1万人の転移 百年戦争は混沌へ

和谷幸隆

第1話 そして俺は途方に暮れる

「寒っ・・・」


相馬悠樹は寒さを覚え目を醒ました。

周囲は森なのか木々しか見えず肌寒い風が体を冷やす。


(あれ、、、ここはどこだっけ?)

「システムオープン」


混乱するなか、プレイ中のVRゲーム内のどこかのフィールドだろうと思いシステムを起動しようとするも反応が無い。


(システムが開かない、、、いや、寒さを感じる・・・?)


少しずつ冷静になると寒さを感じること自体がおかしいことに気づく。

2059年現在、ゲームは現実に限りなく近づいた。

しかし暑さや寒さ、味覚の再現は開発段階で実用化には至っていない。


「ゲーム内じゃない?じゃあここはどこだ?」

「昨日は、、、、そう、間違いなくベッドで寝た・・・はず。」


落ち着きつつあった悠樹だったが、自分のおかれた状況が改めて理解できず再び混乱する。


「ゲームじゃないとするとリアルなのか?生体デバイスは立ち上がるか?」


現在の日本では希望者を募り人口2万人程の実験都市を整備している。

そこの市民は全員生体デバイスを使用している。

小さなデバイスを体内に埋め込み、眼鏡型またはコンタクト型デバイスと合わせて運用する。


「お、デバイスは起動するな。」

「・・・・って起動する?やっぱりリアルってことか。」


悠樹はコンタクト型を使用しており目の前に立体的にデバイスの画面が表示される。

手をかざし地図アプリをタップする。


「オフライン!?」


結果、表示されたのはオフラインのため現在地表示不可能の表示。

このデバイス運用が始まって、いままでに一度もオフラインになったことは無い。

市内の各所にアクセスポイントが張り巡らされており、

中継が数か所不具合を起こした程度でオフラインになることはありえないのだ。


しばらく、といっても数分程度だろうが呆然としていたが状況は何も変わらない。

改めて整理してみよう。

昨日は仕事で東京に来た後、ホテルに帰る前にネカフェでゲームをやって、

ホテルに戻ってから2時くらいに寝たはず。それがなぜ森の中にいるのか。

ラノベの転生や召喚じゃあるまいし意味が分からない。

定番の事故死もしてなければ神も現れない。召喚した王や王女なんかもいない。


「ステータス・・・ステータス、オープン?」


転生や召喚がありえないとは思いつつも、自分の置かれている状況がありえないのだからと、

念のため、念のため、ありがちなステータス表示されないか試してみる。


「・・・・・」

「ファ、ファイヤー・・・・」

「ファイアボール・・・アイスストーム・・・ダイヤシュート・・・ブレインラムダ、、、」


ステータスも開かなければ、魔法も出ない。

わかってたよ。わかってたよ?そんな現実離れしたことないってことくらい・・・

無いと思いつつも、もしかしてというほんの少しの期待があった分、気恥ずかしくなる。


(これからどうしようか・・・・)


今わかっていることはここはオンラインゲームの世界などではなく、

現実世界のどこかということだけだ。

なぜホテルで寝ていた自分が移動するのかはともかく、

ひとまず人のいるところまで行って駅の場所を聞くしか無いか・・・


「ハアッー!」

「ギャギャッ!」


方角もわからないままどっちに行こうかと思案していたところ叫び声が響いた。

誰か近くにいるのは分かったが、叫んでるし近づいていいのかどうか分からない。

熊とか野生動物に襲われてるのか、ただ単にやばい人なのか、

山の頂上でやっほー的なものなのか全く分からないけれど、

叫び声の感じから危機感があって正直近づきたくない。


逃げたいけど逃げたとしてもどこへ行っていいかわからない・・・

ひとまず近づいて様子を見る。やばければ逃げる。

心から気が進まないが声のする方へ向かうことに決めた。


木々の中を慎重に進むと倒れている人がいた。

少し離れた場所から様子を見ると腹部から出血があるが呼吸があり生きていることに安堵した。


「だ、大丈夫ですか?」


声をかけながら近づくと、倒れた男の近くには剣があった。

そして男は金属製の鎧を身に着けていることにも気づく。


剣?鎧?ゲーム内じゃなかったのはさっき確認したよな?

リアルでありえるか?これがコミケのコスプレ会場ならわかるが森の中だぞ?


「ウッ、、wh・・・cmml・・g・・・」


目覚めてから何度目かの混乱の中、倒れた男から話しかけられ一層混乱する。

男はこちらに何か言っているが、苦痛で呻いているのか聞き取れなかった。

いや、聞き取れなかったんじゃない。日本語で無いから一瞬分からなかった。

数秒間硬直している間も男は何かずっと喋っていた。


「hey、hey!・・・・」


ようやく頭が英語で話しかけられていることに気づく。

剣、鎧、負傷した外国人。まだ混乱しているがオフラインでも翻訳デバイスは有効だから使用する。

ただし聞き取った音声を翻訳して文字でスマートグラスに表示し、

音声で出力してくれる機能は無いので自分がしゃべるときは表示した文を自分で読むしかないが。


「あ、すみません。言葉でしたら分かります。大丈夫ですか?」


「よかった、、、村の者か?今回のゴブリンの数は以上だぞ・・・」

「定期駆除で5人で来たがまずいな。」

「囲まれてこのざまだ。そこの鞄からポーションを取ってくれないか・・・」


翻訳アプリを使い話しているとゴブリンという単語が出てまた俺は思考がフリーズする。

現実なのにゴブリン?現実ではないのか?ゲームではない、現実だが現実ではない世界?

だが英語?現実が侵食された世界?あるいは自分の知る現実に似た異世界?


頭の中でぐるぐると自分の置かれた状況を想定する。

情報が少なすぎてまだ何も確定しない。分からないがさっき何て言ってた?

ゴブリンを半数以上倒した?40以上の半分近くはまだゴブリンがいる?

剣と鎧で武装した剣士?が重傷を負うような敵がいる?

やばい。熊のいる日本の山中とかいうレベルじゃなく危険だ・・・


「おいっ!おいっ!聞こえてるか?ポーションを早く頼む!」


男から怒鳴られ我に返る。

急いで鞄の中からポーションを探す。

ポーションってRPGでよくある回復薬だよな?小瓶に入っているイメージだけど・・・

思った容器は無いが液体の入った革袋が2つあるがこれのどちらかだろうか。


「そっちの小さい方だ!寄越してくれ、、、」


男へ手渡すと革袋から液体を少し飲み、傷口へかける。


「止血はできた。少し休めば動けるようになると思う。」

「それにしても助かった。さっきは怒鳴って悪かったな。」


「いえ、、、他のメンバーは近くにいるんですか?」

「まだゴブリンって結構いるんですよね?大丈夫ですか?」


「ゴブリンだけだったら多少多くてもなんとかなるかもしれん」

「ファイターやコマンダー、マジシャンがいたら正直厳しいな」

「休んでいる暇は無い。援護に行かないと、、、」


話しをしていると枝の折れる音がした。

目を向けるとファンタジー世界でイメージするままのゴブリンがナイフを手にこちらへ走ってきていた。

男は起き上がろうとするもまだ足元がふらついて戦闘できる状態では無いようだ。


「借ります!」


声をかけ、転がっている剣をとり構える。

VRゲームではリアル系とファンタジー系がありリアル系ゲームでは重量感もある程度再現されている。

ゲームの経験から、手にした剣の重さもそれほど違和感なく納まった。

ゲームでは数えきれないくらい戦ったことのあるゴブリン。


(心配することは無い。やれる。ゲームじゃ雑魚じゃないか!)


ドクドクと自分の心臓の鼓動が大きな音をたてているように感じる中、

自分自身を鼓舞し落ち着かせようとする。


ついにゴブリンが目前に迫り、俺は剣を振り下ろす。


「ギャギャー!」


「クッ!」


咄嗟にゴブリンの体にロングソードを振るうとゴブリンは悲鳴をあげ倒れた。

この世界での初めての戦闘は想像以上に簡単に終わった。

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