第176話 襲撃

翌朝、護衛の騎士ペレイラとボンドに先導されながらヴァレット家の馬車が王都を出ていく。来た時と同様、クレイとルル・リリも騎馬で着いて行く。門を通って入ってきたので、ちゃんと門を通って出ていく必要があるので仕方がない。入城記録があって出城記録がないのに姿を消したとなれば、転移ゲートを使って王都に出入りしていると王と宰相は考えるだろう。そしてそれは彼らにとっては歓迎できない行動となるだろうから、注意されてしまうかも知れない。余計な面倒はなるべく避けたほうが良い。


王都の周辺は見通しが良くなるよう障害物は排除され整備されているが、少し進めば森が現れ始め、いくつか小さな山も出てきて視界が妨げられる。


王都の近くなので多くないのだが、このような場所で盗賊に襲われる被害もたまにある。犯罪を犯すなどして王都から逃げ出した逃亡犯が最初に逃げ込む場所だからである。


そんな峠道に差し掛かった所で、護衛騎士のペレイラが御者に止まるよう指示した。


ブランド 「どうした?」


ペレイラ 「それが…」


見れば、前方に転覆している一台の馬車があり、御者と思われる男が道の真ん中に立ち、手を貸してくれと叫んでいた。


警戒するペレイラ。馬車のトラブルのフリをして潜んでいた盗賊が出てくるなどというのもよくある話なのだ。


だが、御者の男は必死で助けてくれと訴えている。


ペレイラ 「ボンドは残って警戒していろ」


ペレイラは一人で転覆している馬車に近付いた。


確認したところ、御者はヴァレットと王都の間を結ぶチャーター便の業者であった。(日本で言うなら個人タクシーか赤帽というところである。)身分証を確認したペレイラは、怪しいところはないと言う事で、ボンドを呼び、馬車を起こすのを手伝ってやる。身体強化を使える騎士ならば、馬車を起こすのも簡単である。


御者が馬車を確認するが、特に異常はなかったようだ。


何度も頭を下げる御者。いいから早く行けと言うペレイラ。道をその馬車が塞いでいるのでブランド達の馬車も前に進めないのだ。


そう言われた御者は慌てて馬車に乗り込み走り出す。だが…速度が遅い。


やはりどこか故障があったのかとペレイラが思っていると、馬車は止まってしまった。


当然後ろを走っていたブランド達の馬車も止まる。


ペレイラはどうしたのかと声をかけようとしたが、御者は馬車を降りると逃げるように走り去り、代わりにいかにも盗賊です風体の者達が現れた。


賊はどんどん増えていく。


振り返ると、背後にも数十人。挟まれ逃げ場はないようだ。


ブランド 「どうやら罠に嵌められたか?」


ワルドマ 「盗賊…に扮しているが、中身は違うだろうか…」


ブランド 「私も出よう」


ワルドマ 「私もやります」


護衛騎士 「いえ、我々だけで!」


ブランド 「まぁそう言うな。数も多いし、全員でちゃちゃっと片付けてしまったほうがいい」


この世界では、貴族は強い魔力を持っている。強い魔力を持っているから支配階級になったのである。つまり貴族は最も強力な戦力でもあるのだ。


そして、より強い魔力を持つ者ほど高位の貴族となる。ヴァレット家は子爵であるが、本当は伯爵級あるいはそれ以上の強い魔力を持つ一族なのである。


ワルドマ 「ヴァレット家の馬車を襲うとは、運のない奴らだな」


クレイ 「じゃぁ後ろは俺たちが引き受けよう」


クレイとルル・リリは魔導銃を取り出し構える。


ワルドマ 「しかし、盗賊にしては妙に人数が多いな…」


正確な数は分からないが、ぱっと見、前方後方合わせて百人以上は居るように見える。


これは闇烏が金で雇った破落戸ならずもの達であった。闇烏の精鋭がその中に紛れ込んでいるのだ。


状況的に賊で間違いないので、先手必勝とブランドが呪文を唱え始める。


(ブランドは強力な火属性魔法の使い手である。ワルドマはブランドほど強力な火魔法は使えないが、ブランドが使えない風属性の魔法が使える。)


ブランドは強力な攻撃魔法で盗賊たちを薙ぎ払ってしまうつもりだった。


だが、呪文詠唱が終わっても魔力が乱れて魔法はうまく発動しない。


ブランド 「…っこれは?!」


ブレアも本気であった。破落戸を集めてけしかけたところで返り討ちに合うのは目に見えている。当然、それなりの準備をしている。魔法封じの魔法陣を街道の途中に仕掛けておいたのだ。


ちょうど馬車がその魔法陣の上に差し掛かったところで上手く馬車を止めさせるために、個人馬車の業者を買収して利用したのである。


ワルドマも呪文を唱えていたが、やはり魔法が発動しないようで、焦っている様子であった。


そうしているウチに、盗賊たちから一斉に矢が放たれた。いつもなら、遠隔攻撃に対してはボンドが魔法障壁を張って対抗するのであるが、その魔法も発動しない。


それに気付いたペレイラが慌てて剣で矢を薙ぎ払う。


地球では、高速で飛んでくる矢を剣で薙ぎ払うなどというシーンが漫画や映画の中などにあるが、それは実際には不可能に近い事である。(いや、達人ならば条件が揃えば一本くらいは撃ち落とせるかも知れないが、並の剣士では無理であろう。)


だが、この世界の剣士は矢を剣で撃ち落とすなど簡単にやってのける。【身体強化】という魔法があるためである。


魔法封じの魔法陣の上ではあるが、体内にまでその影響は及んでいないようで、身体強化の発動は可能なようで、騎士達は飛来する矢を高速の剣閃で薙ぎ払っていく。


やがてすぐに矢の雨は収まった。クレイとルル・リリの魔導銃が機関銃フルオートモードで炸裂し、盗賊達を殲滅していったからである。


クレイとルル・リリは自動的に発動する魔法の盾オートシールドを装備しているので矢を避ける必要はない。三人の周囲で無数の半透明の盾が展開され矢を防いでくれるので、クレイ達は敵を撃つ事だけに専念できる。


だが、さすがに三人だけで前後に別れている百人規模の盗賊を殲滅するのに、少し時間が掛かってしまった。


そして降り注ぐ矢が多すぎたため、護衛騎士も腕や足に矢を受けてしまっていた。騎士は護衛対象であるブランドとワルドマを襲う矢を優先的に排除しようとしたため、自身に向かってくる矢を避けきれなかったのである。


騎士 「何、これくらい……」


矢を抜き、治療薬ポーションを掛けようとしたペレイラだったが、そのまま崩れるように倒れてしまった。


ブランド 「毒か…!」



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