「天ぷら」「雨音」「ささくれ」

雨の降りしきる梅雨時、グルメな男は車を走らせていた。

「山奥の辺境にこんなところが」

男は懐石料理店を見つけ、入ってみることにした。

そこはもうすでに誰か見つけててもおかしくないくらい、いかにも高級な店構えであった。

男は店長を呼び、注文をした。

「天ぷらセット一つ」

「あいよ!」

男は、料理を作っている店長の、小指全体を覆うような包帯が気になった。

「ところで店長その指の包帯何ですか?」

「ああ、最近ささくれができてね」

何気ない会話が終わり、少し待つと綺麗な天ぷらセットが運ばれてきた。

それはどれもとても美味であったので、また来ようと決心した。


梅雨も終わりかけた頃、男はまたあの懐石料理店に足を運んだ。

しかしそこには上から潰れるように店を破壊された跡があるだけであった。

静寂の中、雨音だけが無情に鳴っていた。

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