27色 心配と信頼

 数日後


 わたしの研究所内に女性の笑い声が響き渡っていた。 


「ひーひっひー!おもしろすぎるのじゃ」


 彼女は腹を抱えて笑い机に顔を置いて笑いもがいていた。


「大変だったんだから笑いごとじゃないよ」


 マモノとの出来事を一通り話し終えたわたしはピンコにいう。


「すまぬすまぬ。マモノに乗っ取られた少年が逆に乗っ取って遊びだすのもじゃが、最後のラブコメの波動にあてられて目覚めたところでもうガマンできんくなったのじゃひーひっひっひ!」


 ピンコはまた思い出し笑いで大爆笑する。


「ひーやばひーわらひーすぎてしひーいひーいきがひーオエェ!…」


 笑い過ぎて死にかけているピンコをわたしは紅茶を飲みながら落ち着くまで見守る。


「ゼエェ…ブヘェ…」


 ピンコは息を整える。


「落ち着いた?」

「死ぬかと思ったのじゃ…」


 やっと落ち着いたピンコにわたしは聞くと話を続ける。


「まあ、理由ははっきりとわからないけど、しばらくは大人しくしてくれるみたいで一安心だね」

「そうじゃのう、突然シーニさんの研究所から禍々しい魔力チカラを感じた時は驚いたのじゃ」

「え!?気づいてたの!?」


 ピンコの言葉にわたしは驚く。


「当たり前じゃ、お主もわたしゃが魔力感知が得意なの知っておろう?」

「まあ、そうだね」

「おっと、気づいていて助けに行かなかった訳じゃないのじゃ」


 わたしの返事に右手を前にだして答える。


「すぐにでも助けに行こうと思ったのじゃが、おばあちゃんに止められたのじゃ」

「止められた?」

「今お店をほっぽりだして行ったら一週間猫にしてやるといわれたからじゃ」

「へえーかわいいじゃん」

「バカを云うでない!猫はともかく三日間ハムスターにされてみるのじゃ!あまりの過酷さに『てけっ☆』なんていってられないのじゃ!」


 ピンコは震えながらいう。


「どんだけ死にかけたことか…そして、夜に『今日も楽しかったね』とか鬼畜なことをいわれた時の恐怖はどれほどのものか…」

「御心境お察しします」


 わたしは震えるピンコをなだめる。


「じゃが、わたしゃが行かなかったのはもうひとつ理由があるのじゃ」

「もうひとつ?」


 すこし落ちついたらしいピンコがいう。


「もし本当にお主に命の危険が迫っていたとしたらわたしゃは猫にされようが、ハムスターにされようが、ミジンコにされようが、わたしゃはおばあちゃんを跳ね除けて助けにいくのじゃ」


 ピンコは真剣な顔で言葉を続ける。


「わたしゃがあの時行かなかったのは『彼』が行ったからじゃ」

「彼って?」


 わたしはピンコに聞き返すとすこし呆れた感じで返される。


「わかっておるじゃろう?」

「まあね」


 わたしはそう一言だけ返すと紅茶を飲む。


「彼が行ったなら大丈夫じゃろと思ったのじゃ」

「キミはかなりマコトを評価してるんだね」

「おや?嫉妬かのう?」

「違うよ」

「まあ、そういうことにしといてやるのじゃ」


 ピンコはなぜかニヤニヤしながらいう。


「マコトさんがいればなんとかなると『信頼』していたからのう」


 ピンコも紅茶を一口飲んで言葉を続ける。


「『心配』もしておったがのう」

「え?」

「『心配』もしておるが『信頼』もしておる」

「どういうこと?」


 わたしは言葉の意図が分からずに聞く。


「つまりは『信頼関係』が成せるものということじゃ」

「ふーん」


 わたしは分かるような分からないような感じの返事をする。


「まあ、わたしゃがいいたいのは、もし本当に友人が危険な目にあったら命に代えても守るということじゃな」

「ありがたいけど自分の命は大切にして欲しいかな」

「それもそうじゃな」

「でも、頼りにしてるよ」


 わたしはそう一言お礼をいうと何気ない会話をして時間が過ぎていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る