第2話  苺摘み

辺境の領主、ドオモは、王都ホーズからの花嫁募集のお手紙を見てため息をつきました。


「うーん、この参加特典っていうのがなぁ」


「魅力的ですねぇ」

ドオモの妻、サリィも夫の考えに同意するように頷きます。


全国一斉花嫁募集、それはセオ王子の側近、ハリーの苦肉の策でした。


「なお、花嫁に立候補しただけで、参加特典の金貨を200枚差し上げます!」

(なんたってハリーは、3か月以内にセオ王子に花嫁を見つけないと一族郎党殺すと、王から脅されているのですから必死です。)


「金貨200枚といえば、何年か分の、息子たちの研究費になるなぁ」


ドオモ夫婦には息子が5人、末に娘が1人いるのですが、

5人の息子は全員、なぜか妹が生まれた頃から研究熱心の理系男子になってしまったのです。


もともとアルハカの特産品は魔法草を使った薬。

領主一族だけがそのレシピを受け継いでいるのですが、

息子たちはその秘伝のレシピをグレードアップするのに命をかけているのでした。


しかしそのための研究費もバカにならず、

他の地方から取り寄せる魔法草の料金を工面するのがちょっと難しくなってきていたのでした。


「新しいレシピが完成すれば、ボロ儲けする!」

とかなんとか、5人の息子は言っておりました。


今あるレシピの売れ筋は「白状し草薬」。


その名の通り、聞かれた質問にはつい正直に言ってしまうという薬です。


しかし、ここ数年「白状し草」が不作で、

もう在庫がわずかしかない状態でした。


つまり領主と言ってもお金が不足している、ということなのです。


幸い作物はよく育つ御土地柄でしたので食うに困ることはありませんでしたが、

急な出費などはちょっと困難、といった感じでした。


「しかし、ウチにはお妃候補に連れて行く令嬢などいないからなぁ」


「そうですねぇ」


「いっそ3番目の息子に女装でもさせて送り込むか!」


「まあおほほ、嫌ですわアナタったら!」


「はーっはっは!」


2人はすっかり末娘モモナのことを忘れています。


忘れたというより、マジで圏外認定しているのでした。




そのモモナは森で苺を収穫しています。


150センチ手前の小さな体、色白の顔、ミルクティー色の大きな瞳、フワリと三つ編みした栗色の髪。

一見するとまだ子供のようですが、モモナは18歳です。


唯一大人に見えるのは、その体に似合わない大きな大きな巨乳。


ドレスのボタンがはち切れそうになっています。


「モモナさまー!」

モモナのお世話を担当している侍女のカルディアが呼ぶ声に振り返った時、


胸のボタンが弾け飛びました。


「あーまただぁ…ごめんね、カルディア…」

モモナはあらわになった胸を隠しつつ謝りました。


「また大きくなっちゃったみたいですね。

ボタンの付け替えなんて、何回でも喜んでいたしますよ」


侍女カルディアはニコニコ微笑みました。


カルディアはモモナとは正反対の、大柄なスタイル抜群超美人。


この侍女、小さい頃からお世話しているモモナのことが死ぬほど好きなのです。


小さくてフワフワしていて、可愛い…可愛い…


自分の妹というか子供というかペットというか推しというか、まあそんな感じに思っています。


傍目から見ると、豪華な美人のカルディアの方が令嬢で、モモナの方が見習い侍女みたいに見えてしまうんですけどね。



「さあそろそろ城に戻りましょう。ボタンも外れたことですし」


「うん。あ、あと少し、あそこの苺取ってからでもいい?」


「はい」


モモナは、河辺の茂みの奥に苺の大群が実っているのを見つけていましたから、どうしても摘み取りたかったのです。


「トコトコ」


「…カルディア、私が歩くときに効果音つけるのやめて…」


「はーい」


モモナは少し膨れっ面をしつつ、大きな苺に手を伸ばしました。


と、同時に、もう一つの手がその苺を取ろうとしています。


「ん?」


その手の主は、行き倒れている金髪の男、

ハリーでした。






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