25色 マモノのチカラ
「無事かアオイ?」
「無事にみえる?」
「そんな口が叩けるなら大丈夫だな」
「キミね…」
助けてくれたおにいさんの返しにシーニはすこし呆れながらも安心してる感じがした。
「立てるか?」
「ハア…ハア…ありがとうございます」
おにいさんは息を切らして手をついているクロロンに手を差し伸べる。
「きのせさん大丈夫かな?」
立たせてもらったクロロンはすぐにフラウムの心配をする。
「お前達は離れていろ」
「はい、きのせさん立てる?ぼくの肩につかまって」
「わたしのも使って」
わたしも駆け寄り肩を貸してあげる。
「すみません…緑風さん触っても大丈夫ですの?」
「うん、今は大丈夫だよ」
フラウムはクロロンに聞くが大丈夫だという。
「本当に申し訳ありませんわ…足を引っ張ってしまって…」
フラウムは悔しそうにいう。
「全然引っ張ってないよ!フラウムが時間を稼いでくれたおかげでカレシーニさんが来てくれたんだから」
「誰がカレシーニだ」
カレシーニさんになぜかつっこまれてしまう。
「お前」
「はい?」
わたしは呼び止められたと思い振り返る。
「お前じゃない」
「え?」
カレシーニさんはわたしじゃなくクロロンをみる。
「そこのチリチリ頭」
「え!?ぼくですか?」
クロロンは驚いて振り返る。
「さっきの何だ?」
「さっきの?」
クロロンは心当たりがないのか首を傾げる。
「俺がくる直前一瞬大きな
「そ、そういえばクロロンすごい速さでレータのところにいったよね」
「だが、今のお前からは貧弱な
「えーっと、わ、わからないです…」
クロロン自身どうなっていたのか分からないみたいだ。
「でも、『助けないと』って思ったのと、きのせさんが『傷つけられる』って思ったらカラダが勝手に動いた気がして…」
「なるほど、大体理解した」
「え?」
カレシーニさんはそういうとレータに向き直る。
「とりあえずお前を捕縛させてもらう」
「キサマにワタシを捕縛できるのか?」
レータは不敵に笑いながら返す。
「祓われないだけ感謝するんだな」
そういうとカレシーニさんは日本刀のような物を鞘を抜かずに構える。
「アオイ、逃げられては厄介だ。先に隔離しろ」
「おーけい」
カレシーニさんにいわれシーニはなにかのスイッチを取り出してそれを押すと研究所全体が何もない空間に変わった。
「え?なに!?」
「ごめんね。人だけを強制的に魔空間に転移させたんだ」
困惑するわたしにシーニは説明してくれる。
「本当はアカリ達は外にいてもらうほうがいいんだけど緊急だったからね」
「お前達は離れていろ」
「はい」
「ごめんけど、ミズキをまかせるね」
「わかった」
わたし達三人はシアンの場所に避難する。それを確認したシーニはレータに向き直った。
「さて、またせたね」
シーニは杖を回転させ構え直しながらカレシーニさんの隣にいく。
「彼すごい速いけどいけそう?」
「できるだけ外傷を与えずに捕縛したいがやむを得ない場合は腕や足の骨を折ることになるな」
「おーけい、そうならないようにサポートしろってことね」
シーニの言葉にカレシーニさんはなにもいわずにレータに向かって走っていった。
「闇隠れ」
レータは小さく呟くとカラダから黒い靄が出てきて、わたしたちの周り埋め尽くした。
「これって!?」
「メガネが小細工で使っていた技ですわ」
わたしたちは黒い靄の中、必死にレータを探す。
「逃がすと思うか?」
カレシーニさんは後ろに日本刀を振るとなにかに当たる音がして隠れていたレータを捕らえる。
「なに!?」
靄が消えてわたしの目に映ったのはカレシーニさんの攻撃をレータがギリギリのところでバリアを張ってガードしていた。
「グッ!?ナゼみつかった!?」
レータは驚きの声を上げるとカレシーニさんが答える。
「魔力感知だ」
カレシーニさんは平然と答える。
「なるほど…それを平然といえるということは只者ではないな」
レータは刀を押し返すとカレシーニさんから距離をとる。
「『アイツ』の末裔か…」
「なにをいっている?」
レータの不思議な発言にカレシーニさんは聞き返す。
「よくみてみたら『お前だけじゃないな』」
レータは周りを見回すと不気味な笑顔を浮かべる。
「単なる『偶然』か『因果』か」
「さっきからなにをいっている?」
カレシーニさんはすこし苛立ったようにいう。
「マコト落ちついて今は捕縛を優先して。後から聞けばいいから」
シーニが諭すと「ああ」と一言だけ返してレータに鞘を抜いていない刀を振る。それをレータはかわしていく。
「すばしっこいな」
そう呟くけど、すこしずつレータの髪などをかすめて確実に追い詰めている感じだ。
「このカラダでは分が悪いな」
レータもよけるだけじゃなくてカレシーニさんに蹴りや拳などといった武術で対抗していた。
「お前なにか企んでるな」
カレシーニさんは刀で攻撃を受け止めながらレータを睨みいう。
「さて、なんのことかな」
「とぼけるな。マモノが魔法を使わずに戦闘など聞いたことがない」
「さすがに若造でもバレるか」
レータはやれやれといった感じで片手を広げながらいう。
「マコト、たぶんだけど魔力が回復するまでの時間稼ぎだよ」
シーニは杖を構えながら教える。
「マコトがくる前にすごい魔法を使っていたからきっと魔力切れなんだよ」
「確かにワタクシ達を吹き飛ばした時『このカラダはこの程度のチカラしかだせんのか』といっていましたわ」
わたしはその時のことを思い出す。
「ということは、レータは今ホンキをだせないってことだね!」
「チッ…余計なことを」
レータは舌打ちすると刀を払ってもう一度距離をとる。
「よし!今だ『バインド』!」
「!?」
シーニが魔法を放ちレータのカラダが紐のようなもので縛られた。
「クソッ!」
空中でバランスを崩したレータはそのまま地面に転がる。そこにすかさずカレシーニさんはが追撃を入れようとする。
「一旦眠ってろ」
刀を振りかざしそれがレータに届く。次の瞬間。
「なんてな」
「!?」
レータはニヤリと笑うと魔法を唱える。
「『リリース』!」
「なに!?」
レータのカラダから赤い魂のようなものが勢いよく飛び出す。
「ワタシはこの時をマッテイタ」
カレシーニさんの横を素早く抜けるとこちらにむかってきた。
「しまった!?」
「みんな!!」
カレシーニさんとシーニはすぐに追いかけようとしたけど、わたしたちからかなり距離ができていてしまい間に合わない。
「アオイ!魔弾を飛ばせ!」
「ダメだよ!そんなことしたらアカリたちに当たっちゃうよ!」
「もう遅い!『テイクオーバー』!」
赤い魂はわたしたちの近くまでくると魔法を唱える。すると、シアンに吸い込まれるようにむかっていく。
「みっくん!あぶない!」
シアンにむかっていった魂の前にクロロンが立つ。
「ナニ!?」
魂は止まることができずそのままクロロンの中に入っていく。
「うあああああ!」
「クロロン!!」
「緑風さん!!」
「クウタくん!!」
クロロンは苦しそうに地面に膝と手をつく。
「くそったれ!」
カレシーニさんが悔しそうに吐き捨てる。
「………」
クロロンは静かに立ち上がる。
「クロロン?」
わたしが呼ぶとクロロンはこっちをみるけどいつもの純粋でキレイな瞳じゃなくて赤くて感情がなくてどこか寂しそうな瞳をしていた。
「ちっ…しっぱいか」
クロロンの声だけどいつものすこし高めのかわいい声じゃなくて低くてどこか哀しそうな声だった。
「まあいい、さっきのカラダより何倍もマシだ」
「キミ、クウタくんから出てってくれないかな」
シーニはすこし怒りの混じった感じでいうけど、それを気にとめずクロロンは自身の左腕をみていた。
「お前聞いているのか」
今度はカレシーニさんがいう。
「こいつ、腕を痛めてるな」
「え!?」
突然の言葉にわたしたちは驚く。
「しかも、『二回』な」
「二回だと?」
カレシーニさんが聞き返す。
「ああ、あの時、ワタシに拳を振るった時とその前だな」
「その前って…もしかして」
フラウムがなにかに気づき暗い顔になる。
「キサマを助けた時に腕をやったみたいだな」
「そんな…ワタクシのせいで」
「クロロンは腕をケガしてることを黙ってたの?」
わたしはなぜ黙っていたのか分からず聞く。
「きっとフウムちゃんが気に病まないようにいわなかったんだね」
クロロンは右手で左手首を掴む。すると、そこから白い光がでる。
「なに!?」
それをみたカレシーニさんは驚きの声をあげる。
「まあ、こんなもんだろ」
クロロンは手首を振って確かめるようにいう。
「あれって…!?」
「『治癒魔法』か」
「クウタくんって治癒魔法が使えたの!?」
シーニも驚いてカレシーニさんに問いかける。
「いや、恐らく奴の『魂』つまり『本体』の
カレシーニさんは冷や汗を垂らしながら「厄介なことになったな」と呟く。
「しっぱいかと思ったが、ワタシとしては満足のいくカラダだ。まさか、魔力量が高いとはな。瞬間的とはいえあの速さをだせたのも納得がいく」
両手を握って開く動きをしてカラダの調子を確かめている。
「我が半身とまではいかないがかなりなじむな」
「アオイ、最悪の場合を想定する必要があるかもしれない」
カレシーニさんは刀の鍔を押してカチャリと音をたてる。
「まさか!斬る気じゃないよね!?」
シーニはそれを全力で止める。
「まだ決まった訳じゃないそうならないようにするんだ」
「わかったよ」
シーニは頷くとクロロンに問いかける。
「キミおとなしくする気はないのかな?」
「その気がないからこうなっているんだがな」
「だよね」
シーニは苦笑いしながら杖を構え直した。
「なら、仕方ないね」
「アオイ、くるぞ」
カレシーニさんがそういった直後クロロンが姿を消して次の瞬間にカレシーニさんの背後に姿を現す。
「さっきまでの威勢はどうした?」
「!?」
クロロンはカレシーニさんに蹴りをいれる。カレシーニさんはそれをギリギリのところで刀を盾する。
「ぐうっ!」
しかし、すこし飛ばされてしまう。
「さっきより速い!」
「全くみえませんでしたわ…」
シーニとフラウムが驚く。
「それにパワーも上がったように感じますわ」
「上出来だ…素晴らしい…ワタシの
クロロンは嬉しそうに笑う。
「ワタクシの時は
フラウムは悔しそうに唇を噛みしめる。
「クロロンってあんなに魔力が高かったの?」
「カラダがついていかなかったのと、あまり魔法が得意じゃなかったみたいだからクウタくんが魔法を使うところなんてあまりみなかったけどこんなにすごかったんだ…」
シーニも驚きを隠せないみたいだ。
「ポテンシャルが高かったということか」
片膝をついていたカレシーニさんは立ち上がるとクロロンにむかって走り刀を何度も振りかざす。それをクロロンは余裕の表情でよける。シーニもサポートのために魔弾などを放つが消されてしまう。
「無作為に撃ってもダメか…」
カレシーニさんは飛びあがり刀を振りかざす。すると、クロロンは左手を前にかざした。
「スナッチ!」
「!?」
カレシーニさんの手から刀が消えクロロンの手に渡った。そして、そのまま刀を横に振りカレシーニさんのカラダに当たり鈍い音が鳴る。
「がっ…!」
そのまま振りきりカレシーニさんを飛ばす。
「マコト!!」
「ぐう…!」
カレシーニさんは呻き声をあげて立ち上がれない。
「油断したな攻撃したのにその武器を奪われて反撃にあうとは」
「…それはどうかな?」
カレシーニさんは倒れながらニヤリと笑う。
「なに?」
すると、クロロンの持っていた刀が光だした。
「なに!?ぐああ!!」
クロロンは慌てて刀を放してガチャンと音をたてて地面に落ちる。
「これはまさか!?」
「油断したな俺の武器は奪われることを想定して魔除の魔法を付与してあるんだ」
「小賢しいマネを!!」
クロロンは怒りの表情でカレシーニさんを睨みつける。
「余裕だった顔が崩れたな」
クロロンは右手を押さえると白い光をだす。
「なるほど、マモノが魔除を付与したモノに触れるとダメージありか」
「くそ…余計な魔力を消費した」
「ということは魔力量に上限があるってことだね」
「さすがにそうでなくちゃ困る」
クロロンは後ろに飛び退き距離をとる。
「ふざけている余裕はないかもしれないな」
「!?」
クロロンのカラダが緑と赤の二色が包む。そして、左手を前にだした。それをみたカレシーニさんは慌ててわたしたちにむかって叫ぶ。
「お前ら逃げろ!!!」
「ウラガーノ!!」
クロロンが魔法を唱えると魔空間内に大きな竜巻が発生した。
「う、うそでしょ!?」
突然の大きな魔法にシーニの顔がひきつる。
「ワタシを閉じ込めたつもりだったんだろうが逆に袋の鼠だな」
クロロンのいう通りわたしたちは魔空間の中にいて逃げ場はなかった。
「…魔空間を解除するしかないかもね」
シーニは真剣な表情でいう。
「ダメだ」
しかし、それをカレシーニさんが止める。
「な!?なんでさ!?このままじゃみんなが危ないんだよ」
「恐らく奴の目的はそれだ」
「!?」
「魔空間を解除させて逃げる気だ」
「で、でも!みんなを危険に晒すぐらいなら今回は見逃して」
「その後の被害はどうする気だ」
「なっ!?」
「ここにいる数人と外の数えきれない人達のへの被害どっちが重い」
カレシーニさんの言葉にシーニは黙って俯いてしまう。
「…見損なったよ」
「!?」
シーニは俯きながら静かな声で言葉を続ける。
「…キミの云いたいことは分かるよ…キミは市民の平和を守らないといけないからね…キミは誰よりも正義感の強い人だってことも理解してるよ…だけど、それだけじゃないんだよ…数の問題じゃないんだよ…大切な家族と友達を犠牲にして守ったモノなんてなんも意味がないんだよ!」
「………」
カレシーニさんはなにもいわなかった。
「…シーニ」
わたしはシーニをみるとシーニはこっちに笑顔をむける。
「大丈夫だよ。わたしがみんなを守るからね」
そういうとシーニは杖を構えて魔法を唱える。
「メイク!」
わたしたちの前に魔法で作られた大きな壁が現れて竜巻を防いでくれた。
「なるほど、そうきたか。だが、いつまでもつかな?」
壁の向こうのクロロンがいう通りシーニの作った壁にヒビがはいる。
「…くっ!」
シーニは苦しそうに耐えていた。
…どうしよう…どうしよう…わたしがいるせいでシーニたちの邪魔をしちゃっている…なんとかしないと!でも、わたしになにができる?なにをすればいいの?だけど、ここにいるので無傷なのはわたしだけなんだし、わたしがなんとかしないと…わたしにチカラがあればフラウムの助けに入れてフラウムが足をケガすることもなかったしカレシーニさんとシーニと一緒に戦えたしクロロンがマモノに乗っ取られることもなかったかもしれない…どうしようどうしようどうしよう…考えれば考えるほどわからなくなる…『あの時のチカラ』が自由に使えたら…
あれ?たしかあの時も似た『状況』だった気がする。場所と人は違えど『竜巻』に追い詰められている。
もしかしたら…
ビキッ!
「!?」
ヒビの音で正気に戻るとさっきよりも大きなヒビができていて今にも砕け散りそうだった。
「クッソッ…!」
シーニが言葉を噛み締めた瞬間、瓦礫が崩れるような音と共に壁が砕け散ってしまった…。そのまま竜巻が姿を現す。わたしは反射的に右手を前にだしていた。
「お願い!でてー!!」
祈りを込めて叫んだ。
すると、わたしの右手が輝いて周りがドーム状の空間に包まれた。
「ナニ!?」
クロロンは驚きの声をだした。
「や、やったー!だせたよ!」
わたしは嬉しくて叫んでしまった。
「なんだ!?これは!?」
「これは…『あの時』の…」
カレシーニさんはものすごく驚いていた。シーニも目を見開いていたけど、一度みたことあるからあまり驚いていなかった。
「アカリさんこれは一体?」
「わたしもよくわからないけど、とにかくみんなを守ってみせるよ!」
わたしは「えいっ」と気合をいれてもう一度チカラを込めると竜巻を押し返す。
「よし!このまま押し返すよ!」
このまま意気込んでいると、
突然竜巻が消えた。
「ありゃあ!?」
「!?」
突然の出来事にマヌケな声をだしてしまった。
「やめだ」
そういったクロロンはこちらに歩いてくる。
「止まれ!」
カレシーニさんは近づいてきたクロロンに刀をむける。
「どういうつもりだ?」
険しい表情のままいう。
「キサマ達と争うのをやめるだけだ」
「なに!?」
カレシーニさんは驚き目を見開く。
「それを信じるとでも思うのか?」
「なら、殺されたいのか?ワタシとこのままやりあって勝てるとでも思っているのか?」
「なんだと?」
「それに、そこのアホ面のいかにもバカそうな女」
わたしは誰のことをいっているのか分からなくてキョロキョロするけどナゼかみんなからの視線を感じる。
「………あれ?もしかしてわたしのこと?」
「お前以外に誰がいる?」
「あったしかに!」
「認めちゃうんだね」
もう一度周りをみて納得してしまったわたしにシーニが軽くツッコム。
「お前、あのチカラをまだコントロール出来ていないようだな」
「そ、そうだね」
「チカラを使いこなせていない奴とやったところで勝敗はみえている。だから、もうやめにすることにしただけだ」
「本当にそれだけか?」
カレシーニさんはまだ警戒している。
「このマヌケ面のチカラを『見たからやめた』ようにみえたが」
わたしってそんなにバカっぽい顔してるのかな?
「答えるとで…えっと、たぶんですけど彼のいうこと信じてみてもいいかもしれません」
「え?」
突然聞き覚えのある声と喋り方になってわたしたちはポカンとした。
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