第5話 セーラとメイド
セーラの勇者のパーティーでの役割は、俗にいう盾役やタンクと言われる、敵の攻撃をその身で受け仲間に攻撃が行かない様にする役割であった。
本来であれば、この役は大柄な男が務める役割であるが、セーラは女性の中でも平均的な体格であった。では、なぜセーラがこの役割を果たしたかというと、彼女の持つスキルと圧倒的身体能力が理由であった。
セーラの身体能力は、盾役やタンクを担当する人間の能力としては、群を抜いて動きがすばやかった。その能力をフルに使い、セーラは王宮にある用意された部屋に戻ると、魔王討伐の際に使った自分の相棒の剣を手に取った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
彼女の愛剣の名前はジ・レット。物理攻撃力だけなら勇者の聖剣をも上回ると言われた剣。
「レットごめんね、少しだけ力を貸して……」
そういってセーラは、剣を鞘から引き抜くと、剣の力を発動させる。それは、使用者の身体能力を爆発的に引き上げる力。これを使いセーラは、魔王にたどり着くまでに物理攻撃で戦う魔族を完封していた。
その剣を手に持ち、狙いを定めるセーラ。その狙いの先にあるのは、自分の体に薄っすら見える、ムダ毛。セーラに自分の体に剣を向ける事に一切の恐怖は無かった。
セーラは息を整えると、迷いなく自分のムダ毛に向かって剣を振るった。
キィン!
セーラの顔に、今日、何度目かの絶望の色が浮かぶ。セーラの振るった愛剣レットが、そのムダ毛に弾かれる。
「な、なんで……」
セーラは、剣を弾かれた姿勢でそう呟くと膝から崩れ落ちた。
コンコン
「セーラ様? セーラ様? お帰りになられたのですか? 入りますよ?」
ガチャリ
セーラの自室に入ったメイドが、床に倒れているセーラに気づく。
「どうしたんですか⁉ セーラ様⁉ セーラ様⁉」
「ああ、すみません、大丈夫です。」
「お倒れになっていて、大丈夫なはずがないでしょう! とにかくベッドに!」
そう言ってメイドが肩を貸しながらセーラをベットに連れていく。
「本当に大丈夫です……」
そう言った、セーラの顔には、悲壮感が漂っているため、メイドはその言葉を信用しなかったが、頑ななセーラの様子に言葉を合わせる。
「わかりました! 今はお休みになって下さい! すぐにお医者様を呼んで参ります!」
その言葉を聞きギョッとするセーラ。
「まっ! 待って! それは困る!」
そう言ってベットから飛び起きるセーラ。
「セーラ様⁉ そんな勢いよく起きて大丈夫なんですか⁉」
「はい、さっきから言ってるように大丈夫です。なのでお医者様は呼ばないでください」
本来であれば、医者に体を見られても、気にしないセーラだったが、勇者への思いと、剃刀が手にはいらなかった事で混乱していたために、医者にも体を見せる事をためらわれた。
「わ、わかりました……本当に大丈夫なのですね?」
「はい、大丈夫です。心配をおかけしてすみません。少し、1人にして下さい」
「わかりました。では、失礼いたします」
「ありがとう、気を使ってくれて……」
ガチャリ
メイドは、そう言って部屋を出る。
廊下にでメイドが扉の前でたたずむ。
「どうかしたんですか? ひぃっ⁉」
セーラ付きのメイドを見かけた他のメイドが、声をかけるがその表情を見て、思わず小さな悲鳴を上げる。
「ああ、すいません。なんでもありせんのでお気をつけて」
「はい、わかりました……」
そう言ってその場を離れるメイドであったが、セーラの部屋の前でたたずむメイドを気にして、何度も振り返るが、角を曲がりその姿が見えなくなるまでその様子は変わらなかった。
「何かのご病気なのでしょうか?」
セーラ付きのメイドはそう呟く。
セーラについているメイドの彼女は、特別なメイドであった。
彼女は、王宮に存在するメイドの中でも特に様々な対応をするメイドであり、もちろん、セーラの身の回りの世話もこなすが、セーラの暗殺や害意を持って近づくものを独断で排除できる権限を持っていた。
セーラ達の魔王討伐のための旅にもついていき、戦闘に直接参加することはなかったが、町や野宿をする際など戦闘以外の部分では、あらゆる手伝いをしていた。
先ほどは、医者を呼ぶとは言ったが、彼女はその医療の知識も持っており、そこらにいる医者とくらべても見劣りしない、むしろ勝っている。
そんな彼女が医者を呼ぶと言ったのは、さすがに王宮に務める医者にまでは及ばないためであった。
(普段のセーラ様と比べて昨日からは、特に元気がない。着替えの際には、気づかれない様にした体のチェックも問題なかった。勇者様がセーラ様に酷い事を⁉ いや、冷静にならなければ……セーラ様は勇者様の事を愛している。それに昨日セーラ様は勇者様と会う事はなかった。これは引き続きセーラ様の様子を見るしかない)
「チッ!」
メイドは、自分の考えがまとまらない事に苛立ち、舌打ちをすると部屋の前から立ち去る。
セーラ付きのメイドが部屋の前から移動し、角を曲がった後、彼女が向かった方向とは反対の角から顔を出すものが居た。
それは、部屋の前で彼女とすれ違ったメイド。
「ジェノ様すごくこわかったな~」
そう言って、ジェノが居ない事を確認したメイドは、顔を引っ込めるのであった。
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