85、母神ガイア

 思わずよろけるも、それでも俺は何とかみとどまった。血のはなが周囲を彩る。

 俺の左胸むねから、血が止め処なくあふれ出る。大丈夫だ、この程度のきずはすぐに再生させる事が出来できる。しかし、

「クロノっ‼」

「クロノ、貴方あなた‼」

 父さんと母さんが、慌てた様子で俺のそばに駆け寄る。やはり、此処ここが限界だったようだ。父さんと母さんにはこの光景はきびしいものがあるのだろう。

 だが、それでも俺は立ち止まる訳にはいかない。俺は今度こんどこそ、ユキを……

 彼女をすくうのだから。

大丈夫だいじょうぶだ、俺は大丈夫……」

「しかし、クロノ……」

 心配そうに俺を見る両親。そんな父さんと母さんを俺は何とか押し退ける。

 大丈夫、今度こそ俺はユキをすくってみせる。ユキを救って、無事に平穏へいおんな日常へ戻ってくるんだ。

「俺を信じて父さんと母さんは安全な場所にげてくれないか?俺は必ず無事ぶじに戻ってくるから……」

 その言葉に、父さんと母さんは共に息をんだ。

 どうやら、俺の覚悟かくごを悟ったらしい。

「……本当に、大丈夫なのか?」

「ああ、俺は必ずかえってくるから。無事に、平穏な日常セカイを取り戻してみせるから」

「クロノ……」

「母さんも、俺は大丈夫だ。きっと無事ぶじに帰ってくるさ」

「……………………無事に帰ってきてね。ってるから」

 俺は力強い笑みでうなずいた。父さんと母さんがその場をってゆく。

 そして、改めて俺はユキと男をにらみ付ける。男は相変わらずくるったような、悪魔的な笑みを浮かべて俺を見ている。

 俺の胸のおくを、ふつふつといかりがこみあげてくる。

 そうだ、俺は怒っているんだ。ユキの事を無価値むかちと断じながら、それでも利用りようするだけ利用しようとする。その性根のわるさに俺は怒っているんだ。

「何が価値かちが無いだよ。そんな事を言いながらユキを利用りようするなんて……」

「何を言っているんだ?俺にとってこいつはわらず価値がない。お前がユキと呼ぶそいつに俺は何の興味きょうみもない。だが、それでもこいつに用途ようとはあるのさ」

「何だって?」

 男は悪魔的な笑みを浮かべ、狂気をひとみに宿し言った。

「そいつはうつわなのさ。星のアバター、そのの意味は星の意志たるガイアを宿す為の依り代だよ」

「っ、依り代だって!?」

「ああ、そうだ。ほしの高次生命体たるガイアを宿し、それを制御せいぎょする為の装置。それこそが星のアバターの本当ほんとうの用途なのさ!」

「そんな事をして、一体何を―――っ!?まさか‼」

 最悪の展開が、俺の脳裏をよぎる。こいつは、まさか……

「気付いたようだな。全ての準備じゅんびは整った、世界への復讐ふくしゅうの為に、そして根源へ戦争を仕掛ける為にガイアよ!星の意志よ!此処ここに降りろ‼」

 瞬間、何か強大な力の奔流ほんりゅうがユキの身体へとりてきた。それはより高次元に立つ星の意志いしそのものだった。

 星の意志、ガイア。それはははなる星、地球ちきゅうそのものだ。そう、星のアバターとは本来このような意味いみを持つものだったのだろう。

 星をその身に降ろす大いなる化身。それこそが星のアバターの本来の意味だったのだろう。

 そして、ついにユキという依り代をてガイアは此処に降臨こうりんした。

「私をぶのは誰ぞ?私をしばろうとするのは誰ぞ?」

 ユキの口から、厳かにつむがれるのは異次元の言葉ことばだった。思わず心から膝を折りたくなるような霊的圧力。それが、一言一言ににじみている。

 だが、それでも俺はユキを。ガイアを真っ直ぐにらみ付ける。男を睨み付ける。

 そう、全てはこのために用意した装置そうちだったのだろう。

 ユキを生み出したのはガイアの依り代とする為に。そしてその後の世界でうらから暗躍し続けていたのは強いへいを生み出す為に。全ては根源せかいへ戦争を仕掛け、それに勝利する為にみ上げてきたものだったのだ。

 この男はずっと、虎視眈々とを伺っていたのだろう。根源へ、世界の根源に住まう者へ戦争を仕掛け勝利する為に。

「は、ははは……はははははひゃははははははははははっっ‼俺はついにガイアを支配する事に成功せいこうしたのだ!根源へ、世界やつへ戦争を仕掛ける時が来たのだ!」

「させねえよ」

 俺は、怒りを寸ででこらえながら告げた。そうだ、そんな事はさせない。

 俺がさせない。

「む?お前はまだたのか?ガイアよ、其処に居る虫けらをさっさとつぶせ」

「ふんっ、私に下らぬ事を命令めいれいするものよな」

 そう言い、俺へとガイアをけしかける男。だが、俺は全く絶望ぜつぼうしていない。むしろユキを救う手立てだてが出来て心の底から高揚こうようしている所だ。

 俺は、口元に笑みを浮かべてこの手をそらへと掲げた。

召喚コール、」

 全てをこの手に取りもどす為に。そして、全てを救う為に―――

 そう、

「今度こそ、ユキを救う為に。俺の許につどえ、怪物種のおうよ‼」

 俺達はまだ、あきらめちゃいないんだ。なら、きっとみちはある‼

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