天照、魏へ援軍を送る

らんた

天照、魏へ援軍を送る

 ここは西九州新幹線の建設現場。そこでとんでもないものが発掘されたのだ。石棺の中にあった木箱に入ってるそれは『しょく・魏志倭人伝』であった。正式には『三国志』「魏書」第三十巻烏丸鮮卑東夷伝の続きがあったのだ。


 九州総合大学の考古学教授山下英雄はその古文書の内容にもびっくりした。


 「蓬莱の国に残す」と最後に記されていた。当時の中国人にとって日本は東に位置する蓬莱の国なのだ。かと思いきやこんな東の夷の国に頼りがってという魏への批判も記されていた。ばれたらまずかったのだろう。これが中国本土ではなく日本でわざわざ記され、ここ日本に史書を隠した理由でもあるのだ。


 さらに読み進めていくと……。


 「ばかな!?……いや、やはり!」


 やはり日の巫女=卑弥呼=天照であり「天照大神」とは襲名にして現人神だったのだ。そして卑弥呼の奴隷として墓に埋められたのではなく魏の援軍として中国に送り出されたと書いてあるのである。つまり奴隷は中国に「輸出」されていたのだ。それどころか選ばれし奴隷は本国へ戻ると重鎮として採用された上、卑弥呼の墓に一緒に埋葬される権利を得られたというのだ。まるで軍人奴隷マムルークである。いや、おそらく軍人奴隷であり奴隷にしてエリートなのであろう。「日本版マムルーク」が居たと命名しよう。鬼道の主を守るエリート集団である。彼らは死後も卑弥呼=天照を守る戦士となる。中国語で「鬼」とは死者。つまり彼らを降霊術で呼び、意見を聞いていたのだ。もちろん卑弥呼は死者となった戦士をも自由に操ることが出来るとされた。卑弥呼は中国人から見て死霊術師ネクロマンサーでもあるのだ。ゆえに国には「邪」の文字が、本人には「卑」の文字が充てられた。中国人にとってそれらの行為は邪悪で卑しいからだ。太陽の巫女は黒き太陽の巫女でもあるのだ。


 なんと邪馬台国は魏の援助を受け軍事強国になり、馬韓ばかんを制圧したのだ。もちろん馬韓は魏に献上された。従来の歴史は書き換えられこれにより馬韓の滅亡は百年以上早まった。


 そしていよいよ邪馬台国は出雲勢力に何度も攻める事となる。それも軍事力で殲滅するのではなく文字通り国譲りを迫っていたのだ。日本神話は単なる作り話ではなく、史実だったのだ!それどころか卑弥呼=天照軍は出雲勢力を倒す前に奴国なのくにも倒している。奴国とは例の金印を後漢からもらった国である。


 そしてアメノワカヒコがアメノサグメの助言に従い邪馬台国つまり天津神側を裏切ってシテタルヒメと結婚する場面もそのままであった。


 最後は卑弥呼=天照軍は国譲りに対する抵抗勢力を追って諏訪まで落ちのびたタケミナカタを制圧する。


 この時邪馬台国は「大和の国」として、つまり文字通り日本国誕生となるわけである。遷都も行われ佐賀から奈良へ遷都している。


 「つまり、日本という国は魏が作ったようなもの!?」


 難升米なしめによって中国に渡った邪馬台国軍は合計約千人にもなる。何回にも渡って船団で送り込んだのだ。


 中国に渡った邪馬台国軍は赤壁の戦いにも参加したのであろうか?


 西晋せいしんの誕生まで邪馬台国≒「大和国」は魏に援軍を送ったようだ。魏が消滅した後に大和国は馬韓の残党狩りも行い朝鮮半島にまで領土を拡大している。だから釜山のあたりの前方後円墳は九州の前方後円墳と形態が同一なのだ。


 また同時に熊襲くまそつまり南九州勢力とも戦っている。中国に援軍さえ送らなければ熊襲は大した勢力ではないだろう。しかし邪馬台国発祥の地、高千穂を熊襲の鬼八法師きはちほうしに取られている。熊襲との戦いは失地回復戦争なのだ。


 この発見により日本人も三国志の戦乱に巻き込まれたことを意味する大発見となった。そして日本国の誕生は推定西暦二五〇年ということまで分かったのである!


 もちろん、ようやく……ようやくの事だが「邪馬台国九州説」に決着がついた。


 未曽有みぞうの発見に関する学会発表の当日、山下英雄は手製の銃を作った男に撃たれ、倒れこの世を去った。犯人は川下成明という。犯人の動機は「日本の歴史の起点はA.D二五〇年前後なわけがない、皇紀二六八三年、つまり二六八三年年前こそ日本の誕生」と信じてやまない宗教的動機による犯行であった。


 日本はこの時偉大なる発見をした考古学者を失ってしまったのだ!


 ……そして歴史はまた権力者によって書き換えられてしまったのである。


 学会に所属する研究者たちは「なぜ教科書を元の記述に戻したのか」を請求開示した。帰って来たのはいわゆる『のり弁』であった。


 「変わっちゃいない。何も変わっちゃいないんだよ。この国は歴史を『物語』や『ファンタジー』だと思ってるんだ。都合の悪い物語なんて見たくねえんだよ」


 墓に水をかける。


 「『history』を『his・story』だと思ってやがる……『historia』って『知の探求』って意味なのにさ」


 墓に線香をあげる。


 学者たちは山下英雄の墓の前で泣いた。


=終=

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