コミュ力0の私は、人と関わるのが嫌なので気配を消し続けたら、最強のスキル【無】を手に入れたようです!
にんじん太郎
第1話 天の声
そこには無数の死体の山が積み重なっていた。男、女、大人、子供、老人と関係なく、その町に住んでいた全ての人間がオーガの群れに襲われて食糧となった。
オーガとは体長2mを超す人型の魔獣である。見た目は人間と似ているが、頭に二本のツノが生えていて、口には鋭い牙がある。筋力は人間の数倍あり、頑丈な皮膚は剣を通さない。
「みなさん食事の時間です。国王陛下に感謝してから食べましょう」
「はーい」
子供たちが元気に返事をする。
ここはパステックの町にある孤児院。親を戦争、魔獣、盗賊などに殺されて、行き場を失った子供達が引き取られている場所である。この孤児院では5歳から14歳までの子供が100名ほど暮らしている。
孤児院は、国からの補助金と町からの支援で運営されていて、3度の食事に無償で学校にも通える優遇された環境下にある。しかし、孤児院が優遇されるには理由がある。それは、15歳になると強制的に王国騎士団に入団させられるからである。これは男女関係ない。孤児院出身者は従騎士見習いとして訓練されてから、危険な場所に送り込まれるので死亡率は高い。
私は10歳の時にパステックの町の孤児院に来ることになった。私は極度の人見知りで、人と会話をするのが苦手であり、出来るだけ人と関わらないように人目につかないように全神経をとがらせて生活をしていた。
「ソリテちゃん、ソリテちゃん、どこにいるの!食事の時間だからみんなと一緒に食べるのよ!」
私はみんなと同じように食堂の席には座ってはいないが、テーブルの下に座っている。でも、先生は私の存在に気付いていないようで、私を必死に探している。私は先生に声をかける勇気がないので、テーブルの下で気配を消してうつむいたままそっとテーブルの上に手を伸ばして食事をテーブルの下に降ろして食事をする。
「今日もソリテちゃん食事にこなかったわね」
「そうみたい。学校も休んでいるみたいなのよ」
「同部屋のアンリちゃんに聞いてみたら部屋にも戻っていないみたいなのよ」
「もしかして・・・脱走したのかしら?」
「考えられないわ。ソリテちゃんはまだ12歳よ。1人で生きるなんて不可能よ」
「そうね。でも、王国騎士団に入隊するのが嫌で逃げ出した可能性もあるわ」
私は学校にも毎日通っているし部屋にも戻っている。学校では常に目立たない場所で過ごし、孤児院に戻ると真っ先にベットの下に潜りこみ、誰とも関わらない努力をしていた。
しかし、いつしか孤児院では私の食事が用意されなくなり、私の部屋のベットには新しく入って来た孤児が使うようになっていた。
ベットがなくなった私は、孤児院の物置小屋に住むようになり、食事は食堂のあまり物を盗み食いするようになっていた。
『みんなと同じ寝床や食事を一緒にする必要がなくなったのは、私にとってはラッキーだったかも。これで、誰ともかかわらずに過ごせることが出来るわ』
注 『』はソリテの心の中の声であり、実際には声を出していません。
私は孤児院に勝手に住み着くネズミのような生活を送るようになっていた。でも、学業はおろそかにするわけにはいかないので、毎日学校には通っていた。学校では席に座らずに、教室の後ろにある掃除道具入れに隠れて授業を受けていたので、いつしか私の席はなくなり出席確認もされなくなった。
先生からも生徒からも存在を忘れられた私は満足していた。
『これで落ち着いて勉強に集中する事ができるわ』
今まで人の目線を気にして勉強に集中出来なかったけど、これで心置きなく勉強ができるようになって嬉しかった。
私は15歳になるまでの5年間、学校を一度も休むことなく出席したが、卒業証書を渡されずに学生生活を終えることになる。
※この世界では10歳から14歳までの5年間学校に通う。
私は15歳になったので王国騎士団に入隊することになる。もちろん私だけでなく15歳になった全ての孤児が入隊する。この孤児院には今年で15歳になる者は20名いる。
「皆さん、明日は王国騎士団の方が迎えに来るので、旅路の支度を済ませておくのよ」
「はい!」
みんな元気よく返事をする。
孤児院では王国騎士団に入隊することは、孤児としての使命であり名誉ある事だと教えこまれている。身寄りのない自分たちに居場所を与え、人間らしい生活を送らせてもらったのは国のおかげなので、国の為に人生を捧げるのは当然だと思っている孤児は多い。
※王国騎士団では、貴族出身者のみが騎士を名乗る事できる。平民である孤児は従騎士と呼ばれる。
『私も王国騎士団に入隊しないとね。でも、騎士団での共同生活は嫌だなぁ~』
私も王国騎士団に入隊する覚悟は出来ていた。しかし、共同生活をできるのか心配していた。
私はいつも通り物置小屋で睡眠をとる。明日は王国騎士団が迎えに来るので、準備はきちんと済ませていた。
「ソリテさん、あなたは10年間24時間休むこともなく自身の気配を消し、身を隠し続けました。そう、夢の中でさえもその努力を怠る事はありませんでした。私はそのひたむきな努力に感銘を受けて、あなたにギフトを授けました」
ここは私の夢の中らしい。私はいかなる時でも良好な対人関係を保つために、人との接触を避けている。それは、夢の中でも当然である。夢の中だと油断したら実際は現実でした・・・なんてことも想定されるからである。
私は夢の中でも孤児院に居て、誰にも出くわさないように屋根裏で身を隠していると、怪しげな声が聞こえたのであった。
※ 近況報告にてソリテのイメージイラストを載せています。
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