巡る物語（うた）の世界で

序章

　夕日が差し込む教室。そこには数人の生徒が残り雑談していた。

「それでね、今度皆で新しくできたクレープ屋さんに行こうよ」

「俺は甘いものは苦手だ」

「僕もパス。千代達だけで行ってくれば」

金髪の少女……千代がそう話すと紺色の髪の男子……忍と薄茶色の髪の少年……柳が直ぐに答えた。

「えぇ～絶対。皆で行った方が楽しいと思うのに」

「そうですよ。布津彦さん達も誘って皆で行きませんか」

唇を尖らせる千代に同意するように緑の髪の少女……麗も語る。

「……」

その様子を少し離れた席から見ていた一人の少女が口元を笑みに歪めて立ち上がる。

「ねぇ、榊󠄀の森の伝説って知ってる？」

『！？』

急に話しかけられて自分達以外に人がいたことに驚く。

「え？　えぇっと……貴女誰だっけ？」

よほどこの少女がいた事に気付いていなかったのか動揺して変なことを尋ねる千代。

「雪奈だよ。いいかげんクラスメイトの名前くらい覚えたら」

「あ、そっか。そうだったね、ごめん」

「あの、榊󠄀の森の伝説って何ですか？」

雪奈と名乗った少女へと謝る彼女の隣から麗が問いかけた。

「昔から神隠しがあると言われている森だよ。聞いた事ない」

「そういえば……そんな話を昔聞いたことがあるような？」

「馬鹿々々しい、ただの都市伝説だろう」

彼女の言葉に千代もあいまいな記憶を引っぱりだしながら呟く。と、そこで柳が吐き捨てる。

「それが本当なのかどうか今から皆で確かめに行こうよ」

「え、でも。榊󠄀の森は神聖な場所だから入っちゃいけないってお母さん達が言っていたわ」

にこりと笑い言われた言葉に戸惑った様子で彼女が答えた。

「大丈夫、本当に異次元に繫がっているのかどうかちょっと確かめるだけだよ。どう、興味あるでしょ」

「そうね。ちょっと面白そうだから確かめてみたいとは思うわ」

「千代さんが行くなら私も行きます」

雪奈の言葉に女子二人は行くと言って答えるが、そこに不満そうな顔の男子達が口を開く。

「そんな都市伝説をわざわざ確かめに行くなんて馬鹿々々しい」

「そもそも立ち入りが禁止されている森に行くなど、貴様何か企んでいるのではないだろうな」

「そんなに心配なら風魔先生に保護者としてきてもらえるように頼めばいいじゃないか。大人と一緒なら問題ないでしょ」

「「……」」

二人の言葉は想定内だったようで口元を笑みに歪めたまま雪奈は彼等を見やるとそう言った。それに男子達は反論できずに押し黙る。

「ねぇ、柳。忍も一緒に行こうよ」

「千代達だけで行かせられないからね。仕方ないから付き合ってやるよ」

「……」

千代の言葉に折れた柳が言うと、忍も納得はしていないようだが付いて行くことを選ぶ。

「そうと決まれば早速風魔先生に頼みに行こう」

雪奈は謀りが成功し喜んでいるかのような顔で微笑むと教室を後にする。その背に皆ついて歩く。

これが全ての始まりを告げる事になるとは雪奈以外の全員が知る由もなかった。