第10話 射撃術
ルージュの射撃術の基本は3つある。1つ目はクラブステップ(カニ歩き)である。 これは左右に移動しながら魔獣を翻弄して射撃する方法。2つ目はクラブスコッター(しゃがみカニ歩き)である。これは左右に移動しながら射撃時にしゃがむ方法。しゃがむことにより、クラブステップよりもさらに魔獣を翻弄させることが出来る。3つ目はソテーステップ(ジャンプ撃ち)である。左右に移動しつつ射撃時にジャンプする方法。トリッキーな動きに魔獣はかなり翻弄され、なおかつ魔弾を撃ち降ろすことによって魔弾の威力が増す。
この3つの射撃術を基本として戦闘をするのがルージュの射撃方法である。しかし、これはあくまで魔獣との戦闘時の方法なので、昇格試験であえてこの方法をする必要はない。
「確実に合格する方法を選ぶべきだよ」
ポールはオレリアンの心配をしている。
「ポール、普通に試験を受ければ合格なんて楽勝よ。それをあえてクラブステップをするなんて素敵じゃないかしら」
レアは礼儀作法にはうるさかったが、実戦形式で試験を受けるオレリアンには好意的である。
「キューーン」
オレリアンがクラブステップをしていると、右からクレーが飛び出してきた。オレリアンは動きを止めることなく左右に移動しながら、リアサイト(照門)とフロントサイト(照星)が重なるように合わせ、クレーの軌道を予測してトリガーを引いた。この間約0,3秒である。
※魔銃の前方にフロントサイトという凸状の部品が、後方には凹状の部品があり、絵目線の上で凸と凹を重ね合わせるようにして狙いを定める。この照準器をアイアンサイトと呼ぶ。
「バン」
魔弾はクレーに直撃して破裂した。オレリアンは魔弾を発射した瞬間、リコイル(反動)によりフラムの銃口が30度ほど傾くが、素早く銃口を元の位置に戻し、左右に移動しながら、アイアンサイトでエイム(照準)を合わせる。
オレリアンは1セット目のクレーを全て破壊した。
「やるわね、オレリアン」
「当然だ」
オレリアンはクラブステップをやめることなく魔銃に魔力を装填する。実戦では魔獣を倒さない限り立ち止まる事は出来ない。なので、オレリアンは実戦を想定して、2セットが開始されるわずかな時間でも動きを止めることはない。
オレリアンの事を私は知っている。いや、この4人全員を私は知っている。それは4人とも私の元同級生だからだ。
オレリアンは、暴力的で口も素行も悪い人物だ。学校でも先輩後輩関係なく気に入らない事があればケンカをしていた。ケンカは素手での殴り合いがメインであった。オレリアンは背も高く腕力も強いのでケンカでは負けたことはないといつも自慢していた。素行が悪く暴力的なオレリアンはいつも1人で行動をしていたが、唯一彼と仲良くしていた人物がいた。それがレアである。レアはオレリアンとは幼馴染であり、オレリアンが頭が上がらない人物の1人である。学校ではケンカだけでなくスポーツも勉強も魔法もすべてトップクラスの実力があるオレリアンだが、レアには腕力以外は勝てなかった。オレリアンはスポーツ、勉強、魔法の成績ではいつも3位でありレアには1度も勝てない。そんなレアにオレリアンは嫉妬もするが尊敬もしていた。
私がこんなにもオレリアンの事に詳しいのは、人見知りでコミュ障の私だが、人一倍他人には関心があり、気になった人が居れば気配をけして尾行しながら素性を調べるのが、私の唯一の学生生活での趣味であったからである。
「俺が一番の成績でノルマルに昇格してやるぜ」
オレリアンがクラブステップをしながら昇格試験を受けたのは、レアよりも魔銃の技術が上だと証明したいからでもあった。
6セットを終えてオレリアンは1度も動きを止めることなく全てのクレーを破壊した。
「やったぜ」
満点でノルマルの昇格を決めたオレリアンはガッツポーズをして喜んでいた。
「おめでとう!オレリアン」
レアは優しく微笑んでオレリアンを祝福をする。
「今日は俺の勝ちだな」
オレリアンは胸を張ってレアに答えた。
「さて?どうかしらね」
レアは小悪魔のような笑顔でオレリアンに微笑みかける。
「次は僕の番です」
2番目に試験を受けるのはポールである。
ポールは愚直で優しい性格だが、物静かで学校でも目立たないタイプだったので、私はとても好感をもっていた。ポールは勉強熱心で成績も優秀だが、レアやオレリアンには一度も勝ったことはない。しかし、卑屈になることなくレア達を尊敬している。ポールはオレリアンのように射撃位置で動くことはなく、姿勢を正してフラムを両手でしっかりと持ち射撃体勢に入る。フラムは片手で持つことも可能だが、両手でしっかりと構えた方が安定性がありリコイルも制御しやすい。
「昇格試験で両手持ちかよ。だっせぇ」
オレリアンがポールを侮辱する。しかし、侮辱されても表情一つ変えずに射撃に集中する。
右からクレーが飛び出してくるが、ポールは姿勢を崩さずに正面にクレーが来る瞬間を見極めてフラムのトリガーを引いてクレーを破壊する。両手持ちなので銃口はわずかに動く程度ですぐに水平を保つ。ポールは無駄な動きをせずに、必要最小減の動きでクレーに魔弾を当てて破壊していく。
「さすがポールね。とてもきれいなフォームだわ」
「あんなの実戦じゃ意味がないぜ」
オレリアンは悪態をつく。しかし、ポールは気にせずに射撃に集中する。結果はクレー60枚全てを破壊して満点合格である。
「ポールおめでとう」
レアが祝福するとポールは恥ずかしそうに顔を赤くする。
「ありがとう」
ポールは小声で答えた。
「次は私の番ね」
レアはエスパスからフラムを取り出した。レアのフラムはピンク色で宝石が散りばめられていて色鮮やかにカスタムされていた。魔銃のデザイン、性能などは自分好みにカスタムすることができる。ノルマル昇格試験では性能のカスタムは禁止されているがデザインのカスタムは問題ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます