第2話 自主退学

 昨日。

 俺は2年の途中で高校を辞めてやった。

 地元じゃ有名な中高一貫の進学校だったから仕方ないが、とんでもなく校則が厳しい学校だった。


 下着の色は白。

 髪は染めてはいけない。パーマなんて論外。アイロンで巻くのも、もちろん不可。

 コンタクトは不可。

 化粧は不可。

 眉毛を整えるのも不可。

 学校外でもなるべく制服着用。

 私服は派手なものは控える。

 異性同性問わず、性的接触のある交際は厳禁。

 自宅外に宿泊するときは、担任に届け出ること。


 などなど。

 要は、勉強以外にうつつを抜かすな、ってことなんだろう。

 いつの時代の校則だって感じだ。今、令和だぞ?

 父ちゃんも母ちゃんも、俺が辞めると言った時は反対はしなかった。

 俺が、あらぬ嫌疑をかけられて停学を食らったことに納得していないことを、理解してくれていたからだ。


 あらぬ嫌疑。

 それは。


 性的接触のある交際を強要した、という嫌疑。


 俺はハメられたんだ。

 いやいや、ソッチのハメるじゃなくて。

 自慢じゃないが、俺の成績は学年でも上位。それを、親友だと思っていた奴が妬んでいたらしい。

 ソイツは3年の特進クラスに入るにはあと少し成績が足りなくて、誰かが1人でも-例えば俺とか-落ちればソイツが入れる事は間違いなかったから。

 ずっと親友だと思っていたのに、気づかなかった俺は己のアホさを呪わずにはいられない。

 キツイ勉強の毎日の中で、ソイツだけが唯一の心の支えだったのに。


 放課後の教室でふざけていた俺の腕を、ソイツが突然強く掴んだもんだから、ソイツに覆いかぶさるような体勢で俺はソイツの上に倒れ込んだ。

 ちょうどその時、タイミングよく担任が教室に入ってきて。

 ソイツはいつの間にか涙なんて流しながら、担任に訴えたんだ。


『先生、助けてっ!寛汰がオレをっ…』


 ってな。


 あらかじめ担任に教室に来るようにお願いしておいて、タイミングを見計らって実行したんだろう。

 俺はあの日、早く帰ろうと思っていたところを、なんだかんだとソイツの長話で引き留められていたのだから。



「いかがでしょうか?」


 美容師のお兄さんの声にハッと我に返り、鏡の中の俺自身を見る。


「おぉっ、いいっスねっ!」


 そこにいたのは。

 目に痛いくらい眩しい、パツキンウェービー頭の俺だった。

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