ヤンデレヒロインの闇落ちラスボス化ルート・バッドエンドからの、レベル1縛り最速攻略救済RTA -グレンツェル・レガリア-

ぴよ堂

第1話 ラスボスの、その先



――RPGの面白さって、なんだと思う?

 


 シナリオ? 

 レベルを上げて強くなること? 

 アイテムやモンスターを集める?


 どれも正解だと思う。

 正解は人それぞれあると思う。


 俺――来栖ルイの答えはこうだ。



 戦い。

 ――俺は、最高の戦いがしたい。

 

 だったら、スポーツや対戦ゲームをすればって?

 いやいや待ってくれ。

 俺は、ただ自分が戦うんじゃなくて、『最高の物語』の中で戦いたいんだ。


 現実の俺は、ハッキリ言って、まあダメなやつだ。

 勉強やスポーツは得意じゃない。

 人と良い勝負をできるような分野を持ってない。

 でも、RPGをしてる時は違う。

 ロールプレイングゲーム。

 俺はその、『ロール』の部分を、愛している。



 ――そして、今……俺は、最高の戦いをしていた。


 コントローラーを握る手が震える。

 じっとりと、汗が滲む。



「……ソル……、ソルティル・ヴィングトール……、本当に、強いな……」



 俺がプレイしているRPG《グレンツェル・レガリア》。

 そのラスボス、ソルティル・ヴィングトール。

 美しい金髪。妖艶なスタイル。

 そして、圧倒的な強さ。

 世界最高の『雷』使いにして、剣士としても最高クラス。

 七つしか存在しない『神器』の一つ、竜の爪牙で作った剣――《グレイスレイヴ》を持つ。



 《グレンツェル・レガリア》の特徴は、豊富な分岐がある。

 プレイヤーの選択次第で、様々なルートとエンドに派生していく。

 ヒロインやラスボスすら変わってしまう。

 

 今プレイしているルートは……。


 ソルティルの好感度を上げて、

 彼女と結ばれた後に……、



 ソルティルが闇落ちしてラスボスになる……という、最も鬼畜なルート。


 難易度的にも、シナリオのしんどさ的にも……、とにかくヤバいルートだ。



 だが……だからこそ、熱い。



 《グレンツェル・レガリア》は、アクション性もあるRPGだ。

 レベルもあるが、プレイヤーの操作次第でも、不利を覆せる。


 一つ使う技を間違えれば、そこで終わり。

 一つ操作をミスして、回避できなければ、そこで終わり。


 落ちれば奈落の、綱渡り。

 ソルティルが繰り出す剣閃、雷撃、どれもが致命となる。


 俺が操作するキャラクター・主人公のグリスが、ソルティルの一閃を弾く。

 

「これを防ぐか、グリス……ッ!」


 ソルティルが、金糸の髪を振り乱して叫ぶ。


 グリス――グリスニル・ヴェイトリー。

 

 グリスは、ソルティルとは正反対だ。

 まず、魔法が使えない。

 このゲームの世界設定において、魔法は『神からの加護』とされる。

 それが使えないということは、神の加護を持たないということ。 

 だから、グリスはずっと差別され、バカにされていた。

 

 ……でも、グリスは、諦めなかった。


 『加護がないので魔法が使えないこと』と、『魔力がない』ことは違う。


 ソルティルのように『雷』を操ることもできなければ、火や水も操れない。

 だが、『無色の魔力』を操作することはできた。

 誰でも持っている、個性のない『無色』。


 それでも、グリスにはそれしか武器がない。


 だから、グリスはそれだけを鍛え抜いた。


 魔力による肉体強化。

 それのみを追求し、『魔法』を一切使えないまま、剣技のみで、最強に至った。

 

 魔法・剣技、全てを極めた最強であるソルティル。

 剣技だけを極め、最強に至ったグリスニル。


 天才と凡才。

 正反対の二人が今、世界の命運を賭けて戦っている。


 たかが、ゲームだ。

 作り物だ。

 偽物かもしれない。

 

 ――でも、この気持ちは、本物だ。

 勝ちたい。

 世界を救いたい。

 ソルティルだって、救いたい。

 

 彼女は最初から、魔王として人類を支配したかったわけじゃない。

 いくつもの選択肢、分岐、悲劇……、そういうすれ違いを積み重ねた果てに、このルートに至ってしまった。

 魔王に、なってしまった。

 

 ――この戦いの果てに、なにがあるのだろうか?

 

 ソルティルを、殺してしまうのだろうか。

 救いはないのか。

 もう、彼女と幸せになれる道はないのか。


 わからない。

 それでも、勝たなければ、進めない。

 

 シナリオの中で、グリスはずっとソルティルに執着していた。

 それはソルティル側も同じだ。

 二人は勇者を育生する学園で、共に過ごした。

 お互いをライバル視して、競い合い、助け合い……。

 

 それでも、決裂した。


 グリスは、勇者になった。

 ソルティルは、魔王になった。


 人類の勇者と、魔族側の王となって分かたれても、二人は互いに、決着を求めている。



 もう、回復アイテムは、とっくに尽きてる。

 一撃喰らえば、そこでゲームオーバー。

 綱渡りは、続いていた。

 神経がすり減っていく。

 

 あと一撃……、あと一撃で、勝てる…………。


 もう少しだ……。


 これで終わり。

 エンディング、どうなるんだろうなあ……。




 最後の一撃を放つボタンを押そうとした、その刹那――……。



 あれ、意識が、遠のく……。

 なんだよ、いいところなのに。

 集中しすぎた? 

 こんな時に、寝落ち……?

 ありえない、だろ…………。




 ■



「…………どうなった……?」



 知らない天井……ではない。

 ベッドの上……ではない。

 

 青い空。

 めちゃくちゃ外。

 屋外。

 



「ちょっとグリスー? どうしたの急にボーッとしちゃって」



「え……?」


 なんだ、何がどうなって?



 俺は自分の部屋で、ゲームを……《グレンツェル・レガリア》のラスボス戦をやってて……。

 ソルティルとの戦いは……?


 今、目の前にいる少女は……、エイル・メングラッド――グリスの幼馴染である少女に似ている。

 似ているどころじゃない。

 そのものだ。

 本物……?

 

 ゲームでは、彼女のルートもあった。

 

 翡翠の髪をツインテールにしている、活発そうな少女だ。

 ソルティルよりも少し低い身長。

 しかしながら、身長のわりに、スタイルは良い。


 グリスが前衛なのに対し、彼女は後衛から回復魔法をかけてくれるヒーラー。

 いつもグリスを守ってくれる、頼れる幼馴染だ。


「……本物……???」

「……なぁーにぃ~? 学園にそんなに感動してるの?」


 俺は知っていた。

 エイルが着ている制服も、目の前に広がる巨大な校舎も。

 

 エシルガード王立勇者学園。

 《グレンツェル・レガリア》に出てくる学園で、シナリオの大半はここが舞台となる。

 

「グリス……?? どうしたの?」

「……なあ、エイル……今ってさ、七聖歴998年だよな」

「え? そうだけど」


 やっぱり。

 思った通りだ。

 俺やエイルのネクタイの色は赤。これは一年次に決まる。

 そして、青色のネクタイをしている上級生が、一年生を案内している。

 

 今日は入学式。

 シナリオが開始する日だ。

 《グレンツェル・レガリア》のプロローグ部分だ。

 

 そして……俺は、このゲームの主人公、グリスニル・ヴェイトリーになっている。


 どうなっている?

 部屋でゲームしていたはずなのに……。

 転生ってやつか……? 

 

 ……え!?

 結局エンディングはどうなるんだ!?

 …………気にしてる場合か!? 

 でも、気になる!!!


 ……そうか。

 この世界が本当に《グレンツェル・レガリア》の世界なら……。


 エンディングは、俺次第じゃないか?


 そんなこと考えてる場合かよ、ではあるんだけど……。

 それでも、思いついてしまった考えが止まらない。

 

 助けることができる。

 あの時……闇落ちルートで、戦うしかなかったソルティルを。


 今度は、闇落ちなんてさせない。

 ソルティルを魔王にさせない。

 

 そして、最高の戦いを。

 



 あの時の続きを、あの時よりも、もっと熱い戦いを。





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