第100話 ヴァレット家の紋章付き

クレイ 「盗んだとか、まったく身に覚えがないんだが? なんでいきなりそんな話になってるんだ?」


ヤーマ 「通報があったんだよ」


クレイ 「誰がそんな通報したんだ???」


ヤーマ 「それをお前に教える必要はない」


だが、クレイは思わずギルドの受付カウンターの奥を見てしまった。すると、サブマスターのゴーンが気まずそうな表情かおをして、そそくさと奥へと引っ込んでいくところだった。


クレイ 「ああ…聞かなくてもだいたい分かった…」


ヤーマ 「…ふん。それじゃぁ大人しく武器を渡してもらおうか」


クレイ 「断るよ」


ヤーマ 「逆らうのか?!」


クレイ 「武器は冒険者の命だ。それをろくな証拠もなく出せと言われてはいそうですかと言えるわけないだろうが?


だいたい、逮捕せずに持ち物を見せろと言う事は、まだ任意調査の段階なんだろう? ならば拒否できるはずだ」


ヤーマ 「なっ、なぜ見せられない?! 何か疚しい事でもあるのか?! 力づくでやってもいいんだぞ?!」


クレイ 「ほう、力づくで? その権力行使に法的な根拠はあるんだろうな? なければただの強盗だぞ?」


ヤーマ 「きさまぁ…」


『やめろヤーマ』


ヤーマの背後から別の衛兵が現れた。


ヤーマ 「ポルトス班長!」


ポルトス 「確かに、現段階では強制ではない。まだ、協力のお願い・・・・・・をしているに過ぎないんだ、あまり強引なことをするんじゃない」


ポルトス 「…お前がクレイか? 俺は衛兵東隊第二班のポルトスだ。


クレイよ、確かに調査協力は任意なんだが…、街の治安維持のために協力するのは街の住民の義務だと思わんか?


別に取り上げようというわけじゃない見せてくれればいいだけだ。疚しいことがないなら構わんだろう?」


クレイ 「別に疚しい事はないが、それでも見せられないモノもあるのだよ。お前たちにだって守秘義務ってものはあるだろう? それを開示させるからには、相応の根拠と権限が必要だ。何か、それを強制できる確かな根拠があっての事なんだろうな?」


ポルトス 「……現段階では・・・・・根拠も証拠もない、ただ情報提供があっただけだからな。だが…


…お前が拒否した、それが根拠だ。何か怪しいと感じたら、職務質問をする権限が俺たちには与えられている」


クレイ 「だが、それも、あくまで任意。強制力はないんだろう? どうしても嫌だと拒否されたらどうするんだ?」


ポルトス 「そうだな……話してくれるまで、いつまででも・・・・・・、根気よく説得する事になる、かな?」


数人の衛兵達がクレイとルル・リリを囲むように移動してきた。


ポルトス 「もし無理に逃げようとして衛兵に怪我でもさせたら、その時点で即刻逮捕される事になる」


クレイ 「…やれやれ。…いいだろう。だが、ここでは話しにくい内容もあるから、場所を変えたい。奥に遮音結界が張られた会議室がある。そこで話をしよう」


ヤーマ 「話なら衛兵の詰所に来てもらおう!」


クレイ 「嫌だよ。俺はまだここに用がある。昨日査定に出した魔物の素材の代金を受け取ってないんだ。それともお前達がかわりに金を払ってくれるのか?」


ヤーマ 「金なら後でも受け取れるだろうが」


クレイ 「協力すると言ってるんだ、余計な手間を掛ける必要もないだろう?」


ポルトス 「…いいだろう」


では、とクレイが立ち上がる。ポルトスが頷いたので、衛兵達も一緒に動き出したが、陣形はクレイ達を囲んだままである。クレイは仕方なく、ゾロゾロと衛兵たちを引き連れたまま、受付カウンターに向かい、ロッテに声を掛けた。


クレイ 「ロッテ、奥の会議室を借りてもいいよな?」


ロッテ 「え? ええ、今は空いているからいいと思うわ」


クレイ 「ありがとう、すぐに終わる」


見ると、ドアの隙間を細く開けて、サブマスターのゴーンがこちらの様子を伺っていた。


クレイ 「……子供か」




  * * * *




会議室に移動したクレイ達と衛兵達。クレイとルル・リリ、そしてポルトスは座っているが、衛兵たちは相変わらずクレイ達を取り囲むように立っている。


クレイ 「さて、持ち物検査だったな? 見せてもいいが……見たものについては当然、守秘義務は守ってくれるんだろうな?」


ポルトス 「当然だ。ただ、盗品が出てきた場合は別だ」


クレイ 「盗品じゃないつーの!」


会議室のテーブルの上にマジックバッグから魔導銃を出して見せるクレイ。


ポルトス 「これは…」


ヤーマ 「見覚えがある、これは領主様が使ってた武器だろう、やっぱりお前がぬす―」


クレイ 「領主の魔導銃とはデザインが違うだろうが」


ポルトス 「…おいヤーマ、そうなのか?」


ヤーマ 「いえそれは…さすがに細かいデザインの違いまでは分かりません」


クレイ 「おいおい、見分けもつかないのに見てどうするつもりだったんだよ」


ポルトス 「う……む、まぁ、その、まずは話を聞こうと思ってな」


ヤーマ 「いや! 言い逃れに違いない! 正直に言え! コレは領主の屋敷から盗んだモノなんだろう?!」


クレイ 「盗んでなどいないさ。ヴァレット子爵家からも被害の報告は出てないだろう?」


ポルトス 「それは聞いてないが……む? これは…


どういう事だ?」


クレイ 「?」


ポルトス 「ここに、ヴァレット家の紋章がついているが?」


ポルトスは自分たちの鎧についているヴァレット家の紋章と、クレイの銃のグリップについていた紋章を見比べながら言った。


ヤーマ 「証拠が出たな!」


クレイ 「別におかしくもない。グリップ部分は俺が実家いえから持ってきたものを取り付けたからな」


ポルトス 「家?」


クレイ 「ああもう。面倒だから言うが、極秘事項だから漏らすなよ? ここの領主は俺の父親だ。俺は領主の息子なんだよ」


ポルトス 「む、すこ…?」


ヤーマ 「はぁあああ? 息子だと?! 笑わせるな! 見え透いた嘘を言うんじゃねぇよ!」


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