思い出と少女は水槽の中で眠る

TEKKON

第1話

僕は車を駐車場に止めて

久しぶりに来た繁華街を

ぶらぶらと歩いていた。


ここは観光名所であり

いつも人が賑わっていて

その光景を見ているだけでも楽しい。


その途中、僕は新規オープンの

派手な立て看板を見つける。


「ん?出会い喫茶?」


名前は聞いた事あるが

詳しくはわからない。


店名は"ラブリーカフェ"

いかにもな名前だなと

苦笑いしてしまう。


立て看板を見てみると

ソファーに座っている

女性達の写真が貼られている。


気になった僕は

スマホで軽く検索してみた。


「これは何か面白そうだ。

 御飯まで時間あるし行ってみるか!」


少し不安もあったが、

興味心の強い僕は構わず

テナントビルの中に入ってみる。


エレベーターで5階まで上がると、

扉の向こうは、風俗案内所のような

異質な雰囲気に包まれていた。


「こうやって実物を見ると凄いな……」


僕は目の前の光景を見て

一瞬やめようかとも思ったが、

店の前に立っていた男が

「いらっしゃいませ!」

と声をかけてきたので

観念してそのまま受付に行き

入会手続きに入った。


登録後、その店員に案内されて

男性用入口の前に立っていた。


入口は遮光カーテンで仕切られており、

しかも二重になっている。

光を一切入れさせないという構造だ。


「さて、いよいよ店内へ入るぞ」


あるのはワクワク感とハラハラ感。

まるでお化け屋敷に入る気分だなと

思いながら2枚目のカーテンをめくると、

そこは異様な光景だった。


「く、暗いな」


暗い通路と横の壁には大きな窓。

窓の向こうには明るく清潔そうな部屋があり、

その中では女性達がソファー等に座っていた。


女性達はそこで壁にある漫画を読んだり

無料のドリンクバーで飲み物を飲んだり

友達同士でワイワイしてたりと

普通にその空間を楽しんでいる。


一方、暗い通路の中で男に出来る事は

自販機でジュースを買って飲む事と

スマホをポチポチといじる事、

そして女性がいる部屋を眺めるくらいだ。


ここまで男女の処遇が違うのか。

と戸惑いもあるが、更に料金形態も

男と女で全く異なっている。



--- 男性料金システム ---

入会料:3000円

入店料:1000円

トーク料:1000円

外出料:2000円

+女の子へ支払う金

---------------------------


一方、女性は飲み物、

カラオケ等全て完全0円

むしろ登録したらお礼として

1000円がもらえる。


時には出張の占いやネイルサービスもあり、

それすら無料なのである。



これだけ見たら女性側は天国だが

その代わりそれ相応の条件が存在する。


それは店員から呼び出されたら

必ずトークルームに行って男性と

10分間お話しないといけない事だ。


そして、この10分間のトークでお互いが

了解したら一緒に外に出る事が出来る。


その際、男性はお店に対して外出料と

女性へのお小遣いを支払い、女性は

お店側からそのお小遣いを受け取る。


外出後はお店の知った事ではなく

何かあっても責任を取る事は無い。



お互いの容姿を直接見る事が出来て

店員が見守る安全な所で交渉を進めていく。


勿論、相手の誘いを断るのも自由であり

更に言えば出会い目的で来る必要すらない。


とても合理的で男性にも女性にも

win-winなシステムだと言える。


その結果、いわゆるパパ活、

援助交際の温床になるのは必然だ。


「まったく恐ろしい事を思いつくもんだ」


僕はこのシステムを素直に感心した。



暗い通路と明るい部屋は

マジックミラーで仕切られており、

女性側からこちらを見る事は出来ず、

防音もされているので相手側の

会話も聞こえる事も無い。



「そうか。ここは……」



ここは" 女 水 族 館 "

相手の視線を気にする事なく

女性の生態を観察出来る場所なんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る