第3話 セーラ長年の悩みからの解放


 勇者ム・シュウダを先頭に、魔王を倒すために集まった者達は、幕舎を目指し歩いて行く。

 そして、ム・シュウダが幕舎に着くと、その前では、戦況の報告を待っていた王族や貴族達が、今か今かと待ち構えていた。そんな中、ム・シュウダの姿を見た王族の1人が声を上げる。


「ム・シュウダ! 報告はあるか⁉」


 そう言った王族は、ム・シュウダが所属する人の国の王族であった。


「はい! 我々は、ついに魔王を討つ事に成功いたしました!」


 それまで、先ぶれで情報を聞いていた王族や貴族であったが、本人からその情報を聞いた幕舎にいた王族、貴族達が喜びの声を上げる。

 その喜びの声を上げる中、魔王討伐に参加した王族が口を開く。


「皆の者静まれ!」


 その言葉に辺りは静まり返り、視線が王族に集まる。


「勇者ム・シュウダよくやった! これで人類は安心して暮らすことができる! お手柄だ! さぁこれでは我々は、大手を振って国に帰れる! 皆の者! 国に帰るぞ!」


 こうして、勇者達と魔王討伐のために魔王城に向かった者達は、自国にかえるのであった。




 数日後。


 王都では、魔王討伐の正式発表の準備が行われており、特に王宮では多くの者が忙しくしていた。

 王宮の殆どの者達が忙しくする中、勇者達4人は、ゆっくりとくつろいでいた。

 魔王討伐を果たした4人は、数年にわたり旅を続けていたため、王自ら直々に休む様に言われたためであった。


 勇者達は、王宮に用意されたそれぞれの部屋で、旅の疲れをとっていた。


「セーラ様、お風呂の準備が整いました」

「ありがとうございます」


 セーラはメイドに感謝を伝えると、部屋に用意された風呂に向かう。


 セーラが浴室に入ると大きな姿鏡があった。

 その鏡は、セーラがお願いをして用意してもらった物。

 セーラは体を洗った後、湯船につかり体を温めると鏡の前に立つ。


「……女神様から頂いたスキルを使いましょう」


 セーラの声は落ち着いていたが、その内心は、長年の悩みから解放されると嬉しさで溢れていた。


「スキル【発毛】」


 普通スキルは、声に出さなければ発動しないわけではないのだが、セーラはあえて言葉にした。


 モサッ!


 セーラの下半身に毛がはえる。

 それを見たセーラは、幸せそうな顔をしながら、鏡に映った自分の姿を見る。


「ああ、これで恥ずかしくない……これで勇者様と……」


 そう満足そうに呟くセーラは、毛の生えた自分の姿を鏡で確認すると、あることに気づいた。


「む、旅が長かったので、少しムダ毛が……」


 セーラは、浴室に置かれた剃刀を持つとムダ毛の処理をしようと、刃をムダ毛にあてる。


 カチッ!


「えっ?」


 セーラは思わず驚きの声を上げる。剃刀をムダ毛に当てた瞬間に聞こえた音は、金属同士がぶつかる様な音であった。


 カチッ! カチッ! カチッ!


「ど、どうゆう事でしょうか?」


 カチッ! カチッ! カチッ! カチッ! カチッ! カチッ!


 何度剃刀を当てても、返ってくるのは、金属同士がぶつかる様な音。

 セーラは、徐々に剃刀に加える力を強くしていく。


 バキリ!


 そんな音を立てて折れたのは、剃刀であった。

 魔王討伐を勇者と共に果たしたセーラの力は、強い。その力に剃刀が耐えられなくなってしまった。

 セーラは、剃刀を見つめて、呟く。


「これでは、ムダ毛の処理ができません……これでは、念願の勇者様と……」


 ぶるるっ。


 ムダ毛としばらくの間、格闘していたセーラは、体が冷えたためにもう一度湯船に入る。


「どうしてこんなことに……なんで、ムダ毛が硬くなったのでしょうか……」


 そう呟いたセーラの目に涙が溜まり、それがこぼれると湯船に波紋が広がった。


 セーラは、体が温まると体を拭き、寝間着に着替えると、そのままフラフラと歩き、ベットに倒れこむ。ベットに倒れこむと、セーラは考える。


 (どうすれば、ムダ毛が処理できるのだろうか)


 それからしばらくの間、セーラは考え込むと一つの結論をだし、呟く。


「もしかしたら、あの剃刀より、もっと切れる物なら、ムダ毛の処理ができるかも……明日は、町にでて探してみよう」


 そう言ったセーラは、すぐに布団に入ると眠りにつくのであった。


 翌朝


 セーラが起きたのを確認したメイドにより、部屋に朝食が運ばれる。

 セーラは、朝食を食べた後、メイドに話しかける。


「今日は、少し町に行こうかと思います」

「わかりました。では、私もお供します」

「い、いえ、1人で買い物に行きたいので」

「私の事はお気になさらず」

「だ、大丈夫です。町の中に危険はないので、1人でいいです」

「魔王討伐をされたセーラ様にとっては、町に危険がないのはわかりますが、英雄のセーラ様を1人で買い物になど、行かす事はできません」

「どうしても、どうしても……1人で買い物がしたいのです……お願いします」


 そう言ったセーラの目尻には、涙が見える。

 それを見たメイドは困った表情をして、答える。


「セーラ様を困らせるつもりはなかったのです……わかりました。英雄様にも1人の時間は必要ですね。本当に1人で大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」


 涙を拭き、ニコリと笑ったセーラは、そうメイドに返事をするのであった。


 その後、セーラは変相をして、町に出かける。まだ正式な発表はされていないが、魔王が倒されたことは知れ渡っている。もちろん、その倒した勇者の仲間は全員姿ももちろん知られている。

 そんなセーラが、普通に町に行けば人が集まり騒ぎになりかねない。

 セーラは、魔王討伐を知り穏やかになった町を見ながら、道具屋に向うのだった。


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