Episode4 長期的な友情

 今回の話の主人公である彼女は、長期的な友情を魂の底から求めていた。

 ”長期的”と一言で言っても、その期間の想定は人によって様々であるだろう。

 彼女にとっての”長期的”とは、自身の肉体の寿命が尽きるまで……すなわち、一生涯ものの友情を求めていたのだ。


 ちなみに彼女は、思春期といった多感な時期はとうに過ぎており、同世代の女性は結婚や出産を経験している者が大多数となっている年齢であった。

 彼女は、そちら方面には一切の興味はなく、肉欲に突き動かされたがために湧き上がるであろう異性もしくは同性間の愛情などよりも、友情こそが遥かに尊いものであると考えていた。


 彼女自身も長期的な友情を手に入れるため、自分なりの努力は積み重ねてはきたつもりだ。

 だが、かつての友人たちとはクラス替えや進学、就職や結婚などをきっかけに今や完全に疎遠となってしまっていた。

 その友人たちという名の船は錨を下ろして、ずっと彼女という名の港町に留まってくれるわけではなかった。

 

 彼女は願う。

 友人なら、ずっと私のそばにいて欲しい。

 いつも私の話を聞いて、私の言葉に頷いて欲しい。

 他の人とは必要以上に仲良くせずに、私の一番の友人でいて欲しい。

 私が望むのは”それぐらい”なのに、と。


 願い続ける彼女は、ふと思った。

 作れば……いや、自分で創ればいい。

 自分の外に求めるのではなく、自分の内から生み出せばいいんだ。

 彼女はインターネットや書籍等を読み漁り、「タルパ」なるものの創造に専念した。

 そして、数年の月日を経て、なんとか実体化することができるようになった。

 もともと霊的な力を授けられた者ではなくとも、切なる願望と執念によって努力を積み重ねれば、ある程度のラインには到達することはできるものだ。


 やっと創ることができた彼女だけの友人。

 なお、実体化とは言っても、友人の姿を見ることができるのは彼女だけであるし、友人の声を聴くことができるのも彼女だけである。

 そう、まさに様々な意味で友人は”彼女だけの友人”であった。

 彼女が友人を消そうとしない限り、一生涯、友人は彼女のそばにいてくれるだろう。


 こうして彼女は”長期的な友情”を手に入れた。

 これでもう、寂しくなどない。

 彼女たち二人は、ずっと一緒。

 若い子たちの言葉で言うなら、ズッ友だ。

 互いに女というかメス同士ではあるものの、彼女たちの魂は交尾中の蛇のごとく常に絡み合い、一生涯、離れることはないであろう。

 しかし、「これにて、めでたしめでたし」とはならなかった。


 彼女が創り上げた者は、”いつも彼女の話を聞いて、彼女の言葉に頷いてくれる友人”であった。

 すなわち、彼女の言葉に同意ならび賛成しかしない設定で作っているのだ。

 反対ならび反論したり、彼女を諌めてくれたり、止めてくれたりなんてことは一切しない設定なのだ。

 

 例えば、”自分の物と人の物の区別がつかなくなることがある彼女”が、人の物に勝手に手を伸ばして手中に収めてしまった時なども、友人はただニコニコして頷くだけだ。

 そればかりか、友人は「それ、欲しくなっちゃうよね。ううん、欲しいよね。だから、もらっちゃってもいいんじゃない? 今がチャンスだよ」と彼女に話しかけてくる。


 ちなみに、彼女自身が認識している悪行とは、殺人や強盗、それに”金を盗む”ことであり、対象が物であるならば自分が”もらった”としても悪行には該当しないと考えていた。

 そんな彼女が創った友人も、当然、同じ考えだ。

 よって、その行為が悪行との自覚のない彼女の盗癖はますます加速していった。


 なぜ、彼女は今まで気づかなかったというか、自身の行いを顧みることをしなかったのだろう。

 かつての友人たちと”完全に”疎遠となってしまったのは、クラス替えや進学、就職や結婚に伴う環境の変化によるものではなく、彼女自身に原因があったということに。


 「類は友を呼ぶ」「朱に交われば赤くなる」ということわざがあるも、彼女の場合は「類を求め友を創る」「朱より生まれしものは、やはり朱であった」といったところか。


 彼女たち二人の”長期的な友情”は、言い換えると”長期的な窃盗”はこれからも……彼女の肉体の寿命が尽きるまで続いていくであろう。



(完)

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