英雄譚編

101、超文明

 そして、俺とユキは時代じだいを遡りとある銀河系のとある惑星ほしに到達した。

此処ここが……」

「ああ、此処が目的の場所ほしだ」

 其処は、極限に発達した都市としだった。まるで、地球ちきゅうにある大都市のような、けど俺の居た地球文明より遥かに文明レベルのおおきい技術力が伺える。

 少なくとも、俺の居た時代の地球ちきゅうよりは文明レベルが一段階から二段階は上なのだろう。それほどまでに、この超国家の文明レベルは遥かにすぐれている。素直にそう言えるだろう。

「だけど、それでもこの時代のこの文明せかいは……」

「ああ、そうだな」

 そう、この時代のこの文明はほろびた。たった一人の暴走ぼうそうによって、滅び去った。これほど高度に発達した超文明ちょうぶんめいであろうと、それでもだ。

 それほどまでに、無価値むかちの魔物は強大だったのだろう。それほどまでに、あの男の絶望はふかかったのだろう。そう、それほどまでにだ……

「……………………」

「クロノ君?」

 心配そうに、ユキが俺の顔をのぞき込んだ。どうやら、少しだけ不安ふあんにさせてしまったらしい。

 俺はユキを安心あんしんさせるように、笑顔をつくった。

大丈夫だいじょうぶだよ、別になんでもない」

「そう?もし、何かあったら―――」

「大丈夫だって、それよりも、先ずはあの男をさがさないと」

 そう言って、俺は街の散策さんさくに移る事にした。そんな俺の背中せなかに、ユキの視線が突き刺さったが、俺はあえてその視線しせんに気づかないふりをしていた。

 ・・・ ・・・ ・・・

 とはいえ、そもそも俺もユキもこの街の地理ちりに詳しくはない。それもその筈、この時代は俺達が生きていたよりもはるかにふるい時間軸にあるからだ。そもそも、此処は地球ですらないしな。

 故に、俺とユキは行き詰まっていた。何処をどうさがせば目的の人物に出会であえるのか何をどうすれば目的を達する事が出来るのか、全くからない状態だった。

 要するに、完全な手詰まり状態だ。そもそも、この時代の文化圏の貨幣かへいも全く持ち合わせていない。詰んだかな?

 それに、そろそろ此処をはなれないと。いきなり不審な二人が何の脈絡みゃくらくも無しに出現したんだ、周囲の視線が次から次へとき刺さってくる。それが否応なしに理解出来るから。ユキも、流石に居心地いごこちが悪そうだ。

「どうするの?」

「さて、どうするかな?」

 どうしたものか。そろそろ状況じょうきょうが詰み掛けた、その時だった……

 天運うんは、どうやら俺達に味方みかたしたらしい。

「あの、すみませんがすこしよろしいでしょうか?」

 おずおずと声を掛けてきた女性が居た。よく見れば、そばに仏頂面の男性が立っているのが分かる。

 その男性を見て、俺は瞬間的に納得なっとくした。この二人が、俺達が探していた人物であると。この男性こそが、俺達の目的となる人物クリファだった。

 ユキも、それをさっしたらしい。少し驚いたような表情かおをしている。中々に幸先が良いものだ。いや、これはある意味で必然ひつぜんだろうか?

 そうだった、この男は。クリファ=ジークスは、民間警備会社の一部署につとめているのだった。なら、この事態を収める為に此処ここに来る可能性だってある筈だ。すっかり失念していた。

 いや、はっきり言えばヨゾラの記憶きおくからもかなり薄れていたから其処そこまで思い入れのある仕事場でも無かったのだろう。

 まあ、ともかくだ。

「ああ、早速見付けた」

「えっと、はい?」

 俺の言葉に、女性は戸惑とまどうように顔をしかめる。あま、それも当然とうぜんだろう。初めて会った得体の知れない人物こどもに、いきなり顔をまじまじと見られてその上、変に納得されたんだ。これで困惑こんわくしない方がおかしいだろう。俺だって、素直にあやしいと思うだろうから。

 と、言うか。この場合、俺の方が変質者へんしつしゃなのだろうか?うーむ……

「えっと、あの?」

「ああ、すいません。少し道にまよってしまって……」

「ああ、そうなんですか……」

 何処かほっとしたような表情かおで、その女性は胸をでおろした。まあ、彼女からしたら俺達はかなり怪しいだろうしな。流石に自重じちょうした方が良いか。

 そう思ったが、やはりこの街の常識じょうしきなど全く知らない俺達が自重した所で違和感が強くなるだけかもしれない。むしろまったくの逆効果だろう。そう思い直した。

 しかし、尻込みしていても何も始まらないだろうしな。

 そもそも、この好機チャンスを逃せば次はいだろう。

「実は俺達、ここら辺の土地勘がくてね。そもそも、此処ここに来る事自体が初めてでして……」

「ああ、そうなんですか。大変たいへんですね?」

「それに、運が悪い事に財布さいふを何処かにとしてしまって。どうしたものか」

 ははっと、少し乾いた笑みをこぼす。無論、演技えんぎだ。

 しかし、その演技がどうやらつうじたらしく。女性の表情に同情どうじょうの色が浮かぶ。少しだけ、罪悪感のような感情かんじょうがないわけではないけど。これもまあ仕方がない。

 まあ、うそも方便というしな?少し違うかもしれないけど。そうしておこう。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そして、結果として俺の目論見通りの展開てんかいになった。

「とりあえず、私の名前はニア=セフィラです。よろしくね?」

「俺の名前はクリファ=ジークスだ」

 まず、女性ニアが名乗った後、それに次いで男性クリファが名乗った。

 俺達もそれに倣って名乗なのり返す。

「俺の名前はクロノ。遠藤クロノです」

「わ、私の名前はユキ。白川ユキです」

 現在、こじゃれたカフェテラスでコーヒーをみながら歓談中。この文化圏の貨幣を所持していない俺達は、無論支払いなど出来できる筈もない。当然ながら、ニアの好意でおごりだった。

 少しどころか、かなり罪悪感があるのはもちろん表には出さない。しかし、流石にお礼くらいは伝えた方が良いのかもしれない。

 そう思い、俺は二人に頭をげた。

「それはともかく、コーヒーをおごってもらってありがとうございます」

「わ、私もありがとうございます」

「いえいえ、これも一つのえんですから。お気になさらず」

 俺達がれいを言うと、ニアがほがらかに笑みを浮かべてそう返した。

 かなり人間が出来ているらしい。というより、素晴すばらしい人間性だろう。

 やはり、クリファをすくうには彼女がかぎとなるのだろう。そう、コーヒーに口を付けながら思った。

 そして、そんな俺達をクリファはじっと怪訝けげんな顔で見ているのを、俺は先程から気付いていた。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そして、しばらく歓談かんだんした後。ふとニアがいを投げ掛けてきた。

「ところで、これから貴方達どうするつもり?確か、財布を何処かにとしたって聞いた筈だけれども……」

「ああ、うん。どうしたものかな?ここら辺の地理ちりに詳しくもないし……」

 ユキと視線をわし、果たしてどうしたものかとかんがえる。すると、唐突にバンっとテーブルを両手でたたきながらクリファが立ち上がった。その視線は、俺達の方を向いている。

 流石の俺達も、驚きに目をまるくする。そんな俺達に、クリファは断言するように言った。

「そうだ、ならお前達は今晩俺のうちに泊まれ!」

「…………はい?」

「えっと、クリファ君?」

 思わず、俺とニアの言葉が綺麗きれいにハモった。お互い、疑問ぎもんに思う気持ちは全く同じなのだろう。それくらいに、彼の言葉は唐突で。そして意味いみが分からなかった。

 何だこれは?

 ユキも同じらしく、困惑こんわくした表情で硬直こうちょくしている。そんな俺達に対し、クリファは一人だけ納得したようにうなずきながら言い放った。

「丁度いい、俺もお前達にきたい事があったんだ。今晩こんばんくらいは俺の家に泊まれば良いさ」

 中々強引だった。

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 その半ば強引な言い分に、思わず俺達はだまり込んだ。しかし、まあ確かに俺達は今は一文無しと断言しても差し支えないだろう。

 いや、はっきりとおう。この申し出を受けてもいのではないかと内心では思っている。まあ、ほんの少しではあるけどな?

「えっと、じゃあ今晩はクリファさんのいえに泊まれば良いのか?」

「ああ、遠慮えんりょは一切要らないから。お前達は俺の家にまっておけ」

 そうして、俺達は半ば強引にクリファ=ジークスの家に泊まる事になった。

 ……うん、やっぱり意味いみが分からない。何だこれは?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る