番外編1 第2話 開発者とテロ組織

「ここが奴らの本拠地です」


ネネと敦也は、テロ組織のアジトの裏に回り込んでいた。敦也の案内で、壁の裏側に張り巡らされている道を通ったのだ。


「奴らの装備は?」


「スポーツ用のビームライフルをベースにした、殺傷能力の高い銃がメインです」


「楽勝ですね」


「はい。こちらの装備は様々な戦況に対応可能な銃型デバイスM200です。こちらにとって有利な条件ですね」


ネネ達は装備を確認して、アジトへの潜入の準備を整えた。アジトの構造を念入りにチェックして、警備が薄い場所は何処かを突き止めた。


「ここから突入して、敵を一人ずつ始末します。分かりましたね?」


「了解です、油断せず行きましょう」


ーー


「なぁ…次の攻撃作戦の内容、無茶過ぎじゃね?」


「ホントな…ナガレの奴、俺達のこと単なる捨て駒だと思ってるだろ」


裏口付近の通路で、テロ組織のメンバーが愚痴を言っていた。捨て石同然に使われる下っ端達は、こうして文句を言ってストレスを発散することしか出来ない。


「文句言っててもしょうがないけど…って、おいどうした?」


2人いたメンバーの片方が、もう片方が黙っている事に気づいた。不審に思った瞬間に敦也の攻撃を受けて、アバターを破壊された。


「ひとまず、安全圏を確保しました」


「ご苦労でした。ここからは手早く済ませましょう」


2人のアバターを素早く破壊したのは、壁にグリッチによる穴を発生させて侵入した敦也だった。音も立てずに侵入して来た敦也とネネに気付く者はいなかった。


ーー


もう裏口付近にテロ組織の気配を感じないと判断したネネ達は、他のメンバーに気づかれないようにアジトに潜入した。待ち伏せを織り交ぜながら、アジトの奥深くへと侵入していくのだ。


(よし…敵に気付かれずに始末できているな)


ネネと敦也はテロリスト達の背後や頭上から攻撃して、敵に認識される事を防いでいた。こうすれば、アバターを壊される前に警報を鳴らされる事も無い。


「構成員の練度はかなり低いですね」


「ええ。テロリストの下っ端なんて、こんなものでしょう」


テロリストの構成員は、元々はチンピラだった者も多い。そうした連中は、アジト内にいる時に緊張感が緩む事も多いのだ。


「奥の制御室さえ押さえてしまえば、こちらの勝利はほぼ確定します」


「分かりました。行きましょう」


ーー


「おい、どうなっている?警備員のアバターか破壊されているぞ」


「チッ…誰も侵入者に気づかなかったのかよ」


制御室でゴシップ誌を読みながら監視カメラを見ていた男が、ようやく異常に気づいた。苛つきながら映像記録を確認し始めたが、既に手遅れだった。


「がっ?!」


「おいどうし…」


監視記録を見ていたメンバーが悲鳴を上げて即座に異変を感じたが、その次の瞬間に敦也の攻撃を受けた。監視室にいた2人の男は動かなくなり、制圧は完了した。


「さてと…後はここから警備システムを操作して、残りの構成員を攻撃するだけですね」


「…えげつないですね」


ネネは警備システムを直接操作してテロ組織の構成員のアバターを、銃器などで破壊した。大半の構成員は死角からの銃撃を避ける事は出来なかったが…


「敦也、警戒してください。1人、死角からの銃撃を回避した構成員がいます」


「手練れという事ですね」


警備システムによる銃撃を回避したのは、18歳くらいと思われる少女だった。幹部クラスの構成員では無さそうだが、実力者なのは間違いないだろう。


「警備システムをハッキングして銃撃を行ったので、制御室が押さえられている事にもおそらく気づかれています。注意してください」


「了解しまし…!彼女がすぐそこまで迫って来ています!このまま扉を破壊するつもりのようです!」


ガァン!


扉が吹き飛び瓦礫が飛び散り、敦也は即座にグリッチによるバリアを発生させる。瓦礫と細かい塵は完全に防がれて、ネネ達に届く事はなかった。


「随分妙なバリアを張ってますね〜そんな能力、普通のアバターは使えないはずだけど」


「悪いな、私とネネさんのは普通のアバターじゃ無いんだ」


少女は即座に大量の砲塔を召喚して、ネネ達を包囲した。敦也のグリッチバリアでは防げない射程範囲だった。


「…こうなるのなら、アバターじゃなくて抜け殻を着てくるべきでしたね」


「抜け殻を着る…?まぁ、今更手遅れですけどね。私は神谷流、覚えなくて良いですよ」


砲塔から一斉にビームが放たれるが、ネネと敦也は間一髪で回避する。このままでは、ビームで薙ぎ払われる結末になるのは確実だった。


「敦也、ここは一気に攻めに回った方が良いでしょう」


「分かりました!」


ネネと敦也は壁や天井を飛び跳ねる様に移動し始めた。流は彼らの行動に驚いたが、冷静に銃撃で彼らのアバターを狙った。


「なんて運動能力…銃弾が1発も当たらない」


「このまま突っ込みますよ!」


ネネはそのまま流にタックルをして、彼女の体勢を崩す。倒れそうな流に対して、敦也がさらに打撃を加える。


「ぐっ…まだっ!」


流は咄嗟に敦也に対して蹴りによる反撃を行うが、効果は薄かった。蹴りを受け止めた敦也は、渾身の一撃で流を吹っ飛ばす。


「がはっ…仕方ない!」


既にダメージが蓄積していた流は、袖に隠していたスイッチを押した。敦也は咄嗟に彼女のスイッチを叩き落としたが、既に手遅れだった。


近くのモニターに数字が表示される…


01:00 00:59


ズンッ…


「ネネさん!今押されたのはアジトを爆破する起爆装置のスイッチです!」


「…分かりました。脱出しましょう」


ネネは素早く判断して、すぐにアジトの入り口を目指す。敦也も彼女と一緒に脱出しようとするが、動かない流の方に視線を送る。


「彼女の捕縛は諦めます!急いでください!」


ネネに急かされた敦也は、流を放置してアジトからの脱出を目指す。敦也には、動く気配の無い流を気にする余裕は無かった。


ーー


「気をつけてください敦也。既に大部分が脆くなっています!」


「うわっ…破片が」


ネネは、敦也に爆発で飛んで来た破片を、グリッチで無害な形状に変換させながら逃げていた。敦也は急ぎつつも冷静に、自分達の障害になる物を排除しながら脱出を急いだ。


「カウントは?!」


「まだ30秒あります!」


敦也は壁にグリッチを発生させて穴を作り、ネネはそこに突っ込んで行った。アジトの外に繋がる穴に、敦也も急いで飛び込む。


「外に出れましたが、できるだけ離れましょう!」


00:15 00:14…


00:02 00:01


その瞬間、アジトを中心に凄まじい爆発が起こった。


ーー


「はぁ…はぁ….意外と危ない目に遭いましたね」


「まさかあんな派手に爆発するとは…」


ネネ達は爆炎で燃え盛る、アジトの跡を眺めていた。外を巻き込む様爆発ではなかったが、アジトは跡形もなくなってしまった。


「アジトに残されていたアバターは、木っ端微塵になってしまったみたいです」


「…ナガレは、おそらく無事でしょう」


「え…こんなに派手に爆発したのに、逃げ延びたのですか?」


「おそらくあの状態でも、ログアウトは可能でしょう」


あの時の流はアバターに大ダメージを受けていたが、その場から動く事以外の操作は容易だった。他の構成員とは違い、ログアウトして現実に戻った可能性は高い。


「テロ組織のログインと壊滅については、運営チームに報告しましょう」


こちらから敵では無いということを伝えれば、運営側からの信用も得られる。妙な動きを知られても、すぐにチェックが入る事は無くなるはずだ。


ーー


(テロ組織の前線基地も破壊できた…これで計画に集中できる…)


ネネの計画に必要なユーザーデータは、まだ質も量も足りていない。今までより、効率的なデータ収集手段が必要になっていた。


(ブラックエリア…利用できる連中がいるかも知れない)

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