第29話 奴隷の首輪を嵌められた子爵令嬢
パティ 「改めまして、私はパティ、こちらがパーテイリーダーのアレンよ」
アレン 「アレンだ、よろしく。どうやらお貴族様のようだが、敬語は苦手なのが冒険者だ、礼儀については大目に見てくれると助かる」
ヴィオレ 「分かっています、冒険者の方に護衛を頼んだ事もありますので」
トニー 「おれはトニー、あそこに居るのがノウズ。それから……」
ヴィオレ 「?」
クレイ 「ああ、俺はクレイ、彼らのパーティとは無関係な通りすがりの冒険者だ。ちなみに今日登録したばかりの新人なんで、頼りにはならないから。あとはベテランの先輩方に任せるよ」
アラン 「Aランクの魔物を一撃で倒す新人だけどな。バイソンの素材はどうするんだ? まさかあれも置いていくとは言わんだろうな? ゴブリンとは違って高く売れるぞ?」
クレイ 「あー、素材の分前が欲しいのか。なら全部アンタ達にやるよ。こういう場合は山分けにするんだろ?」
アラン 「おい、俺達はこれでもBランクのパーティなんだ。分前など要求せんよ。あれはお前が一人で倒したんだ。だから素材はすべてお前のモノだ」
トニー 「A級の魔物の素材だぞ? ゴブリンの百倍、下手したら千倍の値がつくかもしれんのだぞ?」
パティ 「まぁそれでも、マジックバッグのオークションの落札価格には遠く及ばないから、いらないと言うのも分からなくはないけど」
アレン 「というかお前にはアレをちゃんと処理する義務があるんだよ、冒険者だろう? 魔物の死体を放置しておけば血の臭いで他の魔物が寄ってくるし、死体がアンデッド化してしまう可能性もあるんだ」
クレイ 「捨ててくのもダメなのか……しょうがない、じゃぁ持って帰るとするか…」
アレン 「ああ、そうしろ」
ノウズ 「だがあの巨体、解体するにも一苦労だし、持っていくのも大変そうだな。仕方がない、手伝ってやるよ…」
クレイ 「ああ、それは大丈夫だ。俺にはマジックバッグがあるから」
クレイはバイソンの巨大な死体に近づくと、それを一瞬で亜空間に収納すると、手を一度挙げ、そのまま街へと向かって歩き出した。
トニー 「…あの量を収納できるのかよ、普通のマジックバッグじゃないだろ…」
パティ 「自分で作れるって言ってたわね……もしかしてすごい逸材なんじゃ?」
アレン 「スカウトしてみるか?」
パティ 「いいかもね! 私達は遠距離攻撃が苦手だから。ノウズ、ちょっとスカウトしてきてよ!」
ノウズ 「俺がかよ?」
パティ 「はやく! 行っちゃうでしょ! 私達は救助活動で忙しいのよ! あんた何も手伝ってないじゃない!」
ノウズ 「くそ……、おい待てよ!」
クレイ 「どうした?」
ノウズ 「お前? すこしくらい強い武器を持ってるからって調子に乗るなよ?」
クレイ 「別に調子にはのってないつもりだがな」
ノウズ 「ふん、まぁいい。ちょっと来い。アレン達がお前に話があるとさ」
ノウズに連れられて戻ってきたクレイであったが、アレン達は
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街に戻ってきた黄金の風のメンバーとクレイ。
アレン達が
ヴィオレの話をざっくりと要約すると、二人の母が死に後妻としてやってきた継母が、父親が不在の間に妹のケイトを奴隷商に売り飛ばそうとしたため、姉のヴィオレが助け出して逃げ出してきた、という事らしい。
パティ 「ちょ、継母にイジメられるなんてあるあるな話だけど、いくらなんでも奴隷に売り払うって酷くない?」
ヴィオレ 「妹は、ケイトと私は母が違いまして。ケイトの母、ケリーは平民なのです。一応私はラーズ家の嫡子なので手を出しにくかったのでしょう、先に平民の立場であるケイトを追い出してしまおうとしたようです」
ノウズ 「しかし、奴隷の首輪をつけられているのに、よく逃げ出す事ができたな?」
見ると、ケイトの首には既に隷属の首輪が嵌められてしまっていた。
ヴィオレ 「はい、契約書に義母がサイン済みで、ちょうど首輪を嵌められたところだったのです。それを見た私は無我夢中で魔法を放ってその場を混乱させ、妹を連れ出したのです」
トニー 「なるほど、隷属の首輪は嵌められたが、まだ何も命令を受けていない状態であったので、命令を受ける前に奴隷商の目の届かないところに逃げ出したというわけか」
パティ 「ギリギリのタイミングだったわけね…」
ヴィオレ 「でも、当然奴隷商人が怒って追手を差し向けて来ましたので、森の中に逃げ込んだんのです」
森の奥深くに入ったので追手から逃れる事はできたのだが、運悪くデビルバイソンの親子に遭遇。馬車に驚いた子バイソンを守ろうと、興奮した親バイソンが襲ってきて、必死で逃げてきたのだそうだ。
アレン 「だが、奴隷の契約書にサイン済みだったら、ややこしいことになりそうだな」
パティ 「違法契約でしょう!」
アレン 「だが、正規の書類がある以上、それを違法と証明するのは簡単ではないだろう」
パティ 「そんなの、ヴィオレの父親が契約を取り消させれば解決でしょ?」
ノウズ 「だが、その前に奴隷商がやってきて所有権を主張したら厄介だぞ。既に隷属の首輪は嵌められていて、奴隷契約は成立しているのだ。所有者登録された奴隷商が命じれば、隷属の契約魔法のためにケイトは逆らえない。死ねと言われたら死ぬしかない。ケイトを人質に取られているのと同じだ」
ヴィオレ 「そうなのです、そこで、父が戻るまで、この街で匿っていただけませんか?」
ノウズ 「奴隷商はしつこいからな。見つからない場所…どこがいいか…」
クレイ 「ああ、ちょっといいか? 確か、隣町のラーズ子爵は、この街の領主―――ヴァレット子爵の友人だったはずだ。ヴァレット閣下を頼ってみてはどうだ?」
パティ 「大丈夫? 逆に奴隷商に引き渡されちゃったりしない?」
クレイ 「大丈夫だよ、ヴァレット子爵はそんな事する人物じゃない」
アレン 「…それはよいかも知れないな。この街の領主様は領民思いと評判の方だ。事情を話せば力になってくれるかもしれん」
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次回予告
『お帰りなさいませ坊っちゃん』
「!?」
乞うご期待!
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