美しい香水の瓶(2)
「突然、お邪魔してすみませんでした」
「いいのよ、気にしないで」
太陽は沈み、暗闇の中で月が光っていた。
ウムトの職場は雑居ビルの一角にあった。禁煙なのにタバコの匂いがすることがあった。その犯人が編集長のフルカンであることは誰もが知っていた。ウムットの机は窓際にあり、タバコの匂いがすれば窓を開けていた。二、三日前のことだった、ウムトはフルカンに呼ばれ嫌な予感がしていた。
「何してんだ、早く来い」
「今行きます、少し待ってください」と返事したのに急いでいたのだろうか、目の前にフルカンがいた。積み上げられたファイルの上に叩きつけるように一枚の紙を置いた。ウムトは崩れそうになるファイルを必死に押さえた。
「なんですかこれは?」
「お前、記事を書きたいって言ってたな?アフメド医師と病院について一つ記事を書いてくれ」
高圧的な態度は気に食わないが、フルカンの言うことに対して断るという選択肢はなかった。ただ記事を書きたいと言ったのは本当だった。
フルカンは、ウムトの返事を聞くことなく、そのままトイレのサンダルを引きずるようにして歩きながら自分の机に戻っていった。紙にはアフメド医師の名前と病院の住所が書かれていた。
紙に記された病院へ行ったものの、アフメド医師は手術中で、受付に電話番号を残して病院を後にした。次の日、また病院に行くとアフメド医師を顔を合わせることができた。彼がどのような人間であるか知らなかったが、新聞記者に対して好意的ではなかった。
調べた限り、アフメド医師はウムトが思っていたよりもずっと優秀な医者だった。心臓外科医であることもその時、初めて知った。若い頃、アメリカの病院で働いていた。成功した医者の例として申し分ない経歴があった。
アフメド医師の成功した経歴に目を背けたくなるような人生だった。嫉妬とは程遠く、あまりにもかけ離れたエリートの人生だった。
誰もが羨むような人生を過ごしてきたのにも関わらず、医学誌に映るアフメド医師の顔には、自惚れはなかった。むしろ過去に締めつけられいるような苦しみに似た表情が浮かんでいた。
アフメド医師は他の医師たちよりもはっきりと医師としての無力さを感じているようだった。全てはウムトの単なる憶測であり、根拠などなかった。その写真の中でアフメド医師の奥に映る一つの美しい瓶がウムトは気になった。贈り物だろうか?
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