105、創世の零

 目の前に広がる果てしない空間ぶたい。それは、眩いばかりの光にち溢れ、決して果てというものが存在しない無限むげんの広がりがある。だが、それ故にとてもさみしい空間だと俺は感じた。

 此処ここは全てがある。全てに満ち溢れている。そして、全てを超越ちょうえつしている。

 俺達の住んでいた地球ちきゅうのある宇宙を単一宇宙とし、その単一宇宙が属する無限の多元宇宙が存在している。その無限の多元宇宙すら包括ほうかつする異なる物理法則を有する多元宇宙群が存在している。その多元宇宙群すらことなるレイヤーの一つにぎない別次元の宇宙が存在している……

 そうして、それぞれの無限大をえて尚到達不可能なての果て。それこそがこの根源の世界なのだろう。根源の、ぜろだ。そもそも存在している次元が圧倒的に異なってしまっている。

 そうして、俺の前に存在そんざいしているアイン。この無限の最果さいはてとも呼べるだろう根源にあって尚異質さをはなっている。

 こいつは、確かに異質だ。いや、いっそ異形いぎょうとでも言った方が正しいのかもしれない程にまで俺達とは異なっている。

 こいつは、こいつの正体しょうたいは……

考察こうさつは済んだか?」

「っ!?」

 どうやらしばらくかんがえ込んでいたらしい。相変わらず、アインは泰然たいぜんとしてそこに立っている。いっそ超越者とでも表現すべきその威風いふうだ。

 だが、

「アイン、お前はだ」

「……へえ?」

 アインが面白そうに口の端をり上げた。それは、非常に凶悪きょうあくなまでに好戦的な笑みだった。正直、おそろしい。

 アインが放つ威圧感いあつかんと共に、根源の世界そのものが鳴動めいどうしている。俺に掛かる圧力のようなものが増していく。冷や汗が全くまらない。

 だが、それでも俺は言葉をめない。

「何も持っていないがゆえに、全てを創造する創造主足りえた。原初はじまりの無、その化身こそがお前の正体だ」

面白おもしろい、それで?それがかった所でお前はどうするんだ?クロノ、お前は正直俺に戦意を向ける事が出来ないだろう?戦うだけの理由りゆうを持ちながら、それでもお前は俺と戦う選択肢を取れない。ちがうか?」

「…………」

 確かに。はっきり言えば、俺はこいつと戦うだけの理由わけがある。いや、本当のところは戦うべきなのだろう。

 だが、それでも俺はこいつと戦う事が出来ない。俺はアインにやいばを向ける事が出来ないから。

「なあ、本当に俺達は戦わないといけないのか?」

「何を今更いまさら。お前は見てきた筈だぞ?俺一人の為に、俺が運命うんめいなんてものを強いたが為に人生をくるわされた者達の事を」

 ああ、そうだ。確かにそうだ。

 アインが運命なんてもので人をしばったが故に、人は人生せいを狂わされてきた。

 こいつがる限り、人間に本当の意味いみで自由意志なんてものは存在しないのだろうから。けど、それでも俺は……

 俺は、それでも……

「俺は、お前とはたたかいたくなんてなかった……」

「……………………はぁ、少し荒療治あらりょうじをするか」

 そう言って、アインは俺に人差し指をけた。瞬間、その指先がひかり輝き、そのまま俺の意識がとおざかってゆき……

 俺は……ぼく、は……

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