32色 丸内林檎の逃亡劇
という訳で今に至ります。
「さて、どうしましょうか…」
私は頭をフル回転させて考える。すると、ひとつの疑問が頭をよぎった。
「こんな壁ありましたっけ?」
そして、ある結論に辿りついた。
「なるほど…」
「どうしたの?」
「トウマくん、この壁に突撃します。」
「え!?どういうこと!?」
私の言葉にトウマくんは当然の反応を示す。
「説明は後です」
私は壁に向かって走りだした。トウマくんは後ろに続く。
「りんごちゃん!ぶつかっちゃうよ!?」
「いいんです」
壁に向かって走り、私達はそのまま壁に大激突!………しなかった。壁にぶつかるどころか壁を《すり抜けた》のだ。
「いない!?」
「どこに逃げた!?」
「他の道を探せ!」
私がすり抜けた壁の向こうでは警官達が私を見失い離れて行った。
「さっすがマルちゃん、やっぱり気付いてくれたね」
すると、私の前にふわふわと宙に浮いている少年が現れた。
「まあ、少し焦りましたけどね」
私は一息つきながら返す。
「いや~やっぱりボクとマルちゃんはココロとカラダが通じ合ってるね~」
「別に通じ合ってはないです」
私は少し適当に返す。
「まあ、とにかく今回は助かりました。ありがとうございます、ノワル」
この宙にふわふわと浮かんでいる少年は
「ところでノワル、《今日》はどうしてここにいるんですか?」
「え~そんなの決まってるじゃん!《今日も》大好きなマルちゃんの様子をみたり、後をつけたりしようと思ってさ~」
「そんな堂々と『ストーカーしてました』と言う人は初めてです…」
…まあ、なんというか傍からみたら《やばい奴》ですが、私とトウマくんの通う学校の一応友達でふわふわと浮かんでいるからといって別に幽霊というわけではありません。本人曰くこれが『一番落ち着く』らしいです。
「いや~今日はなかなか面白いことになってるねぇ~」
「そんなのんきな状況ではないですけどね」
のんきに云うノワルに私はため息混じりに返す。
「ねえ、りんごちゃんどういう事なの?」
トウマくんはまだ状況が理解出来ていない様子。
「そうですね…どう説明しましょうか」
私は顎に手を当てて考える。
「私とトウマくんはここの商店街で産まれ育ちましたよね?」
「うん」
「つまり、この路地裏の地形もしっかり頭にはいってますよね?」
私は人差し指を頭に当てる。
「うん、この道は小さい時によく遊んだからよく知ってるよ」
「はい、そうです。私達はその地形の記憶を頼りに逃げていました。なのに、何故か《あるはずのないもの》つまりこの目の前に壁が現れました」
「あまりに慌て過ぎて道を間違えちゃったかと思ったよ」
「ええ、私も実際そう思いました。だけど、昔馴染みの道を間違える訳ありませんよね?」
「ということは」
「結論は一つこの壁は《偽物》だということです」
私が壁に触れようと手を伸ばすと私の手は壁をすり抜けた。
「そう、この壁はボクが造った幻の壁ってことだよ~」
ノワルは誇らしげに云う。
「なるほど、ノワルが幻の壁を造って僕とりんごちゃんを助けてくれたんだね。ありがとう、ノワル」
トウマくんはノワルにお礼をする。そんなトウマくんにノワルは笑いながら返す。
「あはは~でも、『僕がりんごちゃんを守るよ』って言っておいて始めからピンチだもんね~」
「うっ…ごめん…」
「どこから観てたんですか」
私は少し呆れながら返すとノワルは答える。
「え~と、へたれアランがマルちゃんの家に行った辺りからかな~」
「一時間位前じゃないですか」
ちなみにマルというのは私でアランはトウマくんのことです。丸内の丸からマルと荒谷の荒からアランみたいな感じです。
「へたれ…」
トウマくんは少し落ちこむ。
「大丈夫ですよ。トウマくんは《ただのへたれ》じゃなくて《頼れるへたれ》なんですから」
私はトウマくんを励ます。
「へたれに変わりはないんだね…」
「さっすがマルちゃん、まったくフォローになってない無自覚な毒舌だね~」
「それ、褒めてるんですか?」
「うん、ボクだったらゾクゾクしてコウフンしちゃうよ♪」
「ノワル、その言い方だと《ヘンタイ》っぽいのでもう少し言い方を変えたほうがいいと思います」
「どんな言い方をしても同じだと思うよ」
トウマくんが軽く突っ込む。
「まあ、とにかくこれからどうしましょうか」
私は再び顎に手を当てて考える。
「とりあえずあのムカつく刑事のおじさんを殴りにいく~?」
ノワルは右手を握り締める。
「それでは何の解決にもなっていません」
「むしろ罪を重ねてるね」
「宛てもないのに逃げだしたのか…本当に馬鹿な奴だ」
呆れたような声がして私達は反射的に身構えた。そこには、黒崎さんが腕を組んで路地裏に置いてあるタル箱に腰かけ壁にもたれ掛かっていた。
「シーニちゃんの彼ピッピだ~」
「彼ピッピじゃない」
「よかった、カレシさんか」
「だから、彼氏じゃない」
「なんだカレシーニさんでしたか、警察に見つかったかと思って身構えてしまいました」
「カレシーニってなんだ!それに人の名前っぽく言うな!…ていうか俺は一応警察組織と同じ様なものだぞ」
黒崎さんは突っ込みながらもタル箱から立ち上がる。
「お前を捕まえに来たのかもしれないんだぞ」
そして、私に指を指し少し脅す様に云う。
「大丈夫ですよ。証拠不十分で本当に犯人かも分からない私をカレシーニさんが捕まえる訳ないですから」
「ふん…そうか」
私は冷静に考えを述べると黒崎さんは口角を少し上げて笑う。
「だが、その呼び方定着させようとするな」
そして突っ込む。
「そういえばカレシーニさんはどうしてここがわかったんですか?」
「そうだよ~カレシーニちゃん」
トウマくんは真剣な顔でノワルはニヤニヤしながら云う。
「お前らもその呼び方やめろ!それと野和、お前は絶対バカにしてるだろ」
「そんなことないよ~カレシーニちゃん♪」
「まあ、ナゼ俺がこの場所が分かったかの理由はコレだ」
黒崎さんは胸ポケットから四角い小さな端末を取り出した。その画面の真ん中には赤色の丸い点がチカチカと点滅していた。
「それはなんですか?」
「ストーキングアイテムじゃない~?」
「追跡機器こと《ツキマト―ウくん》だ」
「ストーキングアイテムですね」
「追跡機器だ」
黒崎さんは言い張る。
「さっき丸内の羽織にこっそりと発信元の発信機こと《ハシモトくん》を着けて置いた」
「ストーキングアイテムですね」
「追跡機器だ」
黒崎さんは意地でも言い張る。
私は自分の羽織を確認すると小さなビーズみたいなものが羽織の裾に付いていた。
「へー。これは付いても中々気付けませんね。これが追跡アイテムとはMHKはすごい技術ですね」
「いや、これはMHKのではなく俺がアオイに頼んで造ってもらったんだ」
「シーニにですか?」
「ああ、正直組織から支給される道具はかなりごちゃごちゃしてる上に持ち運びが面倒なんだ。だから、アオイに頼んでコンパクトにしてもらった」
「さすがシーニです。MHK組織の技術を簡単に上回るとは」
「マルちゃんを着け回せる道具ってうらやましいな~」
「ノワル少し黙っててもらえます?」
ノワルは右手の親指と人差し指で丸をつくり二コリと笑う。
「まあ、これからどうすればいいか分からないなら俺に着いてこい。どのみちここも奴らが来るからな」
黒崎さんは私達に背を向け歩きだした。
「?!助けてくれるんですか?」
「別に助ける訳じゃない《100%犯人じゃない奴》を《助ける》必要はない。…つまり、俺の目的は《間違いを正しに行く為》にお前達に手を貸してやるってことだ」
黒崎さんはそう答えるとまた歩みを進めて行った。
「クロちゃんって、な~んかえらそうだよね~いつものことだけどさ~」
「でも、僕たちを助けてくれるみたいだから」
「そうですね。今の私は追われている身ですから下手に動くよりカレシーニさんに着いて行ったほうが良さそうですね」
「カレシーニ言うな」
離れた場所にいてもしっかりと突っ込みが返ってきた。
「ところで『着いてこい』と云うことは黒崎さんは何処かに《宛て》でもあるんですか?」
私達は黒崎さんの後ろを歩きながら(ノワルは空中を浮遊しながら)私は聞く。
「『何処に行くか』と聞かれたら現時点では《あそこ》しかないだろう」
「なるほどやはり《あそこ》ですか」
「え?《あそこ》ってどこ?」
「なんかいやらしい響きだね~」
私と黒崎さんの云う《あそこ》というのは
「《セーラン警察署》だ」
「えぇ!?警察から逃げてるのに警察署に向かうの!?」
「『木を隠すなら森の中』『人を隠すなら人混みの中』ってことです」
「なるほど、『逃亡者を隠すなら警察署の中』ってことだね~」
「そっか、警察から逃げてるのにわざわざ警察署に行くなんて考えないよね」
「ええ、ですが、目的はそれだけではないです」
私は説明を続ける。
「おそらく、この事件の情報も警察署の中にあると思います。なので、警察署に行って情報を確保しに行くんです」
私達は周りを警戒しながら進み話を続ける。
「ですが、それにはいくつか問題が発生するんです」
「問題?」
「もし、無事にセーラン警察署に辿りついたとしても私達には情報を手に入れる手段がありません」
「まあ、ボクらはまだ子供だからねぇ~」
ノワルは陽気に笑った。私の言葉にトウマくんは何かを察したのか聞いてくる。
「問題が『あった』ということは問題が『解決した』ってこと?」
「ええ、理解が速くて助かります」
私はそういうと前を歩く黒崎さんに目を向ける。
「なんだ?」
黒崎さんは視線に気付いたがこちらを振り返らずに云う。
「黒崎さん、私達がこのまま行って警察署の中を歩き周る訳にも行きませんよね?ということは何かあるんじゃないですか?」
「なにが言いたい?」
「そうですね、例えばシーニの造った《潜入アイテム》とかあるんじゃないですか?」
私は少し探る様に聞く。
すると、黒崎さんは肩をすくめ「白々しい詮索はやめろ」と歩みを止めこちらに振り返った。
「まあ、後から渡すつもりだったが先に渡しておくか」
黒崎さんは懐に手を入れあるものを取り出した。
「正直これはあまり使いたくなかったんだがな」
黒崎さんが取り出したのは、とても可愛らしいタマゴのキャラクターキーホルダーだった。
「これって」
「『タマタマン』のキーホルダーですね」
「へ~クロちゃんタマタマン好きなんだ~」
「ちっ違う!これはアオイが潜入アイテムとバレない様にこういう感じになっていてだな」
タマタマンとはタマゴの主人公、タマタマンの愉快、爽快で楽しい日常を描いた毎週末の夕方にやっている国民的人気アニメです。
「まあ、話を戻すが」
黒崎さんは咳払いをする。
「これはただのタマタマンキーホルダーじゃなく『スケスケタマタマンキーホルダー』だ」
「うわっいやらしい」
「このキーホルダーを着けてスイッチを入れると…」
黒崎さんはキーホルダーのスイッチを入れた。すると、
「!消えた!?」
黒崎さんは一瞬姿を消したがすぐに姿を現した。
「このように他の奴からはまったく視えなくなる」
「すごいです、完璧な潜入アイテムですね。見た目を除けば」
「うんうん、これでマルちゃんの家に潜入出来るね~」
「先にあなたの存在を消しましょうか?」
「これは1個しかないから丸内に渡しておく」
私は黒崎さんからタマタマンキーホルダーを受け取る。
「そして、荒谷と野和は警察署の外で待機だ」
「えっ待機ですか?」
「俺は姿を消す必要はないがアイテムが1個しかない以上しかたがない」
「わかりました…」
「ちぇ~ちょっとつまんないなぁ~」
二人とも残念そうに云う。
「あの、黒崎さん」
「なんだ?」
「『タマタマン』じゃなくて『タマタ男爵』バージョンがいいです」
「我慢しろ」
黒崎さんは話を続ける。
「このアイテムは本来なら最高3日くらい姿を消せるが、今は多分1時間ほどしか姿を消せないだろうな」
「?どうしてですか?」
「充電をしてないからだ」
「何でしとかないんですか」
私のツッコミに何故か「ふん」とすまし顔で返すと、そのまま、歩みを進める。
そして、私達は追っての警察達の眼を潜り抜けセーラン警察署に辿りついた。
「丸内、姿を消す前にこれを着けろ」
黒崎さんは私に何かを投げ渡してきた。私はそれを右手でキャッチし確認をすると、肩耳のイヤホンと小型マイクだった。
「これは、無線機ですか?」
「ああ、お前が姿を消したら俺にも何処にいるか分からなくなるからな。姿を消した後は出来るだけ俺から10メートル以上離れるな」
「はい、分かりました」
私は黒崎さんに返事を返しながらイヤホンを右耳につけ小型マイクを服の襟に着けた。
「さっきも云ったがお前達二人はここで…いや、あそこの中で待機していろ」
黒崎さんは少し離れたファミレスを指さす。
「えっ!?あそこで待機ですか?」
「この場所でコソコソしていると怪しまれるだろうからな堂々と食事をしといたほうが怪しまれないだろう」
「でも、ボクお金一銭も持ってないよ~」
「僕もです」
「…ったく、しょうがないな…」
黒崎さんは懐に手を入れるとがま口の財布を取り出し、そこから二千円をトウマくんに渡した。
「これで足りるだろう?」
「ありがとうございます」
「あんがと~クロちゃん~♪」
「ついでにこれも渡しておく」
黒崎さんはトウマくんに携帯電話を渡した。
「俺達が出てきたら集合場所をそれに連絡する」
「おけおけ」
「よし、そろそろ行くか」
「りんごちゃん気を付けてね」
「はい、気を付けて行ってくるとします」
「丸内そろそろスイッチを入れろ」
「了解です」
私はキーホルダーのスイッチを入れる。
黒崎さんは私の姿が視えなくなったのを確認すると、「よし、行くぞ」云い歩き出し私もそれに続く。
丸内林檎潜入作戦開始です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます