第78話 古代の地下施設
九年前の
洞窟の横穴に逃げ込んだクレイは、しかし魔物の爪で腹部を貫かれており、出血多量のため意識を失ってしまう。
この状態のままでクレイが目覚める可能性はなかった。
助けが来る可能性はないし、治療薬も治癒魔法もない。
だが、死ぬ間際、遠くなる意識の中、クレイは魔法陣の転移先を書き換え、コンパイルを実行していた。―――コンパイル後、自動実行させるように設定して。
スキルによるコンパイルはクレイが眠っていても自動的に実行される。もちろん、コンパイル終了前にクレイが死んでしまえばそれで終わりであるし、そうなる可能性のほうが高いとクレイ自身も思っていたのだが。
そして、そのまま意識を手放したクレイ。
後は死を待つばかりである。それからどれくらい経ったのか、やがてクレイの心臓は停止したのだが…
…その3秒後、コンパイルが終了した。
心臓は停止していたが、かろうじてまだクレイの肉体は生きていた。残り後1秒か、2秒かというタイミングであったが、まだ身体の中には魔力が残っている。それを使って光の魔法陣が発動、クレイの体の下に転移魔法陣が浮かび上がった。
* * * *
『5324年ぶりに、人間の存在を確認』
太古の昔から生き続けていたシステムが、クレイの肉体が転移してきたのを感知した。
『心停止状態を確認。緊急蘇生処置――』
『―生命維持システムに接続、蘇生開始――』
『―蘇生完了―――身体損傷部位の治療開始――』
クレイが転移した先はダンジョンの深層のそまた下にある、ダンジョンを管理している古代の施設であった。
それは、五千年前、人間をバックアップするために古代の超文明によって作られた。
人間が居なくなってもなお、長い時を待ち続けたその施設に、五千年ぶりに人間が訪れたのである。
施設は再び人間に奉仕を開始した。
* * * *
クレイ 「……知らない天井だ……なんてな。一度言ってみたかった」
意識を取り戻したクレイはすぐに状況把握を開始した。
自分がダンジョンの深層の洞窟で死に掛けていたのは憶えている。
死後の世界? いや、どう見ても実体がある、肉体がある。幽霊というわけではなさそうだ。
死後の世界も普通に物質や肉体がある世界であるという可能性もあったが。そもそも、一度転生を経験しているのだ、今回も別の世界に生まれ変わった可能性がないわけではないが……。
だが、現在の自分は赤ん坊ではない、大人の身体である。着ている服も、クレイの着ていたものだ。
つまり、何が起きたのかは分からないが、どうやら自分は助かったのだとクレイは判断した。
次に、自身の身体を確認するクレイ。確か大怪我をしていたはずだ。だが、失くしたはずの手も足も、普通にあった。他に怪我も特にない。助けてくれた誰かが魔法で治療してくれたのかもしれない。
周囲を確認するクレイ。
寝かされているベッドも、部屋も、妙にメカニカルであった。クレイの居た世界とは明らかに違う。どちらかと言えば前世の地球に近かったが、地球でもこんなSFチックな雰囲気ではなかったと思う。強いて言えば、地球の最先端の手術室なら近い雰囲気かもしれない。
『お目覚めですか?』
誰かが入ってきた。
見れば、美しい女性であったが、頭に獣耳があった。
クレイ 「獣人?」
『私は
クレイ 「人間ではないのか?」
エリー 「はい、あなたのお世話を担当することになりました。ご質問・ご要望があればおっしゃって下さい。何かお飲みになりますか?」
クレイ 「ああ……いや、その前に、ここはどこだ?」
エリー 「ここはリルディオンの救護室です」
クレイ 「リルディオン…?」
それからそのエリーという女性を質問責めにし、状況を理解したクレイ。
エリーは訊かれた事にはすべて答え、興味があるならと、様々な資料まで見せてくれた。
どうやらここは5千年前にあったハイテク地下施設だったそうだ。遊技場でもあり、訓練施設でもあり、災害時のシェルターとしても機能する地下施設ということらしい。
クレイ 「リルディオンの名がなんとなく残って現在のリジオンになっているのか…?」
どうやら “上” にあるダンジョンは遊技場と訓練施設、そして地下の施設への侵入を阻むトラップとして、このリルディオンによって作り出されているらしい。
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