第172話 一人でおさらい
城を辞し、帰路についたクレイ。とりあえず、今回は王都内にあるヴァレット家の屋敷に泊まっているので、そこに帰る事にする。
もう用は済んだので、ここで解散でも問題ないだろうが、そうするにしても一応ブランドとワルドマには断っておく必要があるだろう。
それに、ルルとリリを回収する必要もある。(もう二人もクレイの奴隷ではないのだから、自由にさせても構わないのだが、ついつい二人の保護者的振る舞いがクレイは癖になっているであった。)
王城で馬車を用意してくれると言われたが断った。【転移】を使えば一瞬で帰れる、というわけではなく徒歩である。
そもそも【転移】は秘密にしているのだ、人の目がある場所では使いたくない。王宮内では恐らく監視がついていると思われるし、街中でも偶発的に人に見られてしまうと可能性もないとは言えない。
なにより、クレイは前世時代から散歩が好きだった。なぜなら、考え事をするのには、散歩しながらのほうがよい。これは前世の地球時代からの癖であった。コードがうまく動かない時、散歩しながら考えると、ふと原因に気付いたりするのだ。
のんびり歩きながら、クレイは自分の能力についておさらいしてみる。今回の件は、反省点も多かったが収穫もあった。
クレイは今でも魔法を使えない(体内に魔力を生成する臓器がない)のだが、外からみれば普通に生活魔法は使っているように見える。それは、光を発生する魔法陣とクレイの生来のスキルが合わさって成立している。
クレイの
そして、そのコードの量はとてつもなく膨大である。魔法のプログラミング言語である【古代魔法言語】にはもう慣れたが、それにしても、魔法という現象は簡単には理解はできない。
クレイは主に、【亜空間収納】や【転移】などの空間魔法について解析を行ってきたが、実は解析し多少なりとも理解できたのはその外縁部の一部だけなのである。空間魔法の根幹部分に関しては未だブラックボックスのままであった。(※空間魔法とは、この世界そのものの成り立ちにも関わっている、言ってみれば神の領域であり、一人の人間の脳力では全てを理解するなど不可能なのである。)
とは言え、核心部分はブラックボックスであっても、それを活用する事はできる程度には解析に成功した。そして、魔法の動力源である魔力の供給元を書き換え、再コンパイルできるようになったのである。
そして、クレイのスキルには、コンパイル済みの魔法陣をライブラリに【ストック】しておく能力も含まれている。ストックした魔法陣はいつでも呼び出す事ができる。光魔法が使えるようになった事で、それを出力する事が可能になったのである。
また、自分でコンパイルしていない魔法陣もストックできる。これは魔導具に魔法陣を刻むスキルと近似した能力である。(魔導具は、器具に魔法陣を刻みつける事で製造される。)
光を発生する魔法陣。この魔法陣との出会いがクレイを救ったとも言える。この魔法陣は、暗い場所なら見える程度の淡い光を発生させる魔法陣である。そしてクレイにとって有り難いことに、この魔法陣は動力源を必要としないのであった。空気中にある微量な魔力を使って半永久的に発光するのだ。
ただ、光が弱いので(太陽光の下など明るい場所では光が弱くて見えない)、夜間にだけ見えるような限定的な装飾にしか使われていなかった。
※この世界には照明器具の魔導具が普及しているが、それは魔力の消費がかなり多めで、頻繁に動力源の魔石を交換する必要がある。
使用者本人の魔力を使う携帯型照明器具もあるし、道具なしに光を発生させるという魔法もある。だが、いずれもそれなりに魔力が必要となるのだ。
何より問題なのは、光の照明器具ではクレイは魔法陣を映し出す事ができなかったのだ。その光は強く周囲を広範囲に照らすが、繊細な線を描くのには向いていなかったのである。
クレイが曽祖父の倉庫で発見した自立型の光発生魔法陣は、夜にだけ光って見える特殊な絵画に使われていたのだが、この光を使ってクレイのスキルでストックした魔法陣を映し出す事ができたのだ。このおかげで魔力がないクレイでも擬似的に魔法を使えるようになったのである。
クレイはこの魔法陣を体に刻み、それを使用してストックした魔法陣を投影させる事で、魔導具という器なしに魔法陣だけでその現象を発現する事が可能になるのである。(ただし、魔法陣を投影するスクリーン代わりの何かしらは必要となるのだが。)
ただし、クレイが魔法を使えるようになるためにはもうワンステップ必要であった。それは、動力源の問題である。
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