第2話 結婚してから恋をしました
結婚して、初夜を経て、やっと恋をするなんて。
「ううううう……」
これから後期の試験期間ということもあり、新婚旅行は春休みになってから行くことに決まった。
ちなみに、結婚したのだからと猫又さんは私の下宿先に一緒に住むことになった。普通学生専用のマンションにもう一人住むとなると契約がどうのと言われそうだが、そこは妖怪補正なのかすんなり受け入れられてしまった。
結婚して初めて知ったことだが、猫又さんはお仕事をしているらしい。
「近所のパトロールとかじゃないの?」
「……それは猫がやっていることだろう」
呆れたように答える猫又さんだったが、目が笑っている。
彼の職業はなんと気象予報士だった。
「なんで気象予報士?」
「わしらはどういうわけか次の日の天候がわかるのだ。もちろん自分が行動する範囲に限定されるのだがな」
それらを毎日報告する人や妖怪がいて、統計資料や衛星写真と合わせて天気予報はされているのだというから驚きだ。
天候が予測できるのは元々動物から妖怪になった者たちが主らしい。
「でも、外れることもあるよ?」
「突発性の事象には前日では対応できぬ。天候というのは狭い範囲で変わるものだ。いくら地域をなになに市、というように区切っていてもその中でも変わってくる。それ故に前日の予測では外れることもある。人間は気象に鈍感な者が多い。天気予報はあくまで予報だ。天候による体調の変化なども考慮すれば自ずとわかるはずだ」
それを言われると耳が痛い。
「ええっと、じゃあ地震とか、噴火とかは……」
「地震は
いるんだ、と感心してしまった。
試験期間ということもあり、昼間猫又さんは三毛猫さんの姿でいてくれる。その毛皮を撫でながら教科書を見返したりするのは至福のひとときだ。食事の際は人型をとっている。基本は肉食らしいが妖怪なのでなんでも食べるらしい。そういえば三毛猫さんの時はめったにうちでごはんを食べなかった。たまに食卓の上でキャットフードではなく魚の身をほぐしたものを食べていたことを思い出す。
「大介さんは猫の姿でごはんを食べるのは抵抗ないの?」
「元々が獣故な。手も使えるがそのまま食べても気にはならぬ」
いろいろな一面が知れてとても楽しい。
まだまだ寒いので夜は一つの布団にくるまって眠る。結婚したので布団はセミダブルの物に変えた。猫又さんは夜は必ず人型をとり、私を抱きしめて眠る。試験期間中なのでするのはせいぜいキスぐらいだがそれでもどきどきが止まらない。猫の姿の猫又さんも好きだが人型をとっている猫又さんもたまらない。
ああもうなんという贅沢。
婚約指輪ももらったけど怖くてつけられないから結婚指輪だけつけた。
「行ってきます」
いってらっしゃいのキスをされ、顔を真っ赤にして家を出る。
今日の試験も無事できるだろうか。
今日の試験は必修のものだったので見慣れた顔がちらほらあった。
「ゆかー、ごはんは?」
友だちの姿が見られて嬉しくなる。そういえば特に連絡もしていなかった。
「食べて帰ろうかな」
「じゃあ一緒に行く? 木村たちもいるけど」
「うん」
大学のカフェテリアで昼食を共にすることにした。
メンバーは私を入れて五人。男子二人と女子三人だった。
「そういえばゆか、結婚したんだって?」
「うん」
「ええっ!? いつのまに!?」
友だちの優子には伝えていたが他の顔見知りにはもちろん言っていなかった。他の三人はよほど驚いたのか大きな声を上げた。
「もー、式に呼んでほしかったなー」
「ごめんね。内輪だけの式で、両親にせかされたから……」
学生の内に人妻になっておきたかったというのもある。学生で人妻、なんか自分で萌えてしまう。
三人が興味津々という顔をしていたのでさりげなく左手を見えるようにした。
「本当に、結婚したんだ。どんな人なワケ?」
木村君に聞かれ、「うちに長年住んでた猫又さん」と素直に答えた。
「え、妖怪なの? マジで?」
「うん。ステキな猫又さんだよ」
「ゆかってばいいな~。妖怪ってすんごく甘やかしてくれるっていうよね。旦那さんの友だちとか紹介してよー」
「交友関係はわからないけど、聞いてみるね」
優子と盛り上がっているのを何故か木村君がじっと見ていたけど、特に気にならなかった。隠す必要もないけど、妖怪に対して偏見を持つ人もいるとは聞いていたから。
その日の夜、いつになく猫又さんにいっぱい嗅がれた。
「……雄の匂いがするな」
「カフェテリアでランチ一緒にしただけだよ?」
「……しかたないことだが……。ゆか、そなた就職はどうする? したいと思う仕事がなければしなくてもよい。わしの給料で十分食べていける故な」
「うわぁ……これぞまさしく永久就職だぁ。家にいていいの?」
「わしら妖怪は嫉妬深い。できれば家にいてほしい」
猫又さんをぎゅっと抱きしめ返す。やっぱり胸のどきどきが止まらない。
嫉妬深いとか、独占欲とか、もう私の大好物だ。
「大介さん、大好き……」
「ゆか……あまり煽るでない」
いっぱい甘やかされて息もたえだえになった。
明日の試験、大丈夫かな。
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