第37話 勝てばいい・・・
「ポール、緑地エリアに着いたわよ。この辺で狩りをした方が見晴らしがいいわよ」
「いや、もっと奥の方がいいのだよ」
「奥はダメよ。20㎞を越えると禁止エリアになるのよ。禁止エリア付近での狩りは良くないわ」
「問題ないよ!この辺りはパンジャマン達が狩りをするはずだから、できるだけ離れた方がいいのだよ。今回は僕に任せてね」
「サミュエル、どうする?」
レアは不安げに尋ねる。
「今回はポールに任せてみよう」
サミュエルは静かに答える。
「サミュエル、なんだか元気がないみたいだけど、どこか体調が悪いの?」
「大丈夫だよ」
レアはサミュエルの言葉に少し違和感を感じた。
『今日のポール君は気合が入っているわ』
いつも大人しいポールが自分から積極的に意見をするのを見て、私はポールの絶対に勝負に勝つという意思を感じていた。しかし、レアはサミュエルの元気のなさとポールの判断に不安を抱いている。
「レア、どこで狩りをしようが問題ない」
レアの不安げな目をみてオレリアンが声をかける。
「そうね。でも慎重に狩りをしないとね」
ポールは馬車を走らせ緑地エリアの奥へと進んでいく。
「こんなことをしなくても俺はアイツに勝てるはずだ」
不服そうにパンジャマンは愚痴る。
「パンジャマン、勝負をするからには絶対に勝たなければいけない。相手はサミュエルだけじゃない、レア、オレリアン、ポール、あの3人の腕も相当なものだ。特にレアは天才だ。まともにやりあったら勝ち目はない」
「そんなことはない。武器も防具も新調した俺が負けるわけがない。コム、馬車をサミュエル達が向かった場所に走らせろ」
「わかった」
「パンジャマン、俺の立てた作戦を無視するのか!」
「同等の条件で勝たなけば俺の強さは証明されない。ポールの弱みを握って悪条件の場所へ誘導させて勝っても俺のプライドが許さない」
「パンジャマン、勝つには作戦が必要だ。それは魔獣を相手にする時だけじゃなく人間を相手にする時も同じだ。冒険者は柔よく剛を制すの精神が大事なのだ」
※柔よく剛を制すとは、どんな強敵でも緻密な作戦を立てる事によって、勝つことは可能であるという冒険者の中で使われる言葉である。
「俺は自分の力で勝ちたい。そうでなければ誰も俺を認めてくれない」
パンジャマンはエリオットの計画した作戦を無視して、緑地エリアの奥へと進む事を決意した。
「この辺で馬車を止めるよ」
「わかったわ。ポールは馬車で待機をしていてね」
サミュエル達は馬車を降りた。
『まってぇ~』
私もあわてて馬車を降りる。
「サミュエル、この辺りは木々が多くてブロンには不向きだわ。どうして、ここでの狩りを認めたの」
「ポールがここでの狩りを進めたからね」
「あなたもポールも少しおかしいわ。私に何か隠していない?」
「レアには隠し事は出来ないな。おそらくだけどポールはパンジャマン達に脅迫されているのだと思う」
「脅迫?」
「朝からずっとポールの様子がおかしく感じたから、ずっとポールの様子を伺っていたんだ。ポールが緑地エリアの奥へ行くと発言した時に疑問は確信に変わったよ。俺たちを悪条件の場所に案内させて、この勝負に負けるように誘導するように脅されていると思って間違いない」
『パンジャマン最低だわ』
私は心の底から怒りが込み上げてきた。
「あのプライドの高いパンジャマンがそんなことをするかしら?卑怯な妨害行為は覚悟していたけど、脅迫までするとは思えないわ」
『レアさん、パンジャマンは卑怯者なのよ!』
「おそらく主犯はパンジャマンじゃなく・・・」
「そんなことはどうでもいい。勝てば官軍負ければ賊軍だ。弱みを握られたポールが悪い。しかし、勝てばいいだけだ。勝てばポールがしたことも無駄であり、ポールのせいで負けたなんて言い訳もできなくなるだろう」
「そうだな。俺もオレリアンの意見に同意する。勝てばいいだけさ」
「そうね。勝ちましょう」
『ポール君の為にも絶対に勝って欲しい。負けたらポール君は罪悪感で一生苦しむことになるわ』
「でも、サミュエル。ここはもう緑地エリアというよりも森林エリアよ。ブロンで戦える場所じゃないわ」
※森林エリアは木が邪魔でブロンは不向きである。
「リュージュを使うよ」
「大丈夫なの?2種類の魔銃を使いこなすのは大変よ」
ブロン(アサトライフル)とリュージュ(ショットガン)を使いこなせれば、戦闘はかなり有利になる。しかし、1つの魔銃を使いこなせるようになるには10年は必要と言われているので、2つの魔銃を練習するのは合理的でない。
「レアもいろいろと試しているだろう。俺も、もしもの為にルージュの練習をしていたのだよ」
「わかったわ。でも、無理はしないでね」
「もちろんだよ」
「ルーを探しに行くぞ」
オレリアンが勇ましく声をかける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます