47、大兎の視点と大統領

 吾輩は大兎うさぎである、名前はヴォーパル……なんつって。

 改めて、僕は大兎。人からはヴォーパルとばれている。怪物種の中でも準王級と呼ばれる希少種きしょうしゅだ。けど、僕自身は別段そんな自覚じかくなどありはしない。僕はあくまで僕として割かし気ままに生きてきたつもりだ。

 けど、そんな僕に人間の友達ともだちが出来た時は流石の僕でもうれしさのあまり舞い上がってしまったけどな。まあ、別にそれは大して問題もんだいではないだろう。問題は僕が約束通り兵器の素材となった事だった。

 兵器って言っていたけど、要するに一振りのけんの事だったんだな?色々と剣に搭載された機能がヤバいけど。まあそれは良いだろう。

 僕自身はそんな事、気にしてはいない。兵器けんの素材となった事だって一切気にしちゃいないんだ。ナリが変わっても、僕は僕だから……

 けど、どうやらレンの方は結構気にんだらしい。

 どうやら、レンは一か月以上もの間飲まず食わずでふさぎ込んでいるらしい。らしいというのは、研究者同士の会話を剣となった僕がそばで聞いていたからだ。

 僕とジャバウォックが戦っている間、何も出来なかった。僕が兵器けんにされるのを黙って見ているしか出来なかった。そんな自分自身に責任せきにんを感じている。

 ……レンは相変わらずらしい。全てを自分の責任にする。やさしい人間なのだ。

 全てを自分の責任にするのは、つまり他人ヒトに責任を押し付けたくないから。そして他者が傷つくより自分おのれが傷ついた方がよっぽどマシだと考えているから。

 それは彼の優しさの現れだろうけど。同時に少しかなしい。

 全てを自分の責任にする。それはつまり、何でも自分レンのせいにするという事。

 それはきっと、とても悲しい事なんだろう。

 優しすぎて、きっと彼はとてもきづらい筈だ。確かに、んでしまうのも無理はないだろう。

 うん、初めて出来た友達のなやみだ。友達として何とかしてやりたい。そう思ってはいるんだけどな。

 果たしてどうしたものだろうか?そう思っていたら……

 ある日、剣となった僕を研究施設からぬすみ出した者が居た。その正体に思わず僕は驚くと同時に納得した。

 シンシアだ。

 どうやら、彼女は僕をレンのもとへと連れ出す気でいるらしい。うん、分かってはいたけど僕は一応兵器なんだけど?果たして、僕を連れ出して一体どうするつもりなんだろうか?

 まあ、良いや。

 久しぶりに見たレンは、随分ずいぶんとやつれていた。

 やつれてはいたけど、剣となった僕を見て酷くおどろいたような顔をしているのだけは理解出来た。恐る恐る、僕へとその手を伸ばし抱きしめると何かのたがが外れたように大泣きした。

 ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返し泣きながら謝っていた。滂沱ぼうだと涙を流して謝りながら強くぼくを抱きしめている。

 シンシアも、そんな彼を抱きしめて泣いている。うん、はっきり言って僕はこんな時どうすればいいのだろうか?聞いた事があるぞ?これをデバガメというんだろ?

 二人の間にはさまれて泣かれてもなあ?後、けっこう暑苦しい。意思と肉体うつわが同化しているから、二人に挟まれている感覚が丸わかりなんだよ。暑苦しい!

 ……うん、まあ良いや。それはまあ良いとしよう。

 けどさ、さんざん僕を挟んで大泣きしていた癖に急に変な空気くうきを作るのは流石に止めようよ。

 何なの?なんでそんな、チラチラとお互いを見て赤面せきめんしつつ変な空気を出しているんだ?というか、おい!何をしているんだコラ、そんな僕のる前で……あ!

 うん、ボクハナニモミナカッタ。ボクハナニモシラナイヨ?

 まあ良いや。とりあえず、レンとシンシアはそれからしばらくして結婚けっこんした。

 どうやら、結婚した次の日には二人の間に子供こどもが出来たらしい。元気な女の子と大人しい男の子の双子ふたごらしいけど、ずいぶんとしあわせな生活を送っているようだ。

 とりあえず僕から言える事は一つだけだ。ぜろ(笑)

 それから僕は色々と見てきた。一度僕をさやから抜こうとした奴が居たけれど、それは僕自身が抵抗ていこうした事で結果的に失敗しっぱいしていた。失敗して、とぼとぼと肩を落として帰っていったそいつの顔はかなり笑えたけどな?HAHAHA!

 けど、僕が何よりも驚いたのはレンとシンシアのひ孫が旧アメリカの大統領になった事だった。

 しかも、ごりごりの武闘派大統領だ。世の中本当に分からないものだ。

 武闘派すぎて、どう考えても戦闘力が人外バケモノレベルだし。こいつ、本当に人間なのだろうか?どう考えてもこいつ一人でおうとタメを張れると思うんだけど。こいつならジャバウォックなんて瞬殺じゃね?

 うん、かんがえないようにしよう。細かいところは良いんだ。

 それよりも、旧日本のある方角からとても強い意思いしの波動が目覚めざめるのをつい最近になって感じた。どうやら、レンが予測よちしていたという救世主の少年がついに目覚めたらしい。

 僕の活躍する時も、そろそろちかいのだろう。

 ・・・ ・・・ ・・・

 俺のはキングス=バード。旧アメリカを統べる大統領だいとうりょうだ。

 現在、俺は曾祖父そうそふの残したという日記を読んでいる。大統領府にある自室には現在俺以外誰も居ない。ただ、静寂せいじゃくの中本のページをめくる音のみが響いている。

 曾祖父の名はレン=バード、最も危険きけんとされる準王級である怪竜ジャバウォックを打倒した準王級と。大兎ヴォーパルと友情ゆうじょうを結んだという伝説的人物だ。

 大兎の怪物、ヴォーパル。竜を狩る白兎はくとという異名を持つ準王級。彼の大兎は最期まで人間われらの味方だったという。

 そして、そんな大兎と友情を結んだ唯一の人物こそが曾祖父レン=バードだ。

 彼は最期まで友を、ヴォーパルを兵器けんに変えてしまった事。そして何も出来なかった自分自身に責任せきにんを感じていたという。

 日記にはそのおもいの深さがありありとつづられている。彼は、きっと優しすぎたのだろう。優しすぎたが故に、背負わずとも良い責任モノまで一人で背負ってしまった。きっとそれだけの話だったのだ。

 だが、同時に俺には曾祖父のいたみが理解できる気がした。きっと、曾祖父は全ての責任を一人で背負う事により皆をまもりたかったのだろう。彼はきっと、自分に出来る事を精一杯やり遂げようとしていたのだろう。

 俺には曾祖父の想いをみ取り、一度ヴォーパルと。剣へと姿を変えたという彼と対話を試みた事がある。俺が思うに、彼の意思はまだあの剣にのこっているだろう。

 事実、あの剣は俺が話しかけると反応はんのうを示すようにほんのわずかだが光り輝いた。

 ほんの僅かだったが、錯覚さっかくかと見まごう程度のかすかな光だったが、それでも俺は確かにヴォーパルが光り輝くのを確認かくにんした。俺の言葉に、反応を示したのだ。

 研究施設の者たちは、あの日の事を目の錯覚や勘違いと認識にんしきしているようだ。だが俺は確信している。ヴォーパルは今も尚、あの剣となってきている。そして自らを振るう救世主メサイアの到来を待ち続けているのだろう。

 かつて、ヴォーパルをさやから抜こうとした者がどうしても抜く事が出来なかったのはその為なんだろう。ヴォーパルは意地でもあるじ以外の者に振るわれる気は無いのだろうと俺は認識している。

 なら、きっとそういう事なんだろう。そして、その救世主が現れる日ももうかなり近い筈だ。

 曾祖父の残したという預言よち。未来予測ではそろそろ救世主があらわれても良い頃だ。

 事実、旧日本へ送った諜報員スパイから身元不明の人物がつい最近出現したと報告が上がっている。俺はその人物こそ、予言の救世主だと確信している。

 我らと少年が接触せっしょくする日も近い。

 ならば、俺もそれに合わせて準備じゅんびを進めておく必要ひつようがあるだろう。曾祖父の遺した後悔を決して無駄にしない為にも。彼と大兎の友情にむくいる為にも。

 俺は俺のやるべき事をやりとおすのみだ。

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