第14話 追加稿 美しきマーメイドたち
アルラウネ公国へと向かう船に乗り込んだ二人は、目の前に広がる大海原を見ながら互いの健闘を称え合った。
「やったな、ヨード。これで、戦争は終わりだ」
「そうですね。しかし、この国の連中ものん気なものですね。我々の国がモンスターを送り込んでいるとも知らずに」
「そうだな。しかし、これからは経済の時代だ。貿易をして国を発展させなければ。その意味では、ニクスの馬鹿が国王になってくれてよかったよ。これからはアルラウネ産のプロテインを大量に購入してもらえそうだからな」
ドレイクは青いマントの下からこっそりとプロメテイオンの光る草をヨードに見せた。
「あ、ドレイク様。ちゃんと一本摘んでいたのですね」
「当たり前だ。そのために、あの場所に行ったのだからな。このプロメテイオンをアルラウネの平地で大量に栽培して、収穫し、乾燥させて粉末にして小麦粉と混ぜて思いっきりかさましして……」
「アルラウネ公国印の健康粉末として売る。割高で。儲かりまんな」
ヨードがフードの中でクスクスと笑っていると、ドレイクが白髪をかき上げながら言った。
「それにしても、何かさっきから『なつかしい声が聞こえる』なあ」
「ええ、そうですね。しかも、このいい匂い。『君の匂いがする時は』と言いたいところですが、それに混じって犬の臭いもしますな」
「ということは……」
二人は振り返る。そこには、rnaribose老師が立っていた。彼はずぶ濡れの白い犬を抱えている。
「溺れとったからの、助けてやったわい。しかし、なぜこの犬は女ものの下着なんぞ咥えておるのか。こら、もう放せ」
ひろしだった。
全身の毛を貼り付けて海水を滴らせているひろしから、やっとのことで取り上げた女性用下着を二人に見せた老師は、その虹色の下着の匂いを嗅いでポンと手を叩いた。
「これはマーメイドちゃんたちの胸の下着じゃな。以前、ガールズバー・おねだりマーメイドに行って、人魚どもに身ぐるみ剝がされた事がある。だからよく覚えている匂いじゃ」
その下着は七色に光っていた。老師は続ける。
「マーメイドたちは美しいが、恐ろしいからの。正に海の魔物じゃ。そいつらから下着を奪うとは、完全に自殺行為じゃな」
三人は恐る恐る船尾の先を覗いた。
向こうから何尾もの美しいマーメイドたちが群れをなして泳いできていた。先頭のマーメイドはマフラーをしている。伝説によれば、あれは『魔法使いのマフラー』だそうだ。その少し後ろから泳いでくるマーメイドは和装姿だった。まるで『リアル料亭・ガチ仲居』さんのようにきれいに着物を着こなしているが、横に点滴棒を立てている。それに提げられた点滴袋から袖の中にチューブが伸びているのに、お構いなしに泳いでいるではないか。本当に大丈夫だろうか。心配だ。
ともかく、当然だが、どのマーメイドも泳ぎが上手い。というか泳ぎが激しい。その表情を見ると、どうやら、皆、ひどく怒っているようだ。
きっと、ひろしのせいだろう。
水平線近くの海面で、無数の人か魚か分からない影が傾く帆船を囲んでいる。沈みゆく夕陽と共に、その帆船は水柱を四方に立てながら水平線の彼方へと消えていった。
END
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