第27話 ギルティーぱい

 罪深い。


 誠に、罪深いことだ。


「舞浜さん、ちゃんと胸のボタンを閉めなさい」


「でも、先生。あたち、胸がさらに成長しちゃって……ボタン、閉まらないんですぅ」


「ダメよ、衣替えで夏服になったんだから。ちゃんと締めないと、周りがザワつくでしょ」


「あんっ、マコちゃん先生、何をするの?」


「全く、女子高生のくせに、こんなイケないお乳を……隠しなさい!」


「やんっ♡」


 ぎちちっ、むちちっ。


「ふぅ、何とか留めたわ」


「あ、マコちゃん、ダ、ダメ」


「えっ?」


 ミチチ……


 バッツン!


 ブヒュンッ!


 ベチッ!


「あいたッ!?」


「あぁ~、ボタン破壊しちゃった~」


「……何よ、この敗北感は」


 彼女とクラス担任のプチ百合プレイなのを見せつけられていた。


 いや、俺が勝手にガン見していただけなんだけど。


 おい、周りのクソ野郎どもは見るなぁ!


「あ、ショータ♡」


 リナちゃんは俺の存在に気が付き、


「えへへ、おっはよ~♡」


 ボタンが弾けて、胸元ガバ開き状態なものだから。


 ブルルン! バルルン!


 アホみたいにおっぱいが揺れていた。


 おぉ、さすがHカップ……じゃなくて!


「見せもんじゃねぇ!」


 俺は自分でもビックリするくらい、興奮していた周りの男子どもを威嚇いかくする。


 そして、慌てて彼女の下に駆け寄る。


「リナちゃん!」


「あん、ショータの方からも来てくれるなんて、うれち~!」


 喜ぶスマイルが可愛いけど、今はそれどころじゃない。


 俺は走りながら、同じく夏服の半袖ワイシャツを脱ぐ。


 それでリナちゃんの無防備に暴れるおっぱいを捕えた。


「きゃんっ♡ ショータ?」


「リナちゃん、おっぱいが……」


「あっ、ごめんね♪」


「まあ、良いけど」


「ていうか、ショータ……いつの間に、こんな筋肉が♡」


「えっ? ああ、まあ、そこそこね」


「もう、ますます惚れちゃう♡」


 リナちゃんが俺に抱き付く。


 Yシャツで覆われていても、凄まじい破壊力のスタンプ。


 周りの野郎どもが、


「「「「「もげろ」」」」」


 とか言うけど、もはやどうでも良い。


「こら、あなた達。廊下でイチャつかないの」


 マコちゃん先生こと、篠原真琴しのはらまこと先生がため息まじりに言う。


「あ、すみません」


「ごめんね~、マコちゃん。やらみそで彼氏ナシなのに、見せつけちゃって」


「誰がよ! 私だって、それくらい経験はあるわよ!」


 と、篠原先生が叫ぶ。


 直後、ハッとして周りを見ると、


「マコちゃん先生は経験済みか」


「まあ、年上の女は、その方がエロいよな」


「でも、結局いまは彼氏ナシなんだろ?」


「何なら、おれが相手してやろうかな~」


「いやいや、おれが」


「抜け駆けすんなよ~」


 と、すっかり思春期サル思考を回しているものだから、


「きょ、教室に戻りなさい!」


 篠原先生は赤面しながら叱責しっせきを飛ばす。


 エロ男子どもは、怒られて嬉しそうに廊下を駆けて行く。


「全く……加瀬くん、あなたも」


「えっ?」


「その問題児ちゃん、彼氏ならちゃんとしつけておきなさい」


「何よ~、その言い方は。それに、もうちゃんとしつけられているし」


「どこら辺がよ?」


「だってあたし、ショータのゴッハンでおっぱいモミモミされると、もう頭がクラクラして、何でも言うことを聞いちゃう……」


「きょ、教室に戻りまーす!」


 俺は慌ててリナちゃんの口を塞ぎ、彼女を抱きかかえ、廊下をダッシュして行く。


「きゃんっ、ショータ♪ 力持ちぃ~♡」


「リナちゃん、あまりハシャがないでよ。俺まで怒られたじゃないか」


「えへへ、ごめんね~♪」


 全く反省する素振りを見せない彼女にガクリと肩を落とす。


「あっ……」


 教室まで戻って来た時、ふと声がして立ち止まる。


 そこには、とびきりの美少女が佇んでいた。


 夏服になっても、いや、だからこそ、その魅力がより引き立つのかもしれない。


 白いシャツに、黒い髪のコントラストが、素晴らしい。


 良かった、リナちゃんという可愛い彼女がいて。


 そうでなければ、俺は決して付き合うことの出来ない彼女に無駄な劣等感を抱いて、梅雨の時期にさらに沈んでいたかもしれない。


「おっ、メイちゃん。おはよ~♪」


「……え、ええ。おはよう」


 気のせいだろうか?


 佐伯さんの笑顔が、ぎこちない。


 いつも如才じょさいなく微笑んでいるイメージなのに。


 あ、そうか。


 今のこの状態がよろしくない……


「リナちゃん、下ろすよ」


「やん、もう?」


「あと、体操着に着替えなよ。そしたら、俺のワイシャツ返して」


「え~、あたち、授業中もショータの温もりを感じていたい♡」


「そ、そんな変態チックなこと言わないで」


「じゃあ、放課後にいっぱい……ね?」


「わ、分かったから。俺もこの格好じゃ、恥ずかしいんだよ」


「え~、何かワイルドで良いじゃん。ねえ、メイちゃんもそう思うでしょ?」


「へっ?」


 そう言われて、佐伯さんは肌着シャツ姿の俺を見る。


「お、お恥ずかしい限りで……」


「いえ、そんな……本当に、ちゃんと鍛えているのね」


「ま、まあ」


「良いでしょ~? あたちの自慢の細マッチョ彼氏♪ おまけに、デカ◯ンだし♡」


「リ、リナちゃん。いい加減にしてくれ」


「ごめんちゃい♪」


 やっぱり、反省した素振りを見せない。


 こんなバカップルぶりを見せつけられて、大人な佐伯さんもさすがに呆れているだろうなぁ……


「…………」


「佐伯さん?」


「あ、その……何でもないわ」


 そう言って、そそくさと教室に入ってしまう。


 俺はやはり、普段と様子が少し違う彼女に違和感を抱くけど……


「あ、どうしよう、ショータ」


「えっ?」


「今日、体育ないから、体操着もってきていない」


「マジかぁ」


「でも、大丈夫。他のクラスの友達に借りるから」


「そっか。さすが、コミュ力の高いギャル子ちゃんだね」


「そうでもないよ。メイちゃんの方が、人脈が広いだろうし」


「うん、そうだね……」


 先ほどの佐伯さんのぎこちない微笑みを思い出して。


 俺は少しばかり、彼女のことが気がかりなっていた。




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