第29話
「とっさの思いつきだったんですけど…結構うまくいきましたね」
俺は挽肉のようになったモンスターたちを映しながらそういった。
下層に入り、突如として遭遇したモンスターの群れ。
『全方位に対して一番早く攻撃すれば、避ける必要がない』という思いつきにより、100匹を超える大群を殲滅することができた。
…けれど疑問なのは一体なぜこれほどの大群が突然現れたのかということだ。
下層のモンスターが群れることはそうないはずなのだが。
「あ、十万人超えた…」
ちらっと画面を見ると、いつの間にか同接が十万人を超えていた。
あのイレギュラーで現れた深層のドラゴンを倒した時以来の快挙だ。
普通に嬉しい。
“十万人おめ”
“久々の十万人”
“そりゃ超えるわなw w w”
“今来たんですけどなんですかこれ!?コラ画像ですか!?”
”初見です…この挽肉みたいなのなんですか…?“
”あ、あの……下層でモンスターが大群で出たって聞いてきたんですけどモンスターの大群どこですか…?”
“んー?モンスターの大群なら神木が全部殲滅したよー?^^”
“まさかこの挽肉みたいになってるの全部モンスターですか…?”
“え、地面とか壁にこびりついてるの…モンスターの残骸ですか…?どんな戦い方したらこんな地獄を体現できるんですか…?”
“なんでこんなことしておいてこの人平然としているんですか?サイコパスですか?戦闘狂なんですか…?”
“この探索者の人やばい…”
”初見がドン引きしてるやんw w w”
“そりゃいきなりこんなの見せられたら引くやろw w w”
コメント欄に十万人突破お祝いコメントと共に「初見ドン引き」「地獄を体現して平然としているサイコパス」などと書き込まれる。
いや、サイコパスじゃないから。
ドン引きしないでください初見さん。
どうか帰らないで後少しだけ見ていって…
「というかこれ、イレギュラーだったんですかね…?」
十万人達成を喜びつつ、俺は疑問解消のために視聴者に意見を求める。
あんまり群れることのない下層のモンスターがここまで固まってやってきたというのは、やはりイレギュラーだったのだろうか。
だとすると俺はイレギュラーのおかげで十万人を二回達成してしまったことになる。
…うーん。
配信者としては見どころが作れるし嬉しいことだが、イレギュラーってこんなに頻発するモノだったか?
普通に配信者じゃない探索者からしたらこうもイレギュラーが頻発するなんてたまったものじゃないだろうな。
これはなんとなくの勘だけど、桐谷の時やこの間のドラゴンの時とは違って、これはイレギュラーじゃない気がするんだよな。
なんというか…モンスターたちは何かを恐れるように、追われるようにこっちに逃げてきたような気がする。
イレギュラーで突然発生したわけではない気がするのだ。
“いや、もうイレギュラーとかそういうレベルの話じゃねーよw w w”
”マジでお前なんなんだw w w人間やめすぎだろw w w“
”発想がイカれてるんだよなぁ…全方位に対して超早く攻撃すれば回避の必要もないって……どんな思考したらそんなの思いつくんだ…?“
”というか、全方位攻撃やる前に普通にモンスターの大群相手に回避しながら戦えてたのなんでだよw w wあれもおかしいだろw w w“
”背中に目でもついているのか?w w w“
俺が一人で頭を悩ませる中、コメント欄は、もはやイレギュラーかどうかはどうでもいいらしく、俺の咄嗟に思いついた全方位攻撃について盛り上がっていた。
やっぱりあの攻撃を最初に思いついたのは俺だったということなのだろうか。
我ながら結構名案だったと思うから、対大群の有効的な戦略として広めて行ってほしい。
神木流モンスター大群殲滅方法みたいな感じで。
そうしたら俺の数字の伸びにも繋がるし。
”というか全方位攻撃を行う前は、どうやって戦ってたんですか?“
”いろんな場所から同時に攻撃されてましたよね?空中とか、背後とかからもモンスターに絶えず攻撃されてたと思うんですけど……どうやって回避してたんですか?“
”探索者を目指しているモノです。入門書には、複数のモンスターが現れたら一体一体対処しろと書かれてあるのですが、神木さんはモンスター何体も同時に相手どってますよね?どうやるんですか?“
“また懲りずに質問してらw”
“おーい、新参か?こいつから何かを学ぼうとしても無駄だぞw”
“また神木探索者講座の新たな犠牲者が…”
”探索者関連の質問しているやつ、絶対に今日から見始めただろwww”
大きな戦闘を終えた後だからか、探索者関連の質問が増える。
こういうの嬉しいんだよな。
強い探索者って認められた気がして。
俺は嬉々として答えていく。
水を差すようなコメントが見えたような気がしたが無視だ無視。
「複数のモンスターと同時に戦う方法はですね……気配を察知することが重要です」
“ほう?”
“ん…?”
“始まった始まったw w”
”まーた変なこと言い出したぞw“
”どういう意味ですか?“
「なんていうか…目視できなくても意識しようとすれば背後にいるモンスターの気配とか、動きとかわかるようになるじゃないですか」
”いやならねぇよ!?“
”どういう意味ですか!?“
”そんなことお前ぐらいしかできねぇよw“
”な?無駄だったろ?“
”意味わかんないです!“
”真剣に説明してください!“
”新参が怒ってら^^“
”おい新参許してやれよ。こいつマジでこれでも真剣に答えてるんだぜ?“
「空気の流れ?みたいな…?ほら、日常生活でも、なんとなくで自分がいる建物の中にいる人数とか、遠くから見られてるなって察することが出来るじゃないですかやろうと思えば。あの感覚をモンスターに対して応用するんです」
”遠くからの視線に気づくってなんだよ怖すぎだろw w w“
”己は暗殺者か何かなのか?w w w“
”日常生活でこいつの背後に立ったら殺されそうだなw w w“
”やっぱ参考になんねぇw w w“
”おーい、新参ども満足したか?^^“
”真剣に質問したのに…“
”こっちは真面目に聞いたのにそうやってふざけて答えるんですね。神木さんにはがっかりです“
”神木さんには失望しました“
「なんでぇ!?」
わかりやすく説明したつもりなのに。
頑張って噛み砕いたつもりだったのに。
なんでいつもこうなんだ…
俺には少しでも参考になればって気持ちしかないのに…
いつも不真面目だとかふざけてるとか、冗談を言っていると思われてしまう。
何が原因なんだ…?
「た、探索を続けます…」
”あーあ、またこのパターンだよw“
”おい、新参。お前らのせいで神木がしょげただろうが責任取れよ!“
”神木拓也に探索者の質問はNGな。お互いにいいこと何一つないぞ“
”神木拓也の探索なんて参考になるわけないだろw w w“
”懐かしいな…俺も昔はあっち側だったのに…フフ…“
せっかく一生懸命説明したつもりだったのにまた不真面目だとか思われた俺は、肩を落としながら下層の探索を続ける。
下層はさっきまでひっきりなしにモンスターが出現していたのが嘘のように、1匹もモンスターが出てこなくなっていた。
「やっぱりイレギュラー…」
これもダンジョンで起こる異常事態の一種なのだろうか。
そう思っていた矢先のことだった。
「ん…前方に気配…ええと、三つ…いや、四つか…」
ダンジョンの通路の向こうに俺は気配を感じ取り足を止める。
かなり強い気配だ。
それこそあのイレギュラーで遭遇したリトルドラゴンの時に感じた気配と同種のものを感じる。
…まさかイレギュラーで深層のモンスターが4体も出てきたのだろうか。
だとしたら少し厄介になると言わざるを得ないが。
「いや、違うか…」
しばらくして、コツコツと幾つもの人の足音が聞こえてきた。
どうやら気配の正体はモンスターではなく人間だったようだ。
おそらく俺以外の探索者だろう。
「おいおいおい、みろよあれ」
「えー、嘘。本当に?」
「む?まさかあれは…」
「もしかして〜?」
“お?誰か来たんか?”
“誰や?”
“人の声が聞こえてきたような”
“他の探索者か?”
“下層に潜ってるってことは相当なベテランだと思われ”
「ん?」
前方からそんな声がしたと思うと、暗闇の中から四人の影が姿を現した。
“え…あれは…?”
“ファーw w w”
“大物きたぁああああああ!!!”
“黒の鉤爪クランじゃね!?”
“マジか!!黒の鉤爪やんw w w”
「え?なんですか?どうかしたんですか?」
四人の姿が映った途端に、コメント欄が一気に盛り上がる。
10万を超えた同接が10万5000…10万6,000とどんどん増え始める。
なんだろう。
あの四人は有名人か何かなのだろうか。
「神木拓也じゃーん!!」
「マジ本物!?ひゃはっ。すげぇ!!!」
「奇遇だな。まさかこんな場所で会うとは」
「神木拓也今日このダンジョンに潜ってたんだぁ。へー。まさかこんなところでバッタリあっちゃうなんてねー」
「え…?」
四人が俺を指差して口々に名前を言ってきた。
どうやら俺のことを知っているらしい。
「あの…誰ですか?」
「うわ、ショック…うちらのこと知らないんだ…」
「はぁ?冗談だろ神木拓也ぁ。てめぇ探索者やってるくせに俺たちのこと知らねーのかよぉ?」
「えー、嘘。私たち神木拓也に知られてないのー?」
「それなりに活躍しているつもりなのだがな。どうやら期待の超新星は俺たちの存在を知らないらしい」
「…?」
俺に知られてないとわかるや、あからさまにショックを受けたり、ちょっと苛立ったような態度を見せる四人。
だが俺は本当にこの四人が誰なのか知らなかった。
「一応こうしてあったのだから自己紹介を。俺たちは黒の鉤爪。下層〜深層を主戦場とする四人ぐみの探索者クランだ」
そう言って一番前に立つリーダー格っぽい大剣を背負ったごつい男が右手を差し出してくる。
「お、俺は神木拓也です。ダンジョン配信者です…よろしくお願いします…」
いきなりで驚きつつも、俺は差し出された右手を握った。
黒の鉤爪。
そういう名前のクランらしい。
きたことがあったようななかったような。
“すげぇ…w w wマジで黒の鉤爪やんw”
“おい神木!!こいつら超有名探索者クランだぞ!!”
“神木マジで知らないのかよw w w”
“探索者なのに黒の鉤爪知らないとかマジかよw w w”
“まあ、前にこいつ、ダンジョン配信者には興味あっても探索者自体にはあんまり興味ないって言ってたしな…”
“まぁ、神木レベルの実力者なら眼中にないって言ってもギリ許されるな”
“いいなー…雅之様と握手…”
“すげー。黒の鉤爪の雅之だ…”
チラリと視線を移したコメント欄が一気に盛り上がり、怒涛の如く流れていた。
視聴者の中に、彼らを知っている人がかなりいたということだろう。
「俺はリーダーの日下部雅之という。神木拓也。お前の噂は聞いているぞ」
「は、はい…」
「深層のドラゴン、ソロで倒したというのは本当なのか?」
「い、一応…」
「ふむ…そうか…」
日下部雅之。
そう名乗った男が、まるで俺を見定めるように目を細める。
「おいおい、本当かよ!?こんな弱そうなのにソロでドラゴン討伐!?」
俺が日下部意味ありげな視線に戸惑っていると、いきなり日下部後ろからそんな声が聞こえてきた。
「流石に冗談だろ!?俺でもソロで深層の竜種討伐なんて無理だぜ。この佐々木竜司様でもよ」
そう言いながら前に出てきたのは、金髪で背が高く、目つきが鋭いチャラそうな男だった。
腰に下がっている装備は、手頃な両手剣。
日下部よりも前に出てきてジロジロと不躾な視線で遠慮なく舐め回すように見てくる。
「やめないか、竜司。失礼だぞ」
「はっ…こいつ歳下のペーペーだろ?失礼もクソもあるか」
佐々木竜司。
そう名乗ったチャラそうな男は、リーダーの日下部に嗜められても、引かなかった。
好戦的な笑みを浮かべながら、俺をジロジロ
見てくる。
「動画見たけどよぉ?あれよくできた合成動画じゃないのか?CGとか使ったんだろ?お前に本当にソロでドラゴンが討伐できるなんて思えないんだが?」
「え…そんなこと言われても…」
突然そんな難癖をつけられ、俺はどうしていいか分からずに戸惑ってしまうのだった。
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