第33話 新作


 『痛ぁ~い』



 私のおでこは真っ赤に晴れ上がった。


 ここで、私の【無】のスキルについてわかった事を説明しておきます。【無】のスキルは、神様から授かったギフトであり、この【無】のスキルによって私は完全に姿を消すことが出来るようになった。スキルなので、魔力を消費することなく絶えず発動することが出来る。効果は人間、魔獣、動物など、全ての生き物から姿を認識されない。そして、その効果は私が来ている服や装備品、魔銃にも適用される。ここで問題なのはどの程度が適用されるかである。私の調査の結果、適用範囲はその時の条件によって様々であるということであった。もし、私が扉に手を触れたとしても扉が透明になることはない。しかし、私が食事をするために肉を手にしたら肉は透明になる。ここで大事なのはその肉が完全に私の所有物であると認識された場合のみである。もし、お金を支払っていない食べ物を触れるとその食べ物は消えない。捨てられたクズ肉は所有権が放棄されたと判断されるので消えてしまう。

 【無】のスキルは神様から授かったギフトなので、その判断は神が下していると私は解釈した。

 次に姿は消えても匂い・魔力反応・気配・重さが残るかどうかである。答えは全て消えるであった。この前ラパンとの戦闘で足音を消して戦ったのは、まだ本当に重さが消えているか不安だったからである。半年間いろいろと調査した結果、私の存在を察知する要素は全て排除されると私は判断した。魔道扉が反応しなかったのは、魔力が察知されない事を証明している。



 私は魔道扉に反応しないので、次のお客さんが来るのを待つことにした。しばらくすると、2人組の冒険者が来店したので、私も一緒に中に入ることにした。



 「いらっしゃいませ!何をお探しですか?」



 冒険者に声をかけたのは店員のドリアーヌだった。ドリアーヌはポールの姉であり魔道具技師としてルーセン商会に入社した。ドリアーヌは魔道具技師と魔道武具のアドバイザーと両方の仕事を任されている。


 「防具を見に来ました」


 「防具ならこの通路の一番奥が防具売り場になっています。防具のご説明をいたしましょうか?」


 「気になる防具があれば声をかけます」


 「わかりました。じっくりと防具を選んでくださいね」



 ドリアーヌは笑顔でお辞儀をする。



 「噂通りの美人の店員だ。俺の好みだぜ」


 「俺、緊張して声がでなかったぜ」



 ドリアーヌは笑顔で優しい美人店員として評判である。ドリアーヌ目当てで来る冒険者も少なくない。



 「ドリアーヌさん、チェーンメイル売り場に来てください。お客様が説明をご所望です」


 「わかりました」


 『チェーンメイル!いいなぁ~私も欲しいなぁ』



 私の防具は最低ランクのクロスアーマーである。軽くて動きやすいが防具として耐久性は服を着るよりかはマシな程度である。



 『買えないけど、説明だけでも聞いてみよ』



 私はドリアーヌの後を追ってチェーンメイル売り場に向かう。



 「お待たせしました。チェーンメイルの説明をご所望でしょうか」


 「はい。最近までレザーメイルを使用していたんですが、ランクを上げてチェーンメイルにしようかと思っています」


 「失礼ですが、ルージュをお使いでしょうか?」


 「はい」


 「ルージュをお使いなら、チェーンメイルは最適だと思いますが、特殊な魔獣の皮を使用したレザーメイルも良いと思います。チェーンメイルは魔獣の世界で採取できるキィブヴル【魔獣の世界の銅】やフェール【魔獣の世界の鉄】を素材として使用しているので、元来あった銅や鉄のチェーンメイルより軽量で動きやすく評判でした。しかし、最近レザーメイルもいろんな魔獣の皮を使用して、耐久値のアップに成功しています。いまでは、チェーンメイルと同等の耐久値を誇るレザーメイルも作られるようになったのです」


 「本当ですか?」


 「はい。値段はチェーンメイルより高くなりますが、その分軽量で動きやすいので、今後はチェーンメイルよりもレザーメイルが主流の時代が来ると思います」


 「お金ならあります。そのレザーメイルを見せてください」


 「はい、こちらが最新のレザーメイルになります。今まで加工が難しかったクロコディル【ワニのような魔獣】の皮を使用していますので、耐久値はフェールのチェーンメイルと同等です。そして、クロコディルの革はマット加工を施していますので、最初は落ち着いた光沢ですが、長く使い続けるとさらに光沢を放ちます。オシャレなサーコートを着用するのもよろしいでしょうが、クロコディルのレザーメイルだけでもみんなの注目を浴びる事間違いなしです」


 「これ買います!」


 「俺も買うぞ」


 「レナード、マネをするなよ」


 「いいだろ。この黒の光沢、四角の模様、めっちゃかっこいいし、しかも新作だろ!パンジャマンばかり目立っているから俺も少しくらいは目立ちたいぜ」


 「色は黒以外にも青、緑があります。色を分けて購入されても良いかもしれません」


 「それなら、俺は緑にするぞ」


 「決まりだな」



 2人の冒険者はパンジャマンの仲間であり、コム(17歳 男性)とレナード(17歳 男性)である。



 『いいなぁ~私もクロコディルのレザーメイル欲しいなぁ~』



 私は2人の買い物を羨ましそうに背後から眺めていた。


 





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