第5章 第5話 追い詰められる桃香 そしていなくなるNPC
「で…なんであなたは風俗嬢に紛れていたの?」
桃香は不審者の取り調べをするための、殺風景な部屋に連れて来られていた。風俗店の従業員であるスミレは、早速桃香に対して質問をした。
「単刀直入に聞くわね。あなたは何処から来た何者なの?」
「…ブラックエリアに流れ着いて来た者同士なら、分かるでしょ。ボクに居ていい場所なんて無かったんだよ」
桃香には素性を明かす気など、当然ながら無かった。ブラックエリアにいる者なら、過去について話さないのは当たり前だからである。
「こんな所に忍び込んで来たんだし、まともじゃないやヤツなのは分かってる」
ブラックエリアの賭場の管理人である事を証明すれば、この場からは脱出可能だろう。だが、長期的な視点で見れば無駄な争いを生むデメリットの方が大きい。
(対して強くない女1人を倒すのは簡単だけど…もう少し事態の変化を待ってもいいかな)
ーー
(桃香は上手くやっているかな…)
鼎は風俗店の客として、ナオに相手をしてもらっていた。もちろん客のフリをしているだけなので、ナオに何かする気は無い。
「まぁこのご時世、真面目に働いていても生活は苦しくて…ごめんナオ、ここで電話出ていい?」
「大丈夫ですよ」
ナオと世間話をしていた鼎のデバイスから、着信音が鳴り響いた。ナオの許可をもらってから電話に出ると、かなり慌てている声が聞こえて来た。
「この声は…アリス?すごい慌ててるみたいだけど緊急事態?」
「ペルタがいなくなった!」
鼎はすぐに電話の向こうで起きている事態の異常性を理解した。ゲームのNPCが“外側”に出るなど、当然ながらあり得ないはずだからだ。
「ペルタの居所の目星はついてる?他のルナプロのNPCに話は聞いた?」
「NPCの子達に聞いたら、ペルタはずっと外の世界への憧れを語ってたって言ってました…ペルタは多分まだメインストリートにいるはずです」
落ち着きを取り戻したアリスは、現在起きている事態について鼎に伝えた。脳内で情報を整理しながら、鼎は最善策を考え続けた。
「ペルタって長いオレンジ色の髪の子だよね。すぐには動けないけど、私がいるギルドのメンバーにメッセージを送る…ギルド名変わってるかな」
「助かります…私は鼎さんがいるギルド、ワーウルフズと協力して捜索します。進展があったら連絡します…」
通話が切れて、鼎はふと以前のギルド名を思い出す。“アルティメット気持ち良すぎだろギャラクシー”という、桃香のあまりに壊滅的なセンスから生み出された名前だ。
(ワウカ、ギルド名変えたんだ…まあギルドマスターの桃香がほとんどプレイしてなかったんだし、勝手に名前変えられても文句言えないだろうな)
桃香は先日起こした騒動のせいで、ギルド出入り禁止になった。ついでにギルドマスターもワウカに変わってしまった。
「大丈夫ですか?電話の相手はかなり焦ってるみたいでしたけど…」
「だからって私が焦っても事態は変わらない。ここで出来ることをやるよ」
「さっきゲームのNPCの話をしていましたが…」
「うん、lunar eclipse projectってゲームなんだけど…知ってる?」
「るな…いく?」
「やっぱり知らないか。だいぶマイナーなゲームだからね」
ナオはきょとんとした表情だったが、改めて真剣な顔になって鼎を見つめた。鼎もそんな彼女の顔を見て、これから何を言うのかを察した。
「鼎さんがここに来た目的は何ですか?ただのお客さんじゃ無いですよね…?」
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