30色 天海藍の観察日記2

 わたしの名前は天海藍あまみ らん。どこにでもいる普通の学生だ。魔導学はすこし優秀な方かもしれないけど一番というわけではなく強いていうならモノを浮かせる魔法が得意だ。今日も今日とて平凡な日々を過ごしていた。


「ただいまー」


 鍵の開いているドアを開けて家にはいり姉の研究所の前を通ると例の如く声が聞こえてきた。


「キミとは本当に意見が合わないね」

「何を今更分かりきったことをいってるんですの?」


(あれ?いつもと違う声だ)


 そう思い、こっそりと入口から覗くとおにいちゃんとクウタくん、そしてアカリさんの他に綺麗で清楚そうな女性とメガネの男性が睨みあっていた。


「二人とも落ち着いてお茶でも飲んで落ち着こうよ」

「そうそうシーニの紅茶がおいしくなくなっちゃうよ」


 それをクウタくんとアカリさんが止めていた。おにいちゃんは興味がないといった感じでお茶を飲んでいておねえちゃんは離れた場所で仕事をしているみたいだ。


「あの二人またやってるの…」


 黄瀬楓夢きのせ ふうむさんと日紫喜怜太にしき れいたさん。あの二人はいつもいがみあっているみたいだ。正直、人の家にまできてケンカしないでほしいよね…。


「今日のケンカの原因はなんだ?」


 わたしは傍観しながら行く末を見守る。


「紅茶はミルクティーのほうが美味しいに決まっている」

「いえ、ロイヤルミルクティーのほうが美味しいですわ」


 ええ!?そんなことでいがみあってたの!?申し訳ないけど正直どうでもいいよ!


「ロイヤルミルクティーなんて手間が掛かるだけじゃないか!」

「その手間をかけての味がいいんですの!ミルクティーとは違いミルクの舌ざわりがいいんですの!ミルクティーはミルクを後から入れただけではありませんか!」

「逆にそのシンプルさがいいんじゃないか!ロイヤルミルクティーは逆に手間がかかり過ぎなんだよ!時間の無駄じゃないか!」

「貴方みたいなせっかちメガネにはわかりませんわ!手間暇をかけたからこそ味わえる至高の味が!」


 なんだろう、こだわりがあるのはわかるけど、すごくどうでもいい。犬派か猫派ぐらいどうでもいい。


「ぼくはどっちもいいと思うよ」


 クウタくんが止めにはいった。


「どっちもいいじゃ納得出来ないんだよ。じゃあ、クウタ、キミはどっちがいいんだい?」

「えーっと…」

「そうですわ!緑風さんはっきりさせてください」


 二人に言い寄られクウタくんはたじたじしてしまう。


「ぼくはストレートティーかな」


 第三勢力でちゃったよ!


 クウタくんなんで勢力をさらに分断させちゃったの!?


「わたしはレモンティーかな」


 第四勢力もでちゃったよ!


 えっ!?今、ミルクティーとロイヤルミルクティーの戦争だったよね!?援軍くるところだったよね?なんでストレートティーとレモンティーの軍がやってきたの!?


「それとぼくミルクティーとロイヤルミルクティーのミルクの後味が苦手なんだよね」


 爆弾発言しちゃったよ!


「わかる。わたしも飲んだあとのにおいもちょっと苦手だな」


 二連鎖!


「あ、でも、牛乳は嫌いじゃないから安心して」


 クウタくんはフォローをいれるけど、


 違う!クウタくんそうじゃないよ!


「うんうん、牛乳おいしいよね!あんぱんと食べるとおいしいよね!」


 アカリさんにいたってはもう牛乳の話になってるよ!


 もしかして二人とも素で爆弾投下したの!?


「………」


 クウタくんとアカリさんの天然返しに二人はポカンとする。


「なあ、ミズキ、キミはどうだい?」


 ニシキさんがおにいちゃんに聞く。


 おにいちゃんはコップをおくと静かに答える。


「飲めればなんでもいい」


 極論いちゃったよ。


「そうだね。わたしもそう思うよ」


 すると、仕事をしていたおねえちゃんが手を止めてやってきた。


「むしろ個性がでていてわたしはいいと思うよ」

「個性?」

「そう、今の話だけで紅茶の飲み方や種類が四つもでたんだよ?つまり、キミたちの人それぞれのいいところ成らぬ好みの味があるってことだよね」

「そうか!『みんな違ってみんないい』ってことだね!」


(!?)


「うん、そうだね」

「じゃあ、みんなの好きな味を飲みあってみるってのはどうかな?」

「みんなのを?」

「飲みあう?」


 クウタくんがそう提案するとニシキさんとキノセさんは互いをみる。


「まあ、悪くないかもね」

「ワタクシ、今日はレモンティーの気分かもしれませんわね」

「じゃあ、わたしはストレートティーにお砂糖いれて飲むよ」

「それは微糖だよ」

「それじゃあ、おねえさんが気合をいれて淹れちゃうよ」



「………」


 さっきまでのギスギスした空気はどこへやら。


 わたしは微笑しながら、おねえちゃんがいろんな種類の紅茶を淹れているのを見守ると研究所を後にした。


 『みんな違ってみんないい』か…よく聞く言葉だけどなんだか心に引っ掛かっていた。当たり前のことに気付かされたから?それとも、わたしがなにも取り柄がないことに気付いてしまったから?なんでもそつなくこなす言い換えれば『個性がない』ともいえる。わたしはなにが出来てなにが出来ないのか。『彼女の周りには人が集まる』それがほんのすこしだけ理解が出来た気もしたけど謎も深まってしまった。


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