第19話 出発
『ついに明日魔獣の世界に行くのね。不安と希望でなかなか寝付けないわ』
私は孤児院の倉庫にある物置棚の上に登って、ぼろ布を体に巻き付けて眠ろうとしたが、なかなか眠る事が出来なかった。
『私も冒険者ギルドの地図を見て予習をしようかしら』
なかなか寝付けないので地図とライトをエスパス(空間)から取り出した。
※ライトを発光させるエネルギーは魔力である。
私はライトを握りしめて魔力を流し込む。
『明日は岩場エリアでラパンの討伐ね。岩場エリアは常夜の大樹から南へ2㎞移動したところにあるのね。岩場エリアは2㎢ほどの広さで、大きい岩は3mほどあり身を隠すしたり、岩に登って高所から射撃することも可能みたい。でも岩場エリアは足元が悪く魔獣もあまり近づかないって書いてあるわね。あ!でも岩場エリアを超えた先に川があるので、ラパンは岩場エリアを通って川に行くみたい』
私は地図を見て岩場エリアの特徴と出現魔獣を調べていた。
『次はラパンの倒し方を確認しようかな』
地図には様々な情報が記載されている。
『え~と、ラパン(ウサギのような魔獣)は20㎝程の長い耳があり音に敏感。体長は50㎝ほどで皮膚は茶色、魔力濃度は低い。額にある青い瞳のような直径5㎝の魔核を破壊すれば倒せるのね』
※魔核の色で魔力濃度がわかる。青は一番魔力濃度が低い。
『注意点は、ラパンは俊敏でジャンプ力もあるので、高所に逃がさないように岩場の奥に誘導して倒したらいいみたい』
私は地図を見ていたら、いつの間にか眠たくなってきた。私は幅40㎝程しかない物置棚の上でいつの間にか眠りに着いていた。
「おはよう、サミュエル!」
「おはよう、レア」
雲一つない青い空の下で二人はさわやかに挨拶を交わす。
「ポールはまだ来ていないのね?」
「そんなわけないだろう。もう御者席に座っていつでも出発できる準備をしているよ」
「そうなのね。後はオレリアンだけね」
「いや、レアが最後だよ」
「うそ!今日も早く来ているの?」
「そうだよ。でも、今日は一番最初に来たのがオレリアンだよ」
「ノルマルのデビュー戦なのに私が最後になるなんて・・・」
レアの顔が虚ろになる。
「レア、そんなに気を落とさないで、今日はみんな気合が入っているんだよ」
「私だって気合はマックスよ」
「レア、その意気だよ。みんなが待っているから繋ぎ場に行くよ」
「そうね」
集合場所はサミュエルの屋敷である。屋敷の敷地内には馬車を4台も停める事ができる繋ぎ場が設けられている。冒険者の必需品である馬車は、値段も高く初級冒険者が初めから手に入れる事は難しいので、最初はギルドからレンタル出来るぼろくて狭い馬車を使用する。しかし、サミュエルは親が使っていた年季の入った馬車を譲り受けていた。それでも、ギルドからレンタル出来る馬車とは格段の差があり、4人乗りで荷物を積めるスペースも広い。
「レア、おはよう」
「オレリアン、おはよう。今日は早いのね」
「目が覚めるのが早かったからな」
「緊張してるのね」
「ちがう!闘志がみなぎっているのだ」
「いい事よ。期待しているわよ」
「お・・おう。俺に任せろ」
オレリアンはかなり緊張している。
「レア、おはよう」
「ポール、おはよう。運転お願いするわね」
「馬車の運転なら僕にお任せあれ」
ポールはさっと頭を下げる。
「魔獣の世界でも期待しているわ」
「ハハハハハ。僕にお任せあれとは言えないかな」
「そんなことないわよ。本当に頼りにしてるわよ」
「がんばるよ」
「ポール、みんな揃ったし出発するか!」
「そうだね」
『まってよぉ~。私を置いてかないで~』
私はサミュエル達の待ち合わせ時間の10分前に到着したが、みんながいつもより早く到着していたので、慌てて繋ぎ場に向かって走っていた。
「出発進行」
ポールが元気よく声を上げて馬に走り出すように指示を出す。馬車の運転は、馬と御者を魔力が伝わる二本の紐で繋ぎ、スタートする時は魔力を流し込み、止まる時は魔力を遮断する。右に曲がる時は右の紐だけに魔力を注ぎ、左に曲がる時は左の紐だけに魔力を注ぐ。スピードを上げる時は魔力の濃度を濃くして、スピードを下げる時は魔力の濃度を低くする。サミュエルの馬車は4人乗りで馬は2頭で引かせている。2頭以上の場合は馬のリーダーに指示を出す事になる。
馬車が走り出した。ポールは敷地内なのでゆっくりと走るように指示を出す。
『ポール君、ダメ~~まだ動かさないでぇ~』
サミュエルの屋敷には2つの門がある。繋ぎ場に近くの馬車専用門と通常の門である。私は全力疾走して馬車を追いかける。
馬車は門を出るとスピードが増して行く。
『待ってよぉ~』
私は腕を大きく振り足を高く上げて馬車を追いかける。しかし、馬車は私の事なんか気に留めずにスピードを増して行く。
『嫌だぁ~私も連れていってぇ~』
私の目からは涙、鼻からは鼻水を流しながら必死に馬車を追いかける。
『置いてかないでぇ~』
私は心の中で叫びながら馬車を追いかけた。
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