第3章 第2話 007→003

(アナザーアース開発者やテロ組織に関わる情報…確かにアナザーアース内だとログが残る可能性があるけど…)


鼎はそこまで警戒する必要があるのか、少し迷った。しかし、アバターが使えないのでアナザーアースにログインできず、やる事が無いのは間違いなかった。


『明日じゃ早すぎる?良い景色がある場所と美味しいご飯が食べられる場所も教えて欲しいんだけど』


『分かったよ。明日でも全然OK』


ーー


『明日、早朝にそっちに向かうよ』


『しっかり観光するつもりだね…ちゃんとマップ作ってあげる』


鼎は明日の早朝に家を出られる様にするため、すぐに準備を始めた。今まで行ったことの無い場所に行くので、少しソワソワしていたのだ。


(荷物はポケットに入る範囲で…)


今回は財布等のみにして、余計な荷物は持たずに行くつもりだった。準備して色々持ちすぎると、却って邪魔になるからである。


(持ってくのはこれだけかな…)


鼎はポケットに、様々な場所で支払いに使える上に電話やメッセージの送信に必要なデバイスと、現金が入った財布を入れていく事にした。念入りな準備が必要かと思ったが、そんな事は無かった。


(…早く寝るか)


鼎は家にあった冷凍食品を食べて風呂に入り、早めに眠りについた。明日は早朝に起きる事に決めているので、寝坊したのでしょうがない、という事態は避けたかったのだ。


ーー


(何だかしっかり寝れた気がする…シャワー浴びて服を着替えて…)


朝早くに起きた鼎は朝食はエリア003へ向かう列車の中で食べる事にして、早々に出かける準備を済ませた。ポケットに財布とデバイスを入れて、コートを着る。


(11月になって一気に寒くなったな…003はもっと冷えてるんだっけ)


部屋の外に出た鼎は凍えた空気を感じて、冬の到来を実感する。しっかりと戸締りを確認した上で、鼎は駅へと急ぐ。


ーー


駅のホームで待っていると、鼎の前に止まったのは普通列車だった。彼女が乗る事にしていた列車で、専用券は必要なかった。


(上級車両に乗ると無駄に金取られるからね…)


普通列車でもシートの質は十分で、列車の揺れも殆ど無い。わざわざ高い専用のチケットがいる上級車に乗るのは、余程の金持ちか鉄道オタクぐらいだろう。


『今003行きの電車に乗った』


『まだ7時…本当に早いね。オススメスポットゆっくり見ると良いよ』


ーー


003行きの電車の中で、鼎は朝食セットを購入した。贅沢するわけにはいかないので、セットメニューの中でも特に安い物にした。


(マフィンとスクランブルエッグ、ハッシュポテトやソーセージパティ…)


蓋を開けると、そこには食欲を減衰させる光景が広がっていた。潰れたオムレツの様なスクランブルエッグが、乱雑にソーセージパティの上に載せられていたのだ。


(不味そうだが…仕方ない)


ハッシュポテト、ソーセージパティの味はかなり塩っぱく、ストロベリージャムを塗ったマフィン、塩と胡椒をかけたスクランブルエッグの味は微妙としか言えなかった。見た目ほど不味いわけではなかったが、また食べたいとは思えなかった。


『そんなの食べたの?もうちょっと美味しいヤツじゃなくて良かったの…?』


『ここには金をかけないからいいの』


朝食を食べ終えた鼎は、車窓から外の景色を眺め始めた。居住用エリアとして整備されていない土地には、不毛の荒野が広がるだけだった。


『環境破壊が何度も繰り返されたからね…これも人類の業ってヤツかな』


『戦争も…人類は何度も繰り返した』


西暦2090年までに人々は何度も戦争を行い、環境を壊し続けた。その結果多くの人命がうしなわれ、地球は荒廃した。


『さっきのヒドイ飯で、お腹は満たせた?』


『まぁね…あっ見えてきたよバカでかいソーラーパネルが』


窪地の中心にある広大なエリアの中心に咲いているのは、ソーラーパネルの花。最も栄えていると言われる、エリア003は間近だった。


ーー


『今は別に行楽シーズンじゃないよね?』


『うん』


『駅前の人多い…』


『007とは、住んでる人の数が違うからね』


003ステーション、雪月花区の駅前は、沢山の人で賑わっていた。少子化による人口減少が深刻な007とはまったく異なる景色だった。


『それじゃ、しばらく観光してるよ』


ーー


鼎にとっては、エリア003の全てが近代的で珍しいものに見えた。歩いているだけで、007とは違い発展著しい土地だと感じ取れる。


(寒い…でも乾燥はしてない。天気制御システムも最新式にアップデートされてるってマップに書いてあったな)


003の秋はとても冷え込んでいたが空気が乾燥していないので、肌へのダメージはなかった。007と比べて、明らかに快適な気候が保たれていた。


(整備用ロボットも沢山いる…私が住んでるところにはいない機体だ)


あちこちの建物を最新式のロボットが整備しているのも、003ではよく見られる光景だった。鼎にとっては珍しい物が多く、ついキョロキョロしてしまう。


「あの、道に迷っているのでしたら、是非私たちのツアーに参加しませんか?」


(こういうのは妙な勧誘だったり、無駄に金を取られるヤツだ…)


そう思った鼎は余計な反応はせずに、さっさと早歩きして去って行った。無視してしまうのが、一番楽な対処法だと考えていた。


(近くから見ると本当に大きいな…)


鼎は巨大なソーラーパネルの根元のすぐそばまで来ている様に錯覚していた。サイズが大きい上に花びらの様な独特な形状なので、初めて来た人はどの程度近づいているか分かりにくいと感じる事もある。


(もうすぐ正午…桃香オススメの店は…)


ーー


(ラーメン屋じゃん…わたしの近所のところにある店よりも綺麗そうだけど)


桃香オススメの店は豚骨ラーメンが美味しいと評判の、ラーメン屋だった。鼎も存在は知っているほどの、有名なチェーン店だった。


(今日のお昼はラーメンにしようかな)


ーー


ここのラーメンはシンプルな豚骨ラーメンで、具はチャーシューとネギだった。見た目と匂いだけでも、間違いなく美味しいと分かった。


(何というか…コクがある。これは一気に食べれる!)


スープはこってりしすぎてない、まろやかさを感じるもので、とても食べやすいラーメンだった。具材もシンプルだったので、余計な主張を感じる事も無かった。


(麺自体も噛んだ感触も良い…)


この豚骨ラーメンはかなり食べやすく、鼎はあっという間に完食した。ややあっさりした豚骨ラーメンだったので、食べやすかったのだ。


(さて、もう少しあちこち見て回ろうかな)


ーー


昼ごはんにラーメンを食べた後は、マップにオススメスポットとして記載されていた展望台へ向かった。窪地の中心の街だったので、展望台から広大な荒野が見える訳では無かったが、窪地の上にある街が見えた。


(沢山の人が行き交う街…ここだけ見てると、人口減少が嘘みたいに思えてくる)


今は2時位で、相変わらず人や車が行き交っていた。鼎はここが自分が住んでいる場所とは違う"生きている街"である事を実感していた。


『鼎サーン、どこー』


『展望台』


『そろそろウチ来てよー』


『分かったよ』


桃香からの催促もあり、マップに記されていた目的地へ向かった。今いる場所からは少し遠いので、トラムを利用して行く事にした。


(平日の昼なのに、結構人いるなぁ…)


席に座って景色を眺める鼎は、トラムによって目的地へと運ばれて行く。目的地…"ボクの家"と記載されている場所まで、もう少しだ。


ーー


(ここが目的地のはずだけど…本当に桃香の家なの?)


目的地として記されていた場所にあったのは、かなり大きな一軒家だった。さすがに大豪邸とは言えなかったが、003全体で見てもかなり広々とした家だろう。


(あれは清掃用ロボット?)


一軒家の庭を整備していたのは、見た事の無いタイプのロボットだった。多機能型らしく複数のアームを使って、庭の草を整えていた。


『もう来たのね。鼎サンの前にあるのが、ボクの家だよ』

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