第35話 激突
次の日
「サミュエル、後ろから誰か着いて来ているわ」
『どうしよう!私の存在がバレたのかしら』
サミュエルの馬車の荷台に隠れていたが、レアに気付かれたかもしれないと、私は背筋が凍ったように冷え冷えである。
「おそらくパンジャマン達だと思う。いずれ何かを仕掛けてくるはずだからな」
『よかったぁ~私の事じゃなかったのね。でも、一安心とはいかないみたいね』
一難去ってまた一難とはこのことである。
「今日の狩りは中止にした方が良いかもね」
「そうだな。魔獣の世界での争いは避けた方が良い。ポール、引き返してくれないか!」
「え!引き返すの?」
ポールは驚いたように言っているが、なぜだか、違和感を私は感じた。
「そうだ。後ろからパンジャマンが付けているようなんだ」
「サミュエル、逃げる必要なんてないよ。冒険者同士が魔獣の世界で争うのは禁止されているから問題ないよ」
「そうかもしれないけど、パンジャマンは何をしでかすかわからない。みんなの安全のためにも引き返す方が良い」
「心配し過ぎだよ。それに、逃げてばかりだと何も解決しない。いずれは争うことになるのなら早い方が良いと思うんだ」
「その通りだ!サミュエル、あいつらが何を仕掛けて来ても問題はない。俺が全力でねじ伏せてやるぞ」
『何!何!何!何があったの?』
私はサミュエル達の会話に聞き耳をたてる。
「私は反対よ。注意事項の件も解決していないし、これ以上危険を冒すのは辞めた方が良いわ」
「俺もそう思う」
「サミュエル、それは本心なのか?ここで逃げたら、パンジャマンはお前を腰抜けだとまた悪口を広めるぞ!あいつはお前の強さに嫉妬している腰抜け野郎だ。きちんとけりを付けた方が良い」
「僕もオレリアン君の意見に賛成だよ。冒険者は意見が分かれた時は多数決、またはリーダーが決定することになっているよね。サミュエル、リーダーとしてではなく、サミュエルの本心を僕は聞きたい」
『はい!はい!私はポール君達の意見に賛成だよ。だから3対2だよ』
私は慌てて心の中で意見を言う。レアやサミュエルの意見はもっともだと思うけど、冒険者同士のケンカはよくあることなので、逃げてばかりでは解決にならないと私は思った。しかし、私の貴重な一票は反映されることはない。
「おれは・・・」
サミュエルは俯いて考え込む。
「サミュエル、私も売られたケンカは買うのが冒険者だと思うわ。でも、注意事項が解除されてからの方がいいわ」
「レア、それなら禁止されている北側エリアに行かなければいいだけだ」
「でも、何が起きるのがわからないのが魔獣の世界よ!危険な事はできるだけ排除したいのよ」
「レア・・・ごめん。俺は決着をつけたい。俺はトラブルを避けるために、何も言い返さずにパンジャマンの好きなように言いたいことを言わせておいた。しかし、その結果がこれだ。アイツは遠征に失敗してから、俺への敵意はさらに増幅している。もう、逃げるのは辞めて、はっきりとわからせてやる。パンジャマンには冒険者としての資質がないと」
『そうよサミュエル君!あんな腰抜けなどやっつけちゃえ』
私は毎日冒険者ギルドで張り込みをしていたので、パンジャマンがサミュエルや他の冒険者の悪口を言っているのは知っていた。悪口の内容はただの嫉妬でありくだらないものであった。
「本気なのね」
「ごめん。これ以上みんなに迷惑をかけたくないのだよ」
「わかったわ。リーダーの意見に従うわよ」
レアはかなし気な表情で了承した。
「ありがとう、レア」
サミュエル達を乗せた馬車は食用魔獣がメインに生息する常夜の大樹に到着し、サブギルドで入場許可を取り、魔獣の世界へ侵入する。パンジャマン達もすこし遅れて魔獣の世界へ侵入した。
「待って居たのか」
パンジャマン達が魔獣の世界に侵入するとサミュエル達が常夜の大樹の側で待って居た。
「俺に用があるのだろ」
サミュエルは鋭い眼光でパンジャマンを睨みつける。
「いつも逃げてばかりの腰抜けだと思っていたが、そんな目つきも出来るのだな」
パンジャマンは、薄ら笑いを浮かべながらサミュエルを睨み返した。
「おまえこそ、俺のいない所でしか吠えることが出来ない臆病者だと思っていたが、少しは度胸がついたようだな。今日は相手をしてやるから覚悟しておけ」
サミュエルは拳を握りしめてじわりじわりとパンジャマンに近寄っていく。
「俺は殴り合いのケンカも得意だが、冒険者なら魔銃の腕で勝負した方がよいだろう」
パンジャマンは190㎝とかなり巨漢の男だ。それに比べてサミュエルは175㎝とこの世界では平均的な身長であり、腕力ならパンジャマンのが有利である。
『よかったぁ~殴り合いならサミュエル君のが不利よ。でも魔銃対決ならサミュエル君の圧勝よ』
私はパンジャマンが怖かったので、一番離れた場所からサミュエル達を観察していた。
「そうか・・・せっかくお前が有利なケンカで相手をしてやるつもりだったのにな。魔銃だと俺の足元にも及ばないぞ」
「一度俺に勝ったくらいで大きくでるなよ。おれは3年前よりも格段に腕を上げている」
「お前が3年間で辿り着いた場所は、既に俺が12歳の時に到達していた場所だ。3年前の俺だったら互角の勝負ができたかもしれないが、おれは12歳の時よりもはるかに成長を遂げている。お前に勝ち目はない」
「お前の実力は親の金で勝ち得た力だ!しかし、俺は大金を手にしてアヴァランチを手に入れ、防具もチェーンメイルを手に入れた。この鮮やかな刺繍の金のサーコートも俺の強さを引き立ててくれている。今の俺には負ける要素はない」
「無駄話はそれくらいにして早く勝負の内容を示したらどうだ!」
オレリアンが二人の口論に割って入る。
「オレリアンの言う通りだな。パンジャマン、どんな勝負をするつもりだ?」
「シャッス・バタイユ(狩猟対決)だ。場所は緑地エリアで獲物はルーだ」
※ルーとは狼のような魔獣である。体長1mほどで茶色の毛で覆われている。鋭い牙と爪があり、凶暴な性格で人間を見ると襲ってくる。群れをなさずに単独で行動していることが多い。肉も食べれるが毛皮の方が高値で売れる。
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