ブルーバレット

紫蘇くらげ

第1話 灯火が消えた日

宙は暗く、輝いているのは星屑のみ


宇宙空間と似て異なるその空間に

ただ1人男が居座っていた。


「――世界は依然として変わりは無いな。この結末はこれで良いとしてこれは……」


その男は記録を読み漁っていた


世界に何かがあればその筆を運び、調停する


それが彼の仕事。


今日も彼は自身の仕事をこなして何も変わらぬ日々を過ごす──はずだった


「それにしても人間界では宙から降ってきた"銃"という兵器が流行しているようだ」


「しかし、何が良いのか私には分からぬ。殺戮をするだけの兵器に魅力等あって溜まるものか」


男は人類に呆れつつもページをめくる


そして一つのページを見つけ、そこでページをめくる手を止める。


「どういう事だ……? あの国の破滅は400年後のはず。それなのに何故こんなにも早まっている?」


疑問を呈す


運命を司る事が出来るのは彼だけだ


だのに誰かが干渉しているのか...?


一応書き忘れの可能性も考え、もう一度筆を運ぶ。


─────しかし。


「干渉が出来ぬ……か。ということは人間か?もしこのような能力を使える人間がいるのであれば見つけ出し早急に対処せねばならないが……」


「能力があるという事実すら皆無。私にはどうすることも出来ない」


彼は執筆の手をやめ、ため息をつく


そして紅茶を嗜み、心身を切り替えて作業に戻る。


それでも彼の思考には疑問が消えない。消しても消えない落書きの様に。


「ふん、まあよい。

さほど影響も無いからこの件は破棄としよう」


「――――しかし、"銃を降らせた"のは何者なのだろうか。まあ、他の神がやったとは思えないがね」


***


〈独裁国セヴィニア〉


セヴィニアは少し低い壁の外側にスラム地区、スラム地区の内側に貴族地区があるという独裁国。


貴族と言っても華やかなものをイメージするだろうが、この国では意味が違う。


この国では生まれつき地位があって上下が存在する。そして下の方──即ちスラム街の人間達は人権が与えられず、常に飢えをしのぐ生活を強いられている。


その一方、貴族地区の人間達は生まれつき人権があり食にも困らないというスラムとは真逆の生活をしている。


このように"人権"がある者をこの国では貴族と呼ぶ。


貴族のスラムの民への扱いは劣悪なもので差別だったり奴隷だったり、中にはペットにする輩もいるとかいないとか。


「安いよー!セール中だよー!」


街中に売り文句と商品が並ぶ。いつにも増して活気が溢れている。その理由は──


「おい、あんた。今日の新聞見たかい?」


「見てないが、これほどの騒ぎだ。見なくてもある程度察せる。また勝ったのか?」


「おうおう! これで四連覇だぜ!? もはや敵無しって感じだな!」


「まあなァ、よく勝ってるよ」


戦争中にもかかわらずこの賑やかさ。しかし、勝利に浮き足立って警護を怠ることは許されない。


***


「──!」


夢で俺が誰かをナイフで刺している。涙を流しながら。


俺の知っている人物でもない。なのに。


────見ている俺も涙を流していた。


でも、とても辛いのは分かる。何しろその世界には俺とそのしかいないのだから。


「さようなら」


その言葉を最後に俺は現実に戻される。


自分の意思ではない。何かに引きずられて、だ。


***


──朝のひばりが差し込む


――時計を見る


そして寝坊している事に気付く。


「やべ」


彼はアラン、スラム地区で育った14才の少年だ


ボサボサの茶色い髪でおとなしそうな

見た目をしていてボロボロの白いTシャツと

工場の作業パンツが特徴的。


今日は友達と貴族地区に潜入して食料を盗むつもりだ


スラム地区で生きていくには工場の収入で事足りる事はなく、盗む事でやっと生きていけるレベル


だから何回も盗みを働いていた。


もちろん捕まったら何度も踏みつけられたり蹴られたりしてたが。


***


俺たちはいつも通り貴族地区に向かって盗みを働く。貴族地区に入るにはいくつかある門を通らないと行けなくてもちろん、警備のやつもいる。


その為スラム地区からの商人の荷台に乗ってやりすごしている。


スラムからの商人は割と多くて最近の荷物検査では敵襲があまり無いため上辺しか見ない。


スラム地区からの商人は生活必需品や工芸品を用意してくるが貴族からものすごく安い値段で買い叩かれ、それでも生活の為に商売を続ける。


「なんだか貴族地区が賑やかだな。何かあったのか?」


アランが仲間に聞く。ウル、ハウ、ミヤ、ドウの4人のうちウル以外の三人は知らない。しかし昨日も貴族地区に出たウルは事情を知っていたようだ。


「捨てられてた新聞見たんだがまた勝ったんだとよ。ほんと。油断していいのか?こんなに」


「奇襲なんてよくある話だ。警戒をするに越した事は無いがな」


観察を続けていたハウがこっちに声をかける。店主が店をあけたらしい。


店主が見張ってる中盗みに行くと捕まりやすい。だから空けている時に盗みに行くのがスラムの鉄則。


「とりあえずしばらく戻ってこないと思う。だからその隙に出来るだけ盗んでしまおう」


そして裏路地から出て俺とその4人が盗もうとした瞬間――――。


「よぉ、スラムの盗賊。俺が店を空けたとでも思ったのか?残念。このとおり待ち伏せしてたぜ」


五人はマジかよ!と一目散に逃げようとするが


「くそっ!離せよ――――」


先に出たウルが捕まってしまった。手を解こうとしても解かれない。


「はっ、誰が離すかよ。でもスラムの奴らなんて穢らわしすぎて今すぐ離したいがな!」


店主は大きく笑う。その瞬間、ミヤがポケットからゴキブリを取り出し店主に投げる。そしてピタッと。


「おい、アンタ。そっちにゴキブリ付いてんぜ」


「は――どこに?――――あ」


「ギャァァァアァアァアァァァアァァァァァァ!!!」


「よーしテメーら!今のうちに逃げろー!」


「おおー!ありがとな!ミヤ!」


ミヤの助力で俺は逃げる。店主はゴキブリを全力で取り払ってたのが面白かった。


収穫無しかと思ったがドウが割と回収してたようだ。そして深い森の中の秘密基地に行き、盗んできたパンを平らげる。


秘密基地の空は星が満天で仲間と談笑したりするのにピッタリだ。


「うめーな!このパン!二度と食えねーのが残念だがよ」


ミヤが大胆にクロワッサンを平らげる。しかし俺はパンを一つ喰らい、終わる。


「アレン、それだけで大丈夫なのか?」


「大丈夫、帰ってまた食べるよ」


嘘だ。俺には待ってる人がいる。その人も同じスラム地区で育つが、病床に伏している。


動く事は出来ないから食料の調達は俺がしている。


いつかは戦争が丸く収まり、病気が治り、みんなが平等に平和に暮らせるのであれば俺は彼女を幸せにしてやりたい。


その理想にはまだ程遠いけどもし叶った暁には――――


「どうした?ぼーっとしてよ」


パンを食い終わったミヤが問いかけて想像ワールドから引き摺りだされる。


「あ、あぁ。何でもねー。ちょいとやる事があるから家戻るな」


そう言って俺はそこを立ち去る。ミヤは「なんだ。もう行くのかよ」と不機嫌そうだったが俺はそれすらも振り切る。


「なんだ、ミヤ。お前は知らねーのか。アイツにゃ愛人がいるんだ。今日もそれだろうよ」


「何それ。聞かされてねーよ、詳しく聞かせろーー!」


「まあ、待てよ……じっくり話すから……」


どうやらミヤは知らないようだ。当然ほかの三人も聞かされてはいないが1回アランを尾行してそれで確信したようだ。


***


彼は夜のスラム街を走る。彼女のために。


「ごめん、遅くなった」


「全然大丈夫だよ」


青い夜。ボロボロの部屋。ボロボロのベッド。それすらを押し退ける程の白ツバキのようなさらさらな銀髪の少女が病床に伏している。


「ほら、パン。給料が出たから買ったんだ。食べてくれ、カレン」


「いつも申し訳ないね。アランは大丈夫なの?」


「うん、大丈夫。食べてきた」


最悪のタイミングでグ〜と空腹のサインが鳴る。咄嗟に弁明しようとしたが――


「ほら、やっぱり嘘だ」


カレンはパンを半分に千切り、俺に渡してくる。


「ほら、半分こ」


「あ、いや、俺は……んぐっ!?」


俺が遠慮しているとカレンは半分にちぎったパンを俺の口の中にぶちこむ。


そして油断してたからか俺は床に屈してしまう


「どうせ遠慮するからこうでもしないとね...!」


俺はあたふたしながら口にぶちこまれたパンを一旦全部食べきってから口を開く。


「つくづく思うがどこが病弱だか疑問に思うな!」


「ええ!私はこの通り元k……ゴホッゴホッ」


「言わんこっちゃねぇ!ちゃんと安静にしとけよ。俺はここで寝るから何かあったら起こしてくれ」


「はいはい。ちゃんと休みなよ」


彼女は笑顔で納得し再びベッドに戻る。そのタイミングで俺も眠りに落ちようとするが...何か胸騒ぎがする。───してしょうがない。


「(なんだ……何か、こう...良くない予感がする)」


疲れていたからただの勘だろうと見過ごして寝ていたが後にその予感は的中する。


***


メラメラと燃える...音がする。


誰かの悲鳴が、鳴り響く。


何事かと夜中に燃えるような音と人々の悲鳴で目を覚ます。


そして窓から見渡せば人々が次々と殺されてる。


────子供が殺される。


────大人が殺される。


────お年寄りも、女も殺される。


その有様を表現するには地獄という言葉が最適だろう。


ベッドにはカレンの姿は無く、外は地獄絵図の様な盛んに燃える炎と鳴り止まぬ銃撃音、そして屍の山で満たされていた。


「奇襲……?いや、それよりもカレンは!?」


カレンはもし敵襲等があれば必ず俺を起こす。二回か奇襲はあったが俺もそれで生き延びた。


しかし、今回起こさずにどこかに消えた。


────奇妙。


もしかすると誰かに連れていかれたのか?


敵国側からすれば敵を見つければ容赦なく射殺するであろう。寝ている俺も同じくだ。


――じゃあ、誰が?何の為に?


────でも。


考察するのは後でいい。今はいち早く見つけに行かないと。殺されているかもしれない。


「「いたぞ!」」


モタモタしていると軍服を着た敵兵に見つかってしまった。話し合いをする間もなく敵兵は引き金引き、まっすぐにこちらに撃つ。


それから数秒の刹那を跨ぎ、俺は死を確信する。


「やべ。死んだな」


しかし、死ぬ間際でどこからか何者かの声が聞こえる。


「左だ」


その声によって俺は九死に一生を得た。それでも二発目が────


「さっきのはまぐれか?まあいい。二発目は逃れられない────」


轟く銃声。しかし、撃たれたのは俺ではない


――――敵兵だ。


「誰...だ...?」


敵兵の後ろに仮面を被った所々ノイズで認識しずらい誰か。でもあいつを撃ったんだからきっと味方なのだろう────。


「...?誰もいない...?...誰が撃ったんだ?」


敵兵は誰が自分を撃ったのか分からないまま倒れる。何故か俺にだけ見えるようだ。一体これは────


「間に合ったか。お前が死ねば全てが破綻していたからな。だから殺される訳にはいかない」


「何者だ……!」


俺は震えながら声を上げる。助けを求めるような声でもあるし抵抗する様な声を。


「問いなど答えん。今お前が探しているのはカレンだろう?」


俺はこいつと面識すらない。何故知っているだろうか……?


「何故……それを?」


「彼女は崩れた広場にいる。早く向かえ」


問いすら答えない。答える時間すら惜しいのだろう。しかし、謎が多い。


おそらく味方なのだろうがそういう確証も無い。とりあえず広場に行けばカレンも救えるし助かるか...?と信じ足を進める。


「いずれ全てが解る。その時までせいぜい足掻け。」


「お前は一体――」


「俺の名はブルーノート。これで満足か?なら急げ。」


「おい、待て……!」


ノイズが酷くなり、どこかへと消えた。分からない事だらけだが、彼の言葉を信じ広場に向かうことにした。


***


「カレン……!」


広場を隅々探し燃え盛る広場のはずれにてカレンを見つけた。俺はカレンが生きてた喜びでカレンに近寄る────しかし。


「来ないで!!」


違和感に気付いて3秒。敵の銃が背中に付くまで2秒。そして殺気が遅れてやってくる。カレンの横に一人。俺の喉元には1人。銃を構えている。


「鈍すぎるな、小僧。」


カタカタと全てが震えてやがて全身の血が悲鳴をあげる。そしてその次に恐怖が体を占め始める。


死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない


彼が震える理由は死の恐怖とそこらの敵意ではなく、本物の殺意。


「先に女の方を殺す手もあったが、お前の事待っていたようで俺も待ってあげた。――だが」


「俺がただ殺すんじゃ面白くねぇ。ちょいとしたゲームをしよう」


そう言い彼はポケットの拳銃を俺の元に投げ、俺の足元に拳銃が転がる。


「お前があいつを殺せ。殺したら生かしてやる。もし殺さなければあいつを生かして俺がお前を殺す」


自分自身の殺意。しかし、どうにも出来ないほどの恐怖。それが俺を支配してどうすることも出来ない。


――――震えながら拳銃を拾う手は汗だくで、今にも拳銃を落としそう。


「……ッ、ッ……」


愛する人を殺める恐怖か?それとも愛する人が生きたとしてこの事を忘れて生きていける心配か?


震える照準に涙がこぼれて意識がもうろうとする。


「私の事はもういいよ。病弱なんだから生きたとしても何にもできずにどうせ死ぬ。」


「だから――――――」


恐怖に支配されているであろう取り繕った笑顔で彼女は俺に微笑む。


――――撃てない。


「自分が生きることだけ考えて。」


引き金を引けばカレンは死ぬ。俺は生きる。


引き金を引かなければカレンは生きる。俺は死ぬ。


ただそれだけのことなのに、まだ俺は迷っている。


「――――こ……こん……なの……あんまり……だ……」


「あんまり……だぁ?笑えるなァ!」


「戦争では身近な人だって死ぬ!俺の親父とお袋は屈服してもお前らに殺された」


「無抵抗だったヤツを、だ」


「所詮戦争なんて"おもいやり"を持った時点で"負け"同様」


「泣いて謝っても俺は許さない。お前らが泣いて謝っても俺らを許さなかったように」


俺の横にいる敵が顔を近づけて俺の恐怖に拍車をかける。


「早くしろよ」


撃て。撃つな。撃て。撃つな。


脳内が回る。その単語が脳内を翔け回る。


──────生きたい。


その本能を頭に浮かべた瞬間、俺は引き金に手をつけた。


「それでいいんだよ。――――今までありがとう」








……そして彼女の体躯を弾丸が貫いた

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