第4話

『別れよう。今までありがとう、楽しかった。さよなら』


 それだけのメッセージを残し、後は全てブロックされた。全く連絡が取れず、しびれを切らして実家に行くと、既に引っ越した後だった。引っ越し先までは教えてもらえなかったが、どうやら上京したらしい。

 地元の大学に進学すると言っていたのに。あれは嘘だったのか。どうして。まとまらない考えが、ぐるぐると頭を巡る。


「ッあーーーーー!!」


 イライラして、頭をかきむしった。野球部を引退してから坊主にする必要性がなくなり、伸びた髪がぐしゃぐしゃと絡まる。

 もう、いいじゃないか。追いすがってまで取り戻したいほどの女じゃないだろ。向こうが一方的に切ってきたんだ。このまま忘れてしまえばいい。

 大学に入学したら、今よりずっと出会う女は増える。俺ももう野球小僧じゃない。背も髪も伸びたし、昔よりはモテるはずだ。

 ちらつく影を振り切って、俺は大学生活に思いを馳せた。


 はずだった。


「…………」


 仏頂面で、俺は東京の大学の前にいた。

 春休みの間、俺は大学デビューに向けて色々忙しかった。美容院に行ったりとか、服を買いこんだりとか。その甲斐あって大学デビューは成功し、大量のサークル勧誘を乗り越え、テニスサークルなんていかにもな飲みサーに入った。友達もたくさんできたし、新歓ではなんと女にモーションをかけられた。そのままいい感じになれるかと思ったが、ダメだった。根本的なところで、俺は野球小僧のままだったのだ。何人もの女と交流して、気づいた。俺があんなに自然体で話せた女は、明日香だけだったことに。そしてそれは、俺の努力ではなく、明日香の力だったということに。

 逃した魚は大きい。とまでは言わないが、なんだかんだで明日香を思い出すことが多くなり、悩むのが面倒になった俺は明日香を探すことにした。探すと言っても、そんなに難しいことじゃない。高校時代の友達を辿って、明日香の進学先を突き止めた。どこに住んでいるのか、いつ授業を受けているのかまではわからないので、朝から大学の前で張っていることにした。


「……隼人くん?」


 耳に馴染む柔らかな声。視線を向けて、俺は一瞬息が詰まった。ストレートだった髪はゆるく巻かれていて、薄く化粧をしていた。服装は上品で女性らしく、膝丈のスカートが風に揺れる。俺の大学デビューなんて目じゃない。こいつ、こんなに、可愛かったっけ。


「……久しぶり」


 うまく感情が処理できなくて、不愛想な声が出てしまった。それでも明日香は、困った様子を見せるでもなく、ただ微笑んだ。


「どうしたの?」

「どうしたのはなくね? あんな別れ方しておいてさ」

「ごめんね」


 大して思ってもいなさそうな軽い謝罪に、俺は口をへの字に曲げた。


「授業終わったら、話したいんだけど」

「んー……いいよ、今から話そう」

「授業あるんじゃねぇの?」

「一回くらい大丈夫」


 明日香の言葉に俺は驚いた。彼女は真面目で、とても授業をサボったりするようなタイプじゃなかった。大学生になって変わってしまったのか、それとも。

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