決戦! ドラゴン…ドラゴン?⑨

「ペルル、無事だったか!」

 帰陣すると、ジャックが出迎えてくれた。陽が落ちかかっている夕暮れ時。茜色に染まって…なんて言うとお洒落だけれど、今はとてもそんな気分じゃない。

「どうにかね…。被害は?」

「タケシが膝を擦りむいた」

「なんで」

「慌てて逃げるから、すっ転んだんだ」

 そうかぁ。

「他には?」

「レベッカが打撲」

 打撲で済んだなら良いわよね。蹴り飛ばしたんだし。

「全体の状況は?」

「王国軍は意気消沈、って所だな。カーライル隊の生き残りがちらほら戻っては来ているが…」

「壊滅でしょ、アレは」

「見てたのか」

「ええ、だから急いで引き返したのよ」

 ともかくも、傭兵団に被害が無かったのは僥倖と言うべきね。

「カーライルが戦死した、と耳にしたが」

「ええ、ばっくり喰われてね。遺体どころか、遺品すらないかも」

「どうやって」

「丸呑み、よ。軍からの指示は?」

「ない」

「なら、撤退の準備をしておいて」

「俺達だけで離脱するのか? それは…」

「敵前逃亡の誹りを受けるのは本意じゃないから、明日申し入れをするわ。まずは戦術のとりあえずご飯、ご飯にしましょう!」


 翌朝、体力と気力を充満させて本陣へと赴く。レオナードは憔悴しきっていた。昨日は一一睡もしていないんだろうな。成すすべもなくカーライル隊が壊滅したんだ、お気持ちは分かるけれど。アタシが入ると、僅かに面を上げて、ああ、ペルル殿か、と力なく言った。他にグレイグとメルヴィル。片眼鏡がいないな。

「参謀殿は?」

「休ませている…ご存じと思うが、カーライルが戦死したそうだ」

「ええ、存じています。目の前で喰われましたから」

「貴様、カーライルを助けなかったのか!」

 グレイグちゃんが怒りに身を任せて。メルヴィルがまぁま、と抑えてくれる。と言いますか。

「現場を見ていないからそんな事が言えるんですよ。アタシがカーライル殿を発見したときには例の化物に嚙み砕かれていましてね? 上半身と下半身、ばっきり折れていました。最初に下半身が丸吞みにされて、その後上半身。ああやだ、断末魔まで耳に残っていますわ」

 そうか、とレオナードが沈思した。くっ、とグレイグが拳を握る。

「なんと恐ろしい…生き延びた兵から聞いたが、攻撃が効かなかったと」

「ええ。矢も鉄砲も、なんなら魔法すら耐えました。不思議なことに」

「うむ…ドラゴンの皮膚は相当に硬いと認識しているが」

「それでも、多少は攻撃が入ります。奴めは平然としていました」

「私の魔法でも、難しいか?」

「レベッカが大火球魔法を使いましたが、あいにく」

「どの程度の威力だろうか?」

「火球の直径は二ヤルクほど」

「大魔法ではないか! 効かないのか?」

 グレイグちゃんはちょいちょい会話に入ってくる。面倒だなぁ。

「ええ、効きません。ですから、一時撤退を申し入れに参りました」

「そうだな…それは私も考えてはいた。だが、次の策が無ければ、他の村まで被害が拡大する恐れも…」

「レオナード様! 我らはまだ戦意旺盛、カーライルの仇討の許可を!」

「グレイグ殿、流石にそれは無理があるんじゃないかなぁ」

 メルヴィルが発言。珍しいわね。

「レオナード様、ペルル殿の仰る通り撤退もやむを得ないかと。まずは策です、策が必要でしょう。何しろ剣も矢も魔法も効かない、となれば悪戯に被害が増すばかり。グレイグ殿が一人で突撃する、というなら止めはしませんが、兵らを巻き添えにするのは反対です」

「やってみなければ」

「カーライルの二の舞ですよ」

 メルヴィルがぴしゃり、と発言を制した。うぐ、とグレイグが歯ぎしり。

「わかった、撤退案を取ろう。但し、一部の騎兵を周囲の村々へと派遣する」

「は、警告ですね」

「その通りだ、希望者はシャルルへと移動させるよう」

「強制ではなく?」

「奴が現われてからだ」

「分かりました、レオナード様」

「では、撤退の準備に入る!」

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