隣国に売られた令嬢は幸せを掴む ー今更国のためと言われても知りませんー

甘糖むい

第1話

舗装されていない路上を荒々しく揺れる馬車がようやく止まり、エルシリアは伏せていた顔をあげた。

1週間かけての長い旅にエルシリアの精神も身体もへとへとだった。

王都から走り続ける馬車は一般的な物で、揺れがダイレクトにエルシリアに伝わり、おしりは何時間もの衝撃を受け止めたせいで、早くも筋肉痛を訴えていた。


ほどなくして開かれた馬車の扉から身を乗り出した。

馬車を降りるエルシリアに差し出される手もなく、震える膝を動かしてなんとか体制を整えて降りたそこは、想像よりもずっと大きく壮大な街が広がっていた。

自国の城よりも数倍大きな城が目の前に入り、エルシリアはそびえ立つ城を見上げた。

天辺を見るより先に首が痛くなり、全体像を見る事は諦めた。

エルシリアは、城の大きさを身体を持って知ることとなった。

白を基調とした城は金色が差し色として使われているからか、高貴さが漂っていて、こんな事でもなければ降りかかった幸運に喜んでいたかも知れない。けれど、今のエルシリアの目には、この美しい城がエルシリアを待つ牢獄に見えて仕方なかった。



プラシィオ王国とイシュレイ王国、ふたつの国の戦争が終わりを告げたのは、半年前のことだった。

最後には民すらも巻き込んだ長い戦争の結末は、王太子を敵国の王が直々に捉えて身柄を確保してしまった事で一気に型がついた。


終戦後、友好条約という名で結ばれたいくつかある敵国からの要求の内のひとつに今回エルシリアがイシュレイ王国に赴く理由があった。


一つ、王太子に変わる身柄の娘を友好の証としてイシュレイ国に嫁がせること


要は王族からひとり、人質として娘を差し出せと言う事だった。妃と言いながらも中身は体の良い人質で、本当に妃として扱われるのかもわからない。


何せ続く文言にはその姫の処遇は一切口出しや、抗議もしないと綴られていた。

可愛い娘3人を敵国にやりたくない王は、そんな条件に頭を悩ました。


そして一つの妙案を思いつく。

第二王女の侍女、エルシリアは第三王女であるアンジェラとよく似た髪を持っているという事を聞き、エルシリアを見た王は両手をあげて喜んだ。

幸い第三王女は身体が弱いとされていて殆ど社交に出る事はなかった。

見事なプラチナブロンドを持つ美女だと噂されているアンジェラの特徴をもつ侍女に王は告げた。


「友好の使者としてイシュレイ王国へ赴け」


王の名の下に言われてしまえはエルシリアに否は言えない。

それが国民の命をかけた犯罪の片棒であったとしても。


謹んで拝命した後、アンジェラのお古であるドレスに着替えさせられたエルシリアは馬車に乗り、イシュレイへ向かう事となった。


第三王女アンジェラの代わりとして。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る