Episode12 チエコ先生とキクちゃんのルノルマン・カードで水平思考クイズ「今は構ってられないの」

(出題者)チエコ先生

 36歳女性。ふわふわウエーブのロングヘア。


(回答者)キクちゃん

 15歳少女。つやつやストレートのおかっぱ頭。



【問題】


 今年の冬、愛美子(あみこ)さんは、恋人の男性と初めての旅行に行くことになりました。

 ドキドキワクワク。

 旅行のことを考えるだけで、愛美子さんの心は弾まずにはいられません。

 お洋服だって何着も新調してしまいましたし、荷造り中から早くも顔がにやけてきてしまいます。

 

 けれども、旅行当日の朝、案の定の展開と言うべきでしょうか……愛美子さんはうっかり寝坊してしまいました。

 ばっちりキメていくはずだったヘアメイクも、完成度は20パーセント程度のまま、自宅を飛び出さざるを得ませんでした。

 恋人の男性とは、新幹線のホームで待ち合わせです。

 新幹線の切符もすでに購入済ですし、待ち合わせの時刻に遅れてしまっては元も子もありません。

 時は止まってくれないし、巻き戻すこともできないのですから。


 まずは地下鉄に乗って、新幹線乗り場へと行く必要があります。

 ”今は構ってられないの”とばかりに髪も乱れに乱れ、ゼエゼエハアハアと息を切らした愛美子さんは、地下鉄のホームに降りる際、エレベーターを使おうとしました。

 しかし、エレベーター前にはすでは何人も並んでいるうえ、エレベーターそのものがなかなか来る様子がありません。

 よって、愛美子さんは階段でホームへと降りることにしました。

 これで何とか待ち合わせ時刻に間に合いそうです。


 ですが結局、愛美子さんは楽しみしていた旅行に行けなかったばかりか、恋人にもフラれてしまいました。

 さて、それはなぜでしょうか?



【質問と解答】


キクちゃん : 愛美子さん、気の毒ですね。せっかく楽しみにしていた旅行だったのに……。でも、愛美子さんは相当に頑張って待ち合わせ場所に行こうとしていましたよね。そして、この問題のタイトルが「今は構ってられないの」でもありますから、なりふり構わない状態のまま待ち合わせ場所に着いた愛美子さんは、恋人がいろいろとドン引きしてしまうほどの乱れ具合だったのでしょうか? 例えば、髪もボサボサで、ものすごく汗臭かったとか……。


チエコ先生 : NO。でも、「今は構ってられないの」に注目しているのはいい感じよ。


キクちゃん : ……? 「今は構ってられないの」が今回の問題を解くヒントなのですね。この”構ってられない”とは何に対してなのだろう?


チエコ先生 : キクちゃん、今回の解答に辿り着くための第一歩は、シンプルな質問をすることよ。愛美子さんはとても急いで待ち合わせ場所へと向かっていた……待ち合わせ時刻までに待ち合わせ場所に辿り着くことが、この時の彼女の最大にして唯一の願いであったはずよ。


キクちゃん : ということは、もしかして、愛美子さんは間に合わなかったのですか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : ……間に合わなかったんですね。問題文中に「これで何とか待ち合わせ時刻に間に合いそうです。」とあるから、てっきり間に合ったものだと思い込んでいました。恋人の男性にフラれた理由は、待ち合わせ時刻に遅れてしまったからですか?


チエコ先生 : NO。なお、補足しておくと、恋人の男性は愛美子さんが待ち合わせ時刻に遅れてしまったこと自体には怒っていないわ。


キクちゃん : 遅れてしまったこと自体には怒っていない? ということは、他に何か怒らせるようなことを愛美子さんがしてしまったということですか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : ……何だろう? 遅刻に対する言い訳がましいメッセージを恋人の男性に送ってしまったとかでしょうか?


チエコ先生 : NO。地下鉄のホームへと降りる前の愛美子さんの行動に注目してみて。


キクちゃん : 当初はエレベーターで降りる予定だったけど、人がたくさん並んでいたことなどもあって、階段で降りることにしたと……。確かに旅行用の大きな荷物を……重たいキャリーバッグなどを持っていたら、エレベーターで降りる方が安全だし、楽だって思いますよね。……ハッ! 重たいキャリーバッグを持った彼女は、エレベーターではなく階段でホームへ降りようとした?!


チエコ先生 : そうよ。その調子よ。


キクちゃん : 愛美子さんは急いで階段を下りている途中、手を滑らせ、キャリーバッグを落としてしまったのですか?


チエコ先生 : YES。愛美子さんのキャリーバッグは、運悪く前を歩いていたおばあさんにぶつかってしまったの。「ギャッ!」と悲鳴をあげたおばあさんの体は、その衝撃に耐えきれるわけがなく、そのまま階段を転げ落ちていった。


キクちゃん : ……故意ではないとはいえ、おばあさんに怪我をさせてしまったなら、知らん顔なんてできませんよね。


チエコ先生 : キクちゃん、この問題のタイトルを思い出してみて。そして、恋人の男性が怒っているということも。


キクちゃん : …………もしかして、愛美子さんはおばあさんの救助を行わずに、地下鉄に乗ってその場から立ち去ろうとしたのですか? 


チエコ先生 : YES。正解よ。この時の愛美子さんの心中は「このおばあさんの救助を行っていたら、絶対に旅行に間に合わなくなっちゃう。すごく痛そうに呻いているけど、血はちょっとしか出てないみたいだし、命に係わるような重傷でもなさそうだから、そんなに大事にはならないわよ、たぶん。……普段の私だったら、ちゃんと救助にあたっていたけど、恋人との旅行に間に合うか間に合わないかの非常時なんだから! ”今はこのおばあさんに構ってられないの”。だから、ごめんなさい!」といったものだったわ。彼女は重たいキャリーバッグを引きずって、ちょうどホームへとやってきた地下鉄に乗り、そそくさと逃げようとした。でも、一部始終を見ていた周りの人たちに「ちょっと、あなた!」とか「逃げるなよ!」といった具合に、逃亡を阻止されたのよ。


キクちゃん : 非常時の行動にこそ、その人の本性が出るって本当なのかもしれないです……。恋人の男性を怒らせて、フラれてしまったのも、彼女のこの行動が耳に入ったからだったのですね。



(完)

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