【悲報】売れないダンジョン配信者さん、うっかり超人気美少女インフルエンサーをモンスターから救い、バズってしまう
taki
第26話
それから二週間が経過した。
(なんで俺同接維持しちゃってるんだ…?)
結論から言おう。
俺は万超えの同接をいまだに維持していた。
『グゲゲ…』
『グゲェ…』
『グギッ!!』
”ゴブリンやん“
”消化試合“
”瞬殺しちゃってー“
”ゴブリン逃げろ!!この化け物はお前らに勝てる相手じゃないぞ!!“
”これほど安心してみれるダンジョン配信もなかなかないのである“
“神木拓也の配信は下層に入ってからが本番だからな”
「ゴブリンが三匹ですね…倒します」
今日も今日とて放課後に始めたダンジョン配信。
配信を始めて十分。
俺はいつものように手早く上層を攻略している最中だった。
(数千人レベルまで過疎ることも覚悟してたのに……なんでこんなに人が来てくれるんだろう?)
薄暗いダンジョンの通路。
暗闇の向こうから現れてこちらに歩いてくるゴブリン三匹に一応気を払いながら、俺は頭の中でそんなことを考えていた。
下層でイレギュラーによって現れたドラゴンを単独討伐したのが今から二週間前。
あれから俺は現在に至るまで、ほぼ毎日ダンジョン配信を続けてきた。
体を休ませるためにダンジョンに潜らない日であっても、雑談配信などを行うことで間を繋いできた。
それは一重に、少しでも固定視聴者を確保したいという努力だった。
最終的に10万人を超える同接を記録した伝説の配信。
あの配信に来てくれた視聴者の中から10分の1、いや、100分の1でもいいから俺の固定視聴者にする。
そのために、平日だろうが休日だろうが、構わず毎日配信を続けてきた。
本当を言うと定期テストが近づいててそろそろ勉強とかに力を入れないとやばい時期なのだが、それでも俺は赤点取るリスク承知で学校生活を犠牲にして配信に時間を注いできた。
その結果……
二週間がたった現在でも、俺はダンジョン配信界トップレベルの同接を維持していた。
(一時的にバズっただけだし、徐々に減っていっても不思議はないと思うんだがな…)
確かに努力はした。
だがここまでうまくいくのは流石に想定外だ。
現在の俺の直近二週間の平均同時接続数は70,000人。
どんな配信…たとえ雑談配信であったとしても、毎回六万人以上の視聴者が俺の配信を訪れてきてくれている。
(配信界隈で努力が身を結ぶことってなかなかないんだがな…)
競争の厳しい配信界隈。
一時期バズりスターダムにのし上がった配信者が半年後には消えていてオワコンとすら言われなくなる……というそんな厳しい世界。
俺も桐谷を助け、ドラゴンを倒し、同接十万人越えを記録し、バズりにバズったものの、その後は徐々に人が減っていき、数ヶ月後にはすっかり過疎配信者になっていた……というルートに入っていたっておかしくはなかった。
だが結果として俺は高いレベルの同接を維持していた。
流石に十万人越えはあれ以来経験していないが、コンスタントに60,000人以上の同接を叩き出している。
登録者もなんの間違いか100万人を突破してしまった。
SNSのフォロワーも八十万人を超えている。
正直言ってここまでの成功は俺自身でさえ予想していなかった。
(俺はただダンジョン攻略してるだけなんだがな…)
何か変わったことをしたわけじゃない。
俺はこれまでやってきたようにただダンジョン配信を続けているだけだ。
機材だって……いまだにスマホのままだ。
手ブレがひどいし、画質も悪い。
…あの運営さん、収益化まだですか?
『グゲェエエエ!!』
『グギイイイイ!』
『グゲェッ!!』
“おーい、神木?ゴブリンもう目の前だぞ?”
“何ぼんやりしてんだ?さっさとゴブリンぐらい倒してくれよ〜”
“早く下層に行こうぜー。強いモンスターと戦ってるお前がみたいよ〜”
“流石に油断しすぎだろ〜”
“まぁ神木さんならゴブリンに攻撃されたところでダメージないだろうけど”
「おっと、すみません…考え事してました」
そんなことを考えていたら気づけばゴブリンが目の前に迫っていた。
俺は慌てて片手剣を構え直した。
“戦闘中に考え事…w。相変わらず呑気だなぁ…“
”余裕すぎるだろ…w“
“まぁ神木拓也レベルの実力だと上層のモンスターに対して気合いも入らないんだろ”
“片手間みたいな感覚で上層攻略してんやろな”
「えーっと…どの辺だろう?」
俺はすぐ目の前に迫りつつあるゴブリン三匹の前でしゃがんだ。
『グギィ!!』
一番手前にいたゴブリンが細い腕でしゃがんだ俺に攻撃をしてくるが、蠅の止まるようなスピードなので問題なく避ける。
「よし、見えた…!」
しゃがみながら、俺は攻撃すべき点を見つけた。
「ほいっ!!」
そしてその見つけた”点“に向けて片手剣による斬撃を放った。
斬ッ!!
スパパパッ!!
空気を切り裂く音と主に、斬撃が飛び、ゴブリン3匹が一気に切り裂いた。
体の一部を大きく欠損し、致命傷を食らった3匹はバタバタとドミノ倒しのように倒れていき、死体となって地面に転がった。
やがてダンジョンの地面が死体を吸収し始める。
”おー…なんか気持ちいいな“
”ゲームで連鎖するみてーに倒しやがったw w w“
”なんか綺麗すぎて芸術性すら感じる倒し方だったぞw w w“
”なんかただ雑魚と戦うだけじゃつまらないから、いかにして華麗に倒せるかを追求してないかこいつw“
”しゃがんでなんか探してたみたいですけど、何してたんですかー?“
「しゃがんでたのはですねー…」
俺は足を止めずにダンジョンの通路を進みながらコメントに返答する。
最近だとダンジョンを攻略しながら勢いよく流れるコメントを拾い、返答するなんてことまで出来るようになった。
慣れってすごいね。
「3匹の重なりを探してました」
”重なり?“
”どゆこと?“
”またわけのわからんこと言い出したぞ…“
”どう言うことですか?“
「ああ言うふうに縦一列に並んだモンスターだと、どこかに攻撃すれば同時に倒せる場所があるんですよね…それを探してタイミングよく攻撃するんです。そしたら同時に倒せます。効率がいいんでおすすめのやり方ですね」
”おすすめったってお前にしかできねぇよw“
”そんなことしてやがったのかw“
”相変わらず化け物w“
”もはやただモンスターを倒すだけでは飽き足らないと…?w”
”神木拓也最強!”
「別に舐めプじゃないですよ。本当にこっちの方が効率がいいんで……上層は早く抜けちゃいたいんです」
そう言いながら俺はチラリと同接を見る。
配信を始めて12分が経過している。
現在の同接は35,000人ほど。
大体いつもぐらいのペースで増えていっている。
これが上層を攻略する頃には40,000人。
中層を抜ける頃に50,000人。
そして下層を攻略し始めると60,000人から、70,000人に近い数まで同時接続が増える。
これがここ最近の俺の配信のパターンなのだ。
(毎日平均して七万人が俺の配信を見にくる…うーん、いまいち実感が湧かないんだよな)
同接ゼロでやってた下積み期間が長かったからだろうか。
自分が毎日これだけ多くの人に見られている実感がいまだに湧かない。
チャンネル登録者やフォロワーはいまだに日々数万人単位で増えてるし、海外にも多数の翻訳切り抜きが出回っている。
…ここまで順調だと逆に怖くなってくるぐらいだ。
「本当にいつも見てくれてありがとうござます」
気づけば俺は自然と、配信を見てくれている視聴者に思わずお礼を言っていた。
“いきなりどうした…?”
“どうした急に”
“お?突然どうした…?”
当然のように視聴者に突っ込まれる。
俺は頭をかきながら言った。
「いや…なんで俺なんかの配信をこんなに見てくれてるんだろうって急に思って…」
“そりゃ見るだろ”
“面白いからだぞ”
“お前強いしな”
”むしろ今お前のダンジョン配信を見ずして誰を見るんだ?“
”いつも思うがお前自己評価低すぎやぞ“
”うーんこの実力でこの自信のなさ…w。正直嫌いじゃないっすw“
”切り抜きが儲かるから!“
”神木先輩いつも切り抜き収益ごちです!“
「みんな…」
面白いから。
お前を見ずして誰を見る。
そんなコメントが流れて俺はちょっとジーンとしてしまった。
…若干現金な切り抜き師の連中のコメントも目に映ったけど。
まぁ概ねの視聴者が、俺の配信を楽しんでくれているようだった。
”神木拓也がデレた…w“
”息子みたいな感覚で見てます。年齢的にそのぐらいなのでw“
”これからも応援してます。頑張ってください“
”俺はすでにお前が配信を止めるまで見届ける覚悟でいるぞ神木拓也“
”神木拓也最強!神木拓也最強!”
“探索者なのでモンスターとの戦闘の参考にと見てます……神木さん強すぎてあんまり参考にならないですけどw”
「皆さんありがとうございます。これからもダンジョン探索毎日頑張ります。探索の参考に見ていただけるのも嬉しいです。聞きたいことがあればいつでも答えますので」
“俺は新たな語録が生まれる瞬間を楽しみに見てるぞ!w”
いや唯一その理由では見て欲しくないんだが。
上層を攻略する頃には同接は四万人を超えていた。
大体いつも通りのペースだ。
「上層攻略完了です…タイムは……20分です」
‘はっやw w w“
”攻略スピードやばいだろw w w“
”相変わらず化け物“
”ゲームのRTAでも見てるような感覚“
”あれぇ?俺たちが見てるのって命かかったダンジョン探索配信だよね…?“
“上層の雑魚モンスターでも群れに遭遇したらそれなりにやっかいだし、ほとんどの探索者がそれなりの安全マージンを確保しながら進むから普通はどんなに早くても一時間ぐらいはかかるはずなんだが…”
上層攻略にかかった時間は20分。
これはなかなかのタイムと言えるだろう。
最近では配信をしながらダンジョンを攻略することにもすっかり慣れたので、コメントの返信などで攻略が遅延することも無くなった。
割とテンポのいい配信を届けられていると思う。
…本当にあとはいい機材で配信をしたい。
運営さん、本当に収益化、よろしくお願いします。
「それでは今から中層に入ります」
“おいーす”
“頑張れー”
“中層もパパっと攻略してくれ〜”
中層に入ることを視聴者に一応宣言してから、俺は中層へと踏み込んだ。
『キチキチキチキチ…』
ブーーーーーン。
『ブモォオオ…!!!』
中層に入って最初に遭遇したのはダンジョンビーとオークの2匹だった。
「ダンジョンビーとオークが一匹ずつですね。仕留めますよ」
“ダンジョンビーにオークか”
“普通に厄介な組み合わせだよな”
“地上型と空中型の組み合わせは普通にだるいよな……普通の探索者だったら苦戦してる”
“まぁ、言うても一瞬なんだろうな”
“神木拓也のことだ。この厄介な組み合わせもそこまで苦戦しないんだろうな”
「まずはダンジョンビーから倒しますね」
違うタイプのモンスターが2匹出てきた時の対処は大きく二つ。
2匹同時に相手をするか、一匹ずつ倒すか。
俺が選んだのは後者だ。
「ほいっ」
ブォンと手を振って片手剣をダンジョンビーに投げつける。
ザクッ!!!
『キッ…』
ズガァアアアアン!!!
投擲した片手剣がダンジョンビーに一直線に飛来し、両断する。
二つになったダンジョンビーは、そのまま地面にぼとりと落ちた。
そしてダンジョンビーを両断した片手剣は、轟音と共にダンジョンの天井に突き刺さる。
“いつもの”
”毎回思うけどこの倒し方いかれてるよなw w w“
”これぐらいじゃ驚かなくなってきてる自分が怖いw w w“
”おい神木…お前のダンジョン配信見たあとだと、他のダンジョン配信が物足りなく感じるんだよ…どうしてくれんだ…?“
”ダンジョン配信愛好家が神木に依存するサイクルだよな。一度神木の配信を味わってしまうと、他のダンジョン配信では満足できない体にさせられるんだ。で、神木の配信を見ずにはいられなくなる“
”麻薬依存の原理やん”
”神木拓也の配信は麻薬だった、ってこと!?“
「人の配信薬物呼ばわりはやめてください」
”見られてたw w w“
”やべばれたw w w“
”戦闘に集中しろよ神木w w w“
”えー、コメントを見る余裕もあります、と“
「よっと」
何やら俺の配信を麻薬呼ばわりしている視聴者たちにツッコミを入れつつ、俺はジャンプして天井に突き刺さった片手剣を回収する。
『ブモォオオオオ…!!』
「そんでもって、そのまま…」
そして空中で回収した片手剣を握り直し、落下の速度を利用して真下にいるオークを頭蓋から一刀両断する。
ズバッ!!!!
「一丁あがり」
豆腐にナイフを通すような、少し気持ちのいい感覚が手に伝わってくる。
ダンジョンビー同様に二分されたオークが、左右に分かれて地面に倒れた。
すぐにダンジョンの床による死体の吸収が始まる。
“やべぇ、流れでいったw w w”
“全然苦戦してないやんw w w”
“おいおい、この間のダンジョン探索入門書に空中型と地上型の組み合わせは厄介なのでパーティーで挑むのをお勧めしますって書いてあったの、あれなんだったんだよw w w”
“神木拓也に普通の探索者の原理なんて当てはまるわけないだろw w w”
“なんか職人の流れ作業でも見ている気分や…”
「先に進みますね」
何やら賑わっているコメント欄をチラチラ見つつ、俺はダンジョンビーとオークの吸収されつつある死体を跨いでその先に進む。
“弓を使わなくても空中型を倒せるんですか!?どうやったんですか!?”
“探索者目指してます!!どうやって片手剣をダンジョンビーに当てたんですか…?動き早くて普通は無理だと思うんですけど…”
「えーっと、専用武器以外で空中型のモンスターを倒す方法はですね…」
探索者に関する質問がコメント欄にいくつか流れたので俺は歩きながらその質問に答える。
「こう…なんて言うかな…動きを読むんです」
俺の探索者講義はいつも意味がわからないと言われがちだからな。
俺はなんとか自分の中にある感覚を言語化しようと努める。
“動きを読む?”
“ほう”
“詳しく”
“お前ら…まだ懲りてないのか…”
”結果見えてるだろ…“
”次元が違いすぎて俺らごときがこいつから学べることなんて何もねぇよ“
「動きを読むって言うのは…その…先を読むと言いますか…こっちに動くんだろうなって…予想するというか…」
”そんなことできるんですか!?“
”ちょ、ちょっとよくわからないんですけど…“
“動きを読むも何も…ダンジョンビーの飛行速度早すぎて目で追うのもやっとなんですけど…”
「そ、そこまで難しくないですよ…?なんて言うかその…こうぐっと集中するんです、ぐっと。そうするとダンジョンビーの動きが止まって見えるようになるんです」
“は…?”
“はい…?”
“止まって…?”
“ほらなw w w”
“またわけわかんないこと言い出したw w w”
「グッと集中してほとんど止まって見えるぐらいにスローモーションになったら……次の動きも大体予測できるじゃないですか。羽の動きとか頭の向きとかで。大体そんな感じです」
“意味わかんないです…”
”スローモーションに見えるってなんですか…“
”どんな動体視力してるんですか…“
”あの…できれば私たちにもできるやり方をご教授いただけると…“
”だから言ったろ…?w“
“神木拓也の配信は参考にするもんじゃねーよ。いい加減学べよw w w”
「こ、これ以上説明はできないです……本当にそれだけなんです。グッと集中するんです。そうするとダンジョンビーの動きがスローモーションになります…それで動きを読んで剣を思いっきり投げるんです…本当にそれだけです。誰でもできると思います」
“いや出来ねぇよw w w”
“できるわけねぇだろw w w”
“なんだよ集中するとスローモーションに見え始めるって…w w w…お前だけ別次元に生きてるだろ”
“真剣に質問したのに……なんだか神木さんのこと嫌いになりそうです”
「き、嫌いに!?なんで!?」
めっちゃ頑張って説明したのに、なんか知らんが嫌われてしまった。
俺はへなへなと肩を落とす。
“あーあ、しょげてら”
“おい責任取れよ新参”
“これでわかったろ新参ども。神木拓也は参考になんねーんだよ”
“おい神木さんが落ち込んでるだろうが!どうしてくれるんだ!!”
「先に…進みます…」
何が悪かったのだろうか。
なるべく参考になるように、自分の中の感覚をうまく言語化して噛み砕いて説明したつもりだったのに…
俺が肩を落としながらも歩みを再開させようとした、その時だった。
うわぁあああああああああ!?
ひ、ひぃいいいいいい!?
誰か助けてくれぇえええええ!?
ダンジョンの奥からそんな声が聞こえてきた。
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