第39話 伏木分室の活躍が本になります!?
「こーづかさん! ヤバいっス~!!」
私が出勤するや否や、
「なになに? どうしたの?」
「
「取材ぃ!?」
目を丸くする私の元へ
それは「キッカイ町の奇怪な日常」と題された企画書だった。
「うちで扱った事件を本にまとめたいっていう依頼が来ているのよ」
「そうなんですか?」
「
「ないですねー。有名な方なんですか?」
私の問い掛けに小津骨さんは困ったように首をかしげる。
真藤くんも
「勾鬼って名前で検索すると占い師の人が出てくるんですよ。その人の情報に埋もれちゃってるのか、作家の『勾鬼』さんの情報はちっともで……」
「へぇ。占い師かぁ」
占いに興味がないから占い師さんの名前って言われてもピンと来ないな。
同じ名前の作家さんが埋もれちゃうくらいだからもしかしたら雑誌とかに載ってるような有名な人なのかな?
「お昼前くらいにはお見えになるみたいだから、それまで待ちましょう」
「はいっスー」
真藤くんは素直に返事をしたけれど、
四月に伏木分室が発足して、まだ1ヶ月半なのに。
たしかに、私たちが関わった
それが取材が来るほどの知名度だとは思わなかったな。
――このまま行けば私たちは全国規模の人気者に……!?
いやいや、私の目標は図書館で働くことなんだから!
なんて期待と自戒を繰り返しているうちに、伏木分室にお客さんがやってきた。
「どうだ、ちゃんとやってるか? ……なんだ、相変わらず狭苦しいな」
ブツブツと文句を言いながら入ってきたのは白髪交じりのおじさん。
「おはようございます、
伏木分室の設立を決定した人物であり、私を図書館と偽って
胸の内では憎らしく思っていても、それを顔に出さないのがプロの社会人!
頑張れ私!!
「まだ片付かんのか」
「……チッ」
桂田部長の小言に舌打ちを返したのは……小津骨さん!?
途端に部長の顔が引きつって、さらに何か言おうとしていた口が閉じられる。
さすが小津骨さんだ!
ほんっっとに頼りになるなぁ。
「えぇと、お邪魔しても大丈夫ですか?」
玄関の方から困ったような声が聞こえる。
どうやら本命のお客さんは玄関で待たされているようだ。
「どうぞ。お入りください」
小津骨さんが廊下へ迎えに出る。
連れられてきたのは背の高い男の人。
「あれ? 香塚さん?」
「へっ……?」
名前を呼ばれて驚いた私は、その人の顔をまじまじと見る。
「
そんな馬鹿な。
私のお隣さんの木井さんはカフェのマスターで、占い師で……――。
占い師?
そういえば結城ちゃんが「勾鬼」って名前を調べたら占い師さんの情報が出てくるって言ってなかったっけ。
ってことはもしかして……。
「いやぁ、こんな偶然あるんですね」
嬉しそうな木井さんと対照的に、他の面々の顔には困惑の色が浮かんでいる。
「香塚さん、知り合いなの?」
「はい。あの、アパートのお隣さんです」
ただの偶然……のはずなんだけどみんなの視線が痛い。
「夜、ベランダでよくお会いするんですよね」
「ベランダで?」
「ええ。家の中で吸うと家内がうるさくて」
木井さんはタバコを吸うような仕草をして見せるけれど、彼が実際に吸っているのは線香のケムリだ。
その話をしたら私までおかしな奴だと思われそうなのでそっと胸に留めておくことにした。
「私が洗濯物を干しに出るタイミングと木井さんが出て来られるタイミングが毎回重なるんですよね」
「え? 香塚先輩、夜の外に洗濯物を干してるんですか?」
「え……、うん。外干しなら次の朝になったら乾いてるから、その方がいいかなと思って」
結城ちゃんと話していて気が付いた。
前に木井さんの部屋だと洗濯物が乾かないって聞いて実験させてもらったんだっけ。
「香塚先輩! それも絶対怪異なので今度詳しく教えてください!!」
やばい。
結城ちゃんの変なスイッチ入っちゃった。
「う、うん……。それより木井さんのカフェの方が面白いと思うけど……」
言ってからハッとした。
木井さんは私たちの仕事を本にまとめるために来てくれてるんだから別の仕事の話をするべきじゃなかったかな??
「カフェ、ですか?」
「実は僕、『ますたぁきい』っていう店をやってまして」
あ、自分からお店の名前言ってるし大丈夫っぽい。
よかった。
「『ますたぁきい』!?!?」
結城ちゃんの目の色が変わった。
そういえばかなちゃんも知ってたし、有名なお店なのかな?
「取材NGってウワサのあの『ますたぁきい』ですか!?」
「うーん……NGってわけじゃないんだけど……」
毎日場所が変わるから実質取材不可能なお店なんだよね。
私たちも運が良かったからお店に行けたわけだし……。
「でも、どうして木井さんがうちへ取材に?」
「この前お話ししませんでしたっけ? こちらの桂田さんからお仕事の話をいただいたんですよ」
そういえば何か仕事が決まるかも……みたいな話は聞いたような気がする。
まさかそれがこの仕事だとは思わなかったのよ。
「とにかく、頼んだぞ。真藤町長様の直々の使命だからな」
桂田部長は何か含みのあるような顔で申し付けると、ずかずか歩いて伏木分室を出ていってしまう。
「えっ、ちょっと! 木井さんは……」
「ああ。大丈夫ですよ。僕は自分の車で来てますから」
そういう問題じゃないんだけどな。
「――ということで、しばらくこちらでお世話になります。木井
ぺこりと頭を下げる木井さん。
そういえば初めて下の名前を聞いたな。
功樹……こうき……勾鬼……。
なるほどね。
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