03.廃墟同然の王城と幽閉の塔
赤子に出来ることなんて限られている。ひたすら泣いて、飲んで、出して、また泣く。これしかなかった。時々、お風呂に入れてもらったり、乳母に散歩と称した日向ぼっこへ連れて行かれる。
メレディスが第二王子で、聖女リリアンが王子妃になったなら……この環境はおかしいわよね。一番最初の違和感はここからだった。王族の子は王族なわけで、お風呂が一週間に一回は変だわ。赤子ならなおさらよ。お尻がかぶれちゃう。
部屋の狭さと薄暗い感じも違和感を増長させた。外へ連れ出された日、その原因に気づく。ここ、王宮の敷地内に建ってる幽閉の塔じゃないかな? たぶん。連れ出された庭は芝のような雑草が広がり、私が住んでいる建物は長細い塔だった。表面に苔と蔦がびっしりの石造りは見覚えがある。
内部が狭く感じたのも当然だわ。幽閉用の塔は、罪を犯した王族を閉じ込める場所。広い必要はないし、王位継承権や王族籍を剥奪された人を監視するだけ。うっかり追放して、反王族派や野心を持つ他国に利用されないための措置だった。
うわぁ……最悪の環境だわ。罪人の子に生まれるとか、どれだけ前世……じゃなかった、前世の前世で悪さをしたのやら。前世で首落とされた程度じゃ、禊ぎ足りなかった? 神様に語りかけ、私はさらに情報収集を続けた。
乳母に抱かれてのんびりと風景を眺める。あちらに見える廃墟、もしかして王城? 私が知る限りで、あの方角は王宮があったよね。それも立派なお城付きで。お城はシンボルのような物だから、日常使いはしない。周囲に広がる離宮や王宮が生活の場所だった。
城は修繕がされていないのか、ボロボロだ。下の王宮は鬱蒼と茂る森で隠されていた。それもおかしい。庭師が手入れして、綺麗な林になってたはず。
「そこまでだ」
「はい、申し訳ございません。もう戻ります」
後ろから騎士に呼び止められ、乳母は一礼して従った。踵を返して戻る。目を見開いて騎士の服装を確認した。王宮は臙脂のはずなのに、どうして紺色なの? ホールズワース侯爵領の騎士は、紺色を着用する。見慣れた色を凝視した。
房飾りが少し違うけど、たぶんホールズワースの騎士だわ。あまりに凝視したからか、騎士は私を見つめ返した。ぱちりと瞬きする。その間に、彼は目を逸らしてしまった。どうやら好ましく思われていない。
私の前世の記憶が正しければ、それも当然だろう。王城がボロボロなのは、修復するお金がないか。または主人である国王不在が考えられる。ホールズワース侯爵領は王城のすぐ傍に広がっていた。宰相職にあった父、跡取りとして研鑽を積んだ兄、隣国の王女だった母。
第二王子メレディスの暴挙に、何も動かなかったはずはない。何をしたのかな。王族を幽閉した塔を監視するホールズワースの騎士、他に兵が配置されているだろう。
まだ情報が少ない。もっと集めなくちゃ。早く歩けるようになりたいな。一人で歩き回れるよう、寝返りからの掴まり立ちにチャレンジすることを決めた。まずは動けなくちゃね!
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