ダメ! 絶対! 聖剣を使ってムダ毛処理をしてはいけません。~拝啓、勇者様 世界が平和になったのでしばらく聖剣をお借りします、理由は聞かないでください~
もう我慢できない
第1話 魔王討伐
「どうしよう……なんでこんな事に……」
セーラは、手に持っている勇者ム・シュウダの聖剣カイジ・ルシを見てそう呟いた。
魔王にとどめを刺した聖剣カイジ・ルシがひび割れていた。
時は、数日前にさかのぼる。
「ぐぁあああああ!」
大きな叫び声をあげ倒れる魔王。
「やった! ついにやったんだ!」
「シュウダ! ついに念願の討伐ですね!」
「ふん! 我等が居れば魔王を倒すなど造作もない!」
「魔王を倒したんだ…… 何か面白いアイテムはないか?」
この日、勇者のパーティーはついに魔王を倒す。
魔王を倒したパーティーは、今まで現れた勇者の中でも一番の勇者と言われるム・シュウダ(♂)。
教会から派遣された女聖騎士で、副団長のセーラ(♀)。
全ての魔法を操る、賢者ハーゲン(♂)。
この4人は魔王の軍勢と戦う全ての種族の願い、魔王の討伐をはたした。
4人が討伐に喜んでいる中、彼らの前に天から光が降り注ぎ、女神があらわれる。
「よくぞ魔王を倒してくれました。私は、魔王に封印されていた女神です。魔王討伐のお礼として、1人1つだけ望むスキルをさしあげます」
女神がそう言うと、さらに天から光が降り、注ぎ女神と勇者が光につつまれ、他のものからは中の様子がうかがえなくなる。
「まずは勇者。よくぞ魔王を倒してくれました。お礼として貴方の望むスキルを与えましょう」
勇者シュウダが魔王を倒す旅に出発し、魔王を倒すまでの間、一つ悔やんだ事があった。それは、戦闘中に起こった事故。女聖騎士セーラが魔物の攻撃によりその美しい髪の一部をを失った事であった。
そのため女神に尋ねられたシュウダは、本来なら自分のために答えるところをパーティーメンバーのセーラのために答えた。
「女神様、私が欲しいスキルは、パーティーメンバーの聖騎士セーラの髪……」
そこまで言って勇者シュウダは言葉を止める。
「失礼しました。聖騎士セーラの全身の毛を何にも負けない強固なものにしてください」
シュウダが言葉を止め言い直した理由は、髪だけでなく、あの長く美しいまつ毛や、女性ながらも整った眉毛は入らないのではないかと思ったためであった。
このセーラを思った発言がすぐ後に悲劇を生む。
勇者の言葉を聞き女神が答える。
「あなたに与えるスキルなのですが、彼女に与えてよいのですか?」
「はい! ぜひ彼女に!」
「……わかりました聖騎士セーラには、スキル【剛毛】を与えましょう」
勇者シュウダに降り注いだ光が天に帰り、再び聖騎士セーラに降り注いだ。
「聖騎士セーラ、勇者と共によくぞ魔王を討伐してくれました。あなたの望むスキルを1つ与えましょう」
「……」
女神の声に反応しないセーラに女神がたずねる。
「セーラ? どうしました? あなたの望むスキルを言いなさい」
「……お恥ずかしい話なのですが、体のどこにでも毛を生やす事の出来るスキルが欲しいのですが……、そんなスキルはあるのでしょうか?」
「……セーラ、何もはずかしい事はありませんよ。ではあなたにスキル【発毛】与えましょう」
聖騎士セーラが何故このようなスキルを選んだのか。それは、彼女の長年の悩みにあった。
(なんで、私の下の毛は、生えないのでしょうか?)
人々が彼女とすれ違えば、男性だけでなく女性までもが振り返る美しさをもつ聖騎士セーラ。セーラに結婚を申し込む貴族や王族、高レベルの冒険者がいる中で、みごとセーラの恋人になったのは、苦楽をともにした勇者シュウダであった。
そんなシュウダとは、旅の途中に良い雰囲気になることもあったが、一線を越える事はなかった。その理由も下の毛が生えていない恥ずかしさから……。
(これで下の毛が生えれば! はずかしくないです!)
「……女神様ありがとうございます」
セーラは喜びで声をあげそうになるも、ぐっと堪えしずかに女神に感謝をつたえる。
セーラが感謝を伝えると、2人を包んでいた光が天に帰る。
「では、次は……」
女神がそう言いながら残りの2人に目をむける。
「私は最後で良いよハーゲン」
「良いんですか? 師匠」
賢者ハーゲンと元賢者で大遊び人のラーンは、子弟の関係であった。
「わかりました」
女神がそう言うと再び天から光が降り注ぎ、女神と賢者ハーゲンが光に包まれる。
「賢者ハーゲンあなたの願うスキルはなんでしょうか?」
(私の長年隠してきた唯一の欠点、若ハゲを克服すことができる!)
光に包まれ、まわりから声を聞かれる事がないにも関わらず、まわりを気にしてハーゲンは声に出す事なく、心の中で喜びの声を上げる。
(ウッホホーイ!)
「では、女神様。私が欲するスキルは、体のどこにでも毛を生やす事の出来るスキルをいただきたく思います」
ハーゲンの言葉を聞くと、女神が悲しそうな顔をする。
その表情の変化を見たハーゲンが恐る恐る女神に尋ねる。
「女神様、何か不都合があるのでしょうか?」
「実は、そのスキルは今しがた与えてしまい……あなたに与える事ができません。他のスキルはないでしょうか?」
(シュウダかセーラも同じスキルを欲していたとは! いったいどうちらだ⁉ いや今そんな事はどうでもいい! いったい私はどうすれば……)
女神の言葉を聞き、ハーゲンは絶望したのだった。
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