳しい訳じゃないが、突然魔法が解けることもあるが基本は条件付きで解くといっていたな》

「それはなに?」

《ここまでいえばワタシが答えなくてもわかるだろう》

「なんだよ、いじわるだな」

「あ、もしかして…」


 マモの言葉にモリメさんはなにかに気づいたのかハッとする。


「クウくん!カセットだよ!」

「え?」

「あ、ごめん、わたしが消しちゃったから覚えてないかもしれないけど、わたしとクウくんがよく遊んでた『ゲームのカセット』だよ!」


 モリメさんは興奮気味に必死に訴える。


「確かに先程の話でゲームカセットに魔力を込めたって言ってましたわね。しかし、それは失敗したのではないんですの?」

「いや、むしろ逆かもね」

「え?」


 レータはメガネをクイッとやりながらビシッといい放つ。


「魔法は『成功』していて、そのカセットに魔法を解く鍵があるってことさ!」

「じゃあ、そのカセットをみつければクロロンの記憶も戻るかもしれないってことだね」


 わたしは指をパチンと鳴らしながらいう。


「でも、どのカセットなのかな?」

「大丈夫!そこはわたしが覚えてるから!」


 首をかしげるクロロンにモリメさんは元気にいう。


「じゃあ、さっそくクロロンの家に探しに行こう!」


 わたしたちはシーニの研究所を後にしてクロロンの家に向かった。

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