第155話 射手返り討ち

今度のアンリの攻撃は、矢を三連続で放つ【連撃】である。


アンリは若い頃、的に一本目の矢を当て、その矢尻に二本めの矢を当てそのまま一本目の矢を割いてしまい、さらに二本目の矢尻に三本目を当てて割いてしまうというデモンストレーションを行っていた。


それと同じ様に、クレイに向けて三度連続で矢を放って見る事にしたのである。観察していると、クレイはどうやら小さなシールドで矢を防いでいるように見える。そのシールドは強力で、魔法攻撃を付与した矢でも防がれてしまった。だが、シールドはとても小さい。攻撃を分散すれば対応できないのではないかとアンリは予想したのだ。そこで、高速三連射を、頭・喉・心臓に分散して射る事にした。


だが、今回もアンリの攻撃は失敗に終わった。三連続攻撃にもクレイのオートシールドは三枚連続で発現、対応したのだ。


そして、アンリの攻撃はそれが最後となった。アンリの人生が終了となってしまったからである。


アンリは今回も、念を入れて魔法攻撃を付与した矢を使ったのだ。


そして、クレイのシールドは物理的な矢の攻撃を完全に防ぐと同時に、【魔法反射リフレクション】の効果で相手に攻撃魔法を反射した。


三本の矢にはそれぞれ、火・風・土の属性の攻撃魔法(ファイアーボール、ウィンドカッター、ストーンランス)が付与されていたが、その魔法が全て反射され、アンリに戻ってきたのだ。


まさかそんな事が起きると思っていなかったアンリは無防備のままそれを受けてしまい、絶命した。







クレイ 「あんな遠くから射っていたのか…」


その日までクレイは射手アンリの居場所を捉える事はできていなかったのだが、反射した魔法が命中した場所を見て、初めてそれを認識したのであった。


クレイは瞬時にアンリの居た場所(反射された攻撃魔法が着弾した場所)まで転移したが、三属性の魔法を全部まともに受けてしまったアンリの体は爆散しており、身元を示すようなモノは何も残っていなかった。(元々、万が一に備えて身元や闇烏に繋がるようなモノは一切身につけていなかったので、仮に死体が残っていたとしても証拠は何も見つからなかったのだが。)


ただ、今回の事でクレイはオートシールドの魔法反射機能は削除する事にした。反射した魔法が射手以外に当たって被害を出してしまうかも知れないと気づいたからである。今回はたまたま射線上に誰も居なかったので大丈夫だったが、もし誰か居たら……


ただ、魔法を反射できるのは役に立つ場面もあるはずなので、ミラーシールドとして、別途、任意に起動できるようにしてもらおうとクレイは考えた。




  * * * *




ブレラ 「アンリまでも返り討ちにあったか。まぁアンリは自業自得だが」


アンリは、攻撃が失敗した事をブレラに報告せず。独断で何度もクレイに仕掛けたのだ。一度失敗したら同じ手段で仕掛けるべきではない。これは暗殺者の鉄則である。それを守らなかったアンリは返り討ちにあって当然であった。


ブレラ 「まぁ、証拠を残さなかった点は褒めてやるか。しかし、ちょっとターゲットを舐めていた部分もあるな。自身の能力を過信して天狗になってるお調子者なら良かったんだが…。次は本気で行く。ドリーを呼べ!」




  * * * *




■ブラー親方の工房


ブラーが作った大きさの違ういくつかの歯車が噛み合ってくるくると回っている。


歯車の形についてはクレイが何度かアドバイスをした。


大変だったのは歯車の軸受部に使うベアリングであった。最初は小さなニードルベアリングを使って作り、上手く行ったので、それを鍛冶師に頼んで金属で再現してもらった。(元々高級馬車には軸受部に金属製のニードルベアリングが使われていたので、この世界での新発明というわけではない。ただ、極小サイズで作らせたのは初であった。また、歯車も最終的には金属で作ってもらう予定である。後に、この歯車とベアリングがこの世界にちょっとした産業革命を与えていく事になるのであるが、それはまた別の話。)


そしてついに、ブラー親方の工房用の旋盤が完成した。


巨大な重金属製のフライホイールがついており、さらにギアトレイン構造で、横に設置されているクランクに繋がっている。


クランクにはペダルがついており、自転車のように弟子がまたがって足でそれを回す構造となっている。(もちろんクレイが提供したアイデアである。)


旋盤の横についている巨大な車輪(フライホイール)を手で掴み、回してやる。木製の荷車の車輪に、重量のある金属を重りとしてたくさんとりつけたものである。


フライホイールが回転を始めたら、弟子が足で漕ぎ始め、回転がどんどん速くなっていく。(いきなり足漕ぎで回転させるのは結構しんどいのだ。)


そして、親方がセットされた回転する木材に刃物を当てると、キレイにターニングレッグが作れた。また、これもクレイのアイデアであるが、刃物を動かすための型を作り、同じ形のものを生産できる。


やがてブラーのカントリー調のターニングレッグは王都でじわじわと流行していく事になる。


また、作られた “旋盤” は大部分が木製であったが、クレイの助言で、各部パーツが鍛冶屋に発注された。パーツが徐々に金属製のものへと置き換えてられて行き、やがて本体も金属製のものが作られる。精度も徐々に高くなり、現代の旋盤に近いモノが作られ普及していった。これが、この世界の物作りの現場で不可欠な工具となっていくのだが、それは何十年も先の話。







ブラー 「いやー、お前は凄い! お前のアイデアは一体どこから湧いてくるんだ?」


旋盤の完成祝いと言う事で、ブラーがご馳走してくれると言うので、ブラー行きつけの飲み屋にクレイは来ていた。


今日はルルとリリも一緒である。流石に王都でのショッピングも飽きてきて、またクレイと一緒に行動するようになっていたのだ。


クレイ 「別に、この程度は誰でも思いつくだろう?」


ブラー 「いや、誰でもということはない。誰かがやっているのを見てしまえば簡単な事でも、最初にそれを思いつくのはなかなか難しいもんだよ」


クレイのアイデアはもちろん地球での記憶があるからだが、それは説明が面倒なので言わない。もし前世の、異世界の記憶があると言ったら、それはそれで問題になってしまうかも知れないので、クレイは秘密にしているが、確かに、アイデアは地球時代の模倣なので、あまり自慢する気にもならないのであった。もし、自分の名前が発明者として記されて行く事になると知っていたら、きっとクレイはやめてくれと言っただろう。


クレイ 「まぁ、なかなか面白かった。まぁ、今後、何かまた作りたいと思ったときに、相談に乗ってくれ」


ブラー 「おう、いつでも来い! 待ってるぞ! というか、お前! いやクレイ! 俺の店で一緒に働かないか?」


クレイ 「んー、それも面白いかも知れないなぁ」


ブラー 「そうか! よし! おい、酒をもっと持って来い!」


店の店員が酒の入ったジョッキを持ってくる。クレイの前にはお茶が置かれた。クレイも酒が好きではないが、付き合いなので一杯だけ飲んだのだが、その後はフルーツジュースやお茶にしている。


飲めとブラーにしきりに進められたが、そういうところは頑固なのでクレイはきっぱりと拒否した。


出されたお茶は、不思議な香りがした。地球で言うところのジャスミンティに近いだろうか。


クレイ 「ん? なんだこれ?」


クレイがお茶に手を伸ばしたところ、クレイの左目の視界にメッセージが浮かんだのだ。


【警告 毒物を検出!】


【警告 毒物を検出!】


【警告 毒物を検出!】


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