第48話 魔法陣を纏う
夫人の年齢を確認すると二十七歳だそうだ。女性に年齢を聞くのはこの世界でも失礼な事なのは変わらないが、施術者の権限で患者の情報を知っておく必要があるとクレイは誤魔化した。
現在二十歳のクレイ。二十七歳の美女はクレイにはなかなか刺激が強い。もちろん晒しているのは腹部だけであるのだが。前世から含めて女性の肌に縁がほとんどなかったクレイは、妙齢の女性が肌を晒している姿にどうしてもドギマギしてしまう。努めて平静を装うクレイであったが、顔が赤くなっているのは気付かれていたかも知れない。
魔法陣を描くと言っても、いちいち手で描くわけではない。非常に緻密に作られている魔法陣をすべて手作業でミスなく描くというのは非常に難しい。魔導具を作るスキルを持った者は、転写というスキルを持っているのだが、残念ながらクレイにはそんなスキルはない。
そこでクレイは工夫して、光魔法を応用して転写する技術を編み出していた。光に反応して固まる、特殊な植物から抽出したインクを使い、クレイのスキル “クロネコ” に記録されているコンパイル済みの魔法陣を転写したい場所に光で投影し、インクを反応させて定着させるのである。
腹部に描くのは、クレイが実験してきた経験からくるものである。
最初は、描く魔法陣は一つだけにして様子を見る。
すると、ひとつだけでも徐々に魔力が溜まっていっているのをケリー自身が感じ取れたようだ。
特に身体に異常もなさそうである。
そこで、さらに魔法陣を複数描いてみたところ、かなりの魔力がケリーの体内に溜まっていくのを確認できたのであった。
どうやら、ケリーの体内の魔力生成器官は機能していないが、外から魔力を吸収すればそれを体内に保持しておく事は可能のようだ。
また、魔力が扱える体質ゆえか、魔力がかなり蓄積された状態でも、クレイのように発熱するというような事もなかった。
体質の違いは素直に羨ましいと思うクレイであったが、そこで羨んでも仕方がないとすぐに切り替える。
※当然、蓄積した魔力は使えばなくなってしまうのだが。保持できる魔力量自体はかなり多いようなので、時間が掛かるが24時間魔力吸収を続けて蓄積しておけば、いざという時にそれを放出するのは問題ない、人より回復が遅いというだけである。
吸収が遅い分は、魔法陣をたくさん描く事で補えるが、身体に描くにも限度がある。それに、魔法陣は肌の上に塗料で描いただけでは、擦れば消えてしまう。そこで消えないように皮膚に刻む必要がある。それは、クレイは魔力をチャージしてある魔石を使って瞬間的に光魔法の出力を上げ、高熱で焼き付ける、言わば焼印方式である。もちろん、微細な火傷となるのでかなり痛みがある。そして、消えてしまっては意味がないので治癒魔法や治療薬を使う事ができないので、痛みに耐えるしかないのである。
ただ、この方式の良いところは、いざとなったら高レベルの治癒魔法であれば消してしまう事ができる点であるとは言える。
焼印方式ではなく、入墨方式にしても良いのかもしれないが、それはクレイにはできないので専門家を呼んでもらう事になる。そもそもこの魔法の世界に入墨の専門家がいるのかどうかクレイは知らないのであった。
あまり体中に魔法陣の焼印があるというのも見栄えが良くないので、結局、腹部に二つ、背中に二つだけにした。
いずれは、もっと大量の魔力を吸収できる効率の良い魔法陣を開発したいとクレイも思ってはいた。そのために古代遺跡型ダンジョンに潜って古代遺物の魔導具の魔法陣を解析してみたいと考えていたのだ。
子爵家に逗留して数日様子を見たあと、クレイはヴァレットへと戻った。さらにしばらく様子を見て、ケリーに問題が出ないようであれば、その後、ケイトにも施術する話となった。
ただ、母の施術を見ていたケイトが不安そうな顔をしていたのが印象に残った。それはそうであろう、ケリーは大人だったので焼印の痛みにも黙って耐えてくれたが、ケイトはまだ6歳である。クレイも、幼女の下腹部に焼印を施術するのは気が引けるのだが、母親のケリーはケイトなら大丈夫、この子は強い子だからなどと言っていたが。
そこで、治癒魔法ではなく麻痺系の魔法や薬を使って痛みをやわらげる方法もあるとラーズ子爵に伝えると、子爵は次の時までに探して用意しておくと言ってくれた。
ここで一旦クレイはヴァレットに戻り、また冒険者活動をする事にした。
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次回予告
ダンジョンへ
乞うご期待!
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